Phase 03 それぞれの死に様
【1人目の被害者 大坂亮一】
2001年1月10日。
大坂亮一は大阪城の外周をランニングしていた。
システムエンジニアと雖も、毎日の体力づくりは欠かせないのである。
鼻歌混じりで昨年のヒット曲である「LOVE 2000」を口ずさむ亮一。
そして、大阪城を2周ぐらいした時だった。
何者かが亮一の鼻と口を塞いだ。
意識を失う亮一。
切り刻まれる躰。
――気づいた時には、大坂亮一はバラバラ死体として大阪城公園のホームレス街の真ん中に置かれていたのだった。
【2人目の被害者 桜宮和子】
2001年1月10日。
その日の中学校は短縮授業だった。
子供たちを見送り、自らの事務作業を終えた桜宮和子は阪急電車で十三から梅田に向かおうとしていた。
当然、和子は浮かれている。
中学校教師と雖も、矢張りアルコールは躰を癒やすのである。
梅田で何を飲もうか。そう考えている時だった。
何者かが薬品で和子を気絶させた。
遠のく意識の中で、躰がぐちゃぐちゃにされる痛覚を和子は感じていた。
あぁ、私は死ぬのか。
――そして、阪急十三駅前に桜宮和子だったモノが放置されることになった。
【3人目の被害者 森宮匠】
2001年1月12日。
2つの猟奇殺人事件のニュースを見ていた森宮匠は、頭の片隅で梅田の再開発エリアの建築デザインを考えていた。
住之江自体が静かな場所であり、「大阪府の負の遺産」というレッテルを貼られていたコスモスクエアの近くに匠は住んでいた。
匠の中でデザインが閃く。
CADソフトにデザインを書き出していく。
これは会心の出来だ。そう感じた時だった。
何者かが匠の家に侵入してきたのだ。
最初は泥棒かと思ったが、どうも様子がおかしい。
そして、匠は薬品を嗅がされて意識を失った。
その後の記憶は覚えていない。
――それもその筈。森宮匠だったモノがWTCの空きテナントに放置されていたからだ。
【4人目の被害者 鶴橋千春】
2001年1月13日。
鶴橋千春は真面目な公務員である。
就職難と言われる昨今で公務員は人気の職業であり、千春は北区役所の事務員として働いていた。
千春の家は西九条にある。つまり、家に戻るには環状線の内回りで戻らないといけないのだ。
その日の勤務を終えた千春は、環状線に乗って西九条へと戻ろうとしていた。
しかし、混雑する電車の中で千春は何者かに薬品を嗅がされて気絶させられることになる。
全身黒ずくめ、そして混雑していた電車の中で行われた犯行にも関わらず、電車に乗っていた人にも、その人物像は分かっていなかった。
――そして、ハリウッドな遊園地のオープン予定地で、鶴橋千春だったモノが放置されることになった。
【5人目の被害者 寺田真澄】
寺田真澄は梅田の開業医である。
若くして大学病院から独立した真澄は、患者からの信頼も厚く、評判の良い内科医として人気だった。
2001年1月14日、真澄の元に黒ずくめの格好をした人物が現れる。
最初は患者だと思っていた真澄だったが、レセプト担当者が彼?彼女?に気絶させられたところを目の当たりにする。
黒ずくめの人物を取り押さえようとした真澄だったが、病院という立地が災いして睡眠薬を
そして、持っていた解剖セットで真澄の躰を切り裂いた。
――寺田真澄だったモノは、西成区の簡易宿泊施設の
【6人目の被害者 天王寺博史】
天王寺博史は大阪でも勢いを増しているIT企業の社長である。
ITバブルの波に乗るように、博史の会社も急成長。笑いが止まらない状態だった。
2001年1月15日、気分転換として難波の街を歩いていた博史は、
ネットに詳しい博史は、それが例のバラバラ殺人事件の犯人であると見抜いていたのだ。
「お前が例のバラバラ事件の犯人かッ!」
博史の叫び声も虚しく、その人物は
雑踏の中で黒ずくめの人物を追ううちに、日本橋の裏路地でその人物を見つけ出すことに成功した。
そして、博史が黒ずくめの人物を捕まえようとしたその時だった。
黒ずくめの人物は博史を
博史の鼻と口に薬品が嗅がされていく。
意識が遠のく。
なにか、躰がぐちゃぐちゃにされている感覚を覚えた。
――そして、天王寺博史は心臓にナイフを突き付けられて絶命した。
ちなみに、大阪府警から貰った資料によると、第6の事件以外で凶器は見つかっておらず、死体およびゴミ袋から指紋らしきものは一切検出されなかった。
「私の文章力でまとめるとこんな感じだ。少しは分かったか。」
「どの事件も陰湿ですね・・・。」
「少し気になるのは、第6の事件の天王寺博史だ。彼は他のバラバラ殺人事件と趣旨が異なっている。彼は道頓堀の目立つところに心臓にナイフを突き付けられた状態で発見されていた。ネットでの情報になるが、川を流れる死体は写メールやデジカメで撮った人も多いようだ。」
「確かに、いっちゃんねるを見てみるとその時の画像が多数アップされていますね。」
「デジカメや写メールの画質の限界で、詳しいことは暈けて見えているが、何れにせよ第6の事件が今までのバラバラ死体と趣旨が違うという点は間違いない。」
「もしかして、5人目までの犠牲者と6人目の犠牲者は犯人が違うとか?」
「その可能性はある。しかし、見せしめのために
「なるほど。麗子ちゃんらしい考え方ですね。」
「飽くまでも小説家の勘だよ、勘。そして第1の事件の容疑者リストへと話を戻そう。」
「大阪府警から貰った例のリストですね。」
「そうそう。私、そのリストで少し気になる点を見つけたんですよね。」
「なんですか?」
「容疑者リストの中に入っている京橋冬彦と桃谷詩織と西九条悦子、この3人は有名人だ。」
「有名人?」
「京橋冬彦は最近三宮や梅田でよくストリートミュージシャンとして歌っているのを見る。ライブハウスでも彼のライブのチケットは売り切れるほどの人気者で、ソニックミュージックからメジャーデビューの打診も出ている。」
「あぁ、三宮駅前でギター弾いているお兄さん!」
「そうそう。そして、桃谷詩織。彼女はFM802のDJで、朝岡博之や中山浩と並ぶ人気DJだ。もしかしたらHOT100で聴いたことあるんじゃないのかな。」
「日曜お昼のお姉さんか!しかし第5の事件って日曜日ですよね?」
「時間をよく見るんだ。犯行時刻は午前4時から5時と推定されている。HOT100の放送が12時からだと仮定しても犯行を行うには十分すぎる。」
「なるほど。道理で第5の事件だけ犯行時間がやけに早いと思った。これは桃谷詩織がクロと考えてもいいのでは?」
「いや、問題は3人目の有名人だ。」
「西九条悦子さん?」
「日本を代表する女優だよ。ドラマや映画で顔は見たことあるんじゃないのかな?」
「ああ、最近『劇場版ダンシング大捜査線』で日本アカデミー賞を受賞した女優さんだ!」
「ご明察。でも私は『ダンシング大捜査線』より少し前に放送していた月9の『ショート・バケーション』の方が好きだったけどな。そんな無駄話はともかく、この3人が怪しいと大阪府警に伝えるんだ。」
「それって、有名人だから怪しいって訳じゃないですよね?」
「もちろん、それも理由の一つではある。しかし、他に怪しい人物は見当たらないか?」
「私は大正光さんが怪しいと見ています。消費者金融勤務と書いていますがコレって所謂ヤミ金融ですよね。被害者は全員その消費者金融の債務者であり、金を返してくれないから殺したとか考えています。」
「その線もあり得るな。兎に角、容疑者リストを半分に絞り込めたのはでかしたぞ。」
こうして、私は絞り込んだ容疑者リストを大阪府警に郵送した。
【阿室麗子が絞り込んだ容疑者リスト】
・京橋冬彦 27歳。ストリートミュージシャン。
・桃谷詩織 34歳。ラジオDJ。
・大正光 38歳。金融会社勤務。
・西九条悦子 26歳。女優。
※福島篤史は事件発生時にNHK大阪のニュースで現場を中継していたので対象外。
僕の元に、阿室麗子から容疑者リストの返送を貰った。リストは僕たちが目星を付けた犯人から4人に絞り込んでおり、なおかつ6人の死体の様子を纏めたテキストまで付けられていた。
「さすが小説家。すごく分かりやすい。」
「これだけの資料をシンプルに纏め上げるなんて、
「彼女って、阿室麗子さんのことですか?」
「当然だ。もしかしたら兵庫県警との取り合いになるかもしれないが。」
「新堂警部、冗談が上手いですね。」
「僕は関西人だ。冗談が上手くて当然だろう。それはともかく、赤城刑事、神結刑事、容疑者リストの4人に事情聴取を行うんだ!」
「分かりましたッ!」
「ニュース速報です。大阪で起きている連続バラバラ殺人事件ですが、新たな死体が発見されました。発見場所は大阪市阿倍野区のフラット電機本社ビルの前で、被害者は人気漫画家の
――私たちがそのニュースを知ったのは、2001年1月18日の夕方のことだった。
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