第4話 典江という女性
二人がショッピングモールに着くと、遥子は洋服が買って欲しかった様で、吾郎の手を握って駆け足で「SENSE OF PLEASE」に向かった。
「好きな物買ってええからな。時間も気にせんでええ。女の子は選ぶのも楽しいじゃろ」
「うん。でも欲しい服は決まってるんだ」
そう言うと、この店で一番目立つ場所に置いてある明るい緑のショートカーディガンと深い緑のフレアノースリーブセーターを持ってきた。
「おじいちゃん、どっちが似合うと思う?」
「どっちも似合う」
「もーう。ちゃんと選んでよ」
「すまん、すまん」
吾郎は決して適当に答えているわけでは無い。目の前で煙草を吸われても、嫌な顔ひとつせず、吸っていて良いと言ってくれる、優しい孫である。例えそれがボロ切れだとしても可愛く思えてしまう。
(目の中に入れても痛くないか・・・)
吾郎は心の中でそう呟いた。
「両方とも買えばええ。それより試着はせんでええのか?」
「着合わせとかは、ネットで確認できるから大丈夫」
最近はブランドサイトで身長、体重別に着合わせが確認できるようになったのと感染症が広まった際に試着を嫌がる人が増えて若い世代で試着を嫌がる子達が増えた。
「遥子も試着が嫌なのか?」
吾郎が尋ねると遥子は首を横に振った。
「ううん、本当は試着したいけど、嫌がる人達の意見もわかるから」
「難しい世の中になったなぁ」
吾郎は最近の規制に次ぐ規制に息苦しさを感じていた。世の中の流れに従う人間が不自由を被り、声を大にして否定する人間の意見が尊重される事に、遥子達の将来へ不安を感じた。
買い物が終わり、喫茶店で食事をする事になり、席に座ると遥子が突然誤り始めた。
「さっきは、お母さんが怒鳴ってごめんなさい」
「遥子は悪くない。煙草を吸っていたワシの責任じゃ」
「でも、おじいちゃんの家でわたしが勝手に家に入って、煙草を吸うなは酷すぎる」
遥子は16歳にして考え方が下手な大人よりもへりくだれる。普通は勝手に家に入ってなど思えない。私が吸う空気に煙草の煙が入ってきたと考える。
「あれの煙草嫌いはワシのせいなんじゃ」
典江が高校生の頃に不意に振り返り、典江の腕に煙草のひが当たったのが原因だった。
「それ以来、自分の体にある傷跡は全て、ワシに付けられた傷と思い込んどる」
偶然とは言え典江を傷つけてしまった事を反省していた。
「お母さんらしい。あの人は、思い込んだら徹底的に否定する。お母さんと出掛けると恥ずかしいもん」
遥子は自分の事しか考えず、自分に不都合があると、相手が折れるまで許さない性格が大嫌いだった。
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