第5話 父との再会
「私のお父さんってどんな人だった?」
「隆二君か?結婚する時に一度、一人で挨拶に来てくれたが好青年じゃった」
典江は家を出ていた為、しっかりと隆二を紹介された事は無かったが、結婚する相手の親に挨拶しない訳には行かないと典江に内緒で会いに来てくれていた。
「会ってみたいな。お父さんの居場所知らないの?」
「確か離婚した後に貰った手紙が家にあったはずじゃ」
遥子は吾郎に頼み、家に帰ったら見せてもらう事にした。
家に着くと吾郎はタンスの引き出しを開けて、隆二からの手紙を探し、遥子に手渡した。
『お父さんから、典江の事を頼まれましたが、もう限界です。離婚する事になりました。僕には典江を許容する度量がありません。せめてもの償いとして養育費を渡そうと思ったのですが、すぐに引っ越してしまい連絡も出来ません。もし、遥子が大きくなって、私に会いたいと言ってくれたなら私の住所を教えてあげてください』
それは手紙というよりも吾郎への謝罪文に近かった。
「隆二君は何度もワシに住所を教えてほしいと言ったきたが、典江に教えるなと口止めされていて教えられなんだ」
今まで父親の事を典江に尋ねても、どうしようもないクズとしか教えられて来なかった。しかし中学に上がり、母の性格を知ると教えられた通りの人なのだろうかと疑問を持つ様になっていた。
「私、お父さんに会ってくる」
手紙に書いてある住所のメモを取り、隆二に会う決心をした。
次の祝日、遥子は隆二に会うために、隣町の駅前に来ていた。
(まさか、ずっとこんなに近くにいたなんて)
遥子はこの1週間、会える嬉しさと、10年振りに会う緊張感で、ずっとふわふわしている。記憶にある隆二はとても優しい顔で、いつも遥子に微笑みかけていた。父に理不尽に叱られた事など記憶にない。ネットで住所を調べ、隆二のアパートに着くが、そのアパートは一人暮らし用の築50年は過ぎていそうな木造のアパートだった。
コンコン
遥子は胸の高鳴りを抑えて、隆二の部屋の扉を叩いた。
暫くすると、玄関が空き、隆二が顔を出した。久しぶりに見る隆二は無精髭がうっすらと生えていて、清潔感があるのはとても言えない風貌で、遥子の記憶をどれだけ辿っても一致しない。しかし、突如として涙が溢れてきた。
「お父さん?」
確信は無かったが、突如として溢れてきた涙に自分を信じて、消え入りそうな声で尋ねた。
「遥子、遥子か?」
(私の知ってるお父さんより大分老けてる)
隆二が立ち話も何だからと、隆二の部屋に遥子を迎え入れた。隆二の部屋は生活必需品以外何も無い殺風景な部屋だった。6畳の部屋の真ん中にテーブルが置いてあるだけ、ベッドも無ければ、テレビも無い。家というよりも宿泊所とでも言うのだろうか?只、寝泊まりする為のだけの様な部屋だった。
隆二の住んでいる部屋を一通り見回して隆二の方を向くと、大量の涙を流していた。
「お父さん、会いたかったよ」
遥子が隆二の手を握ると、隆二は膝から崩れ落ちた。
「済まなかった、済まなかった」
謝罪の言葉を連呼した。
「折角会えたのに、下ばかり向いていたら顔見えないよ」
ポーチの中からハンカチを取り出し、優しく隆二の涙を拭いてあげた。
その日は遥子にとって人生で一番幸せな日だった
(高校を出たら貯金して、お父さんと暮らしたい)
今まで会えなかった分、父との思い出をいっぱい作りたいと思う遥子だった。
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