第12話 《12》悪役令嬢は安心する
「……しまったわ!」
お母様の捕獲失敗。
まさか捕まえたと思った瞬間に残像を残して逃げ出されるなんて失態だったわ。あまりにくっきりした残像だったので反応が遅れてしまった。
「あ!奥様がベットの下に潜り込みました!」
ものすごい瞬発力で壁を蹴って逃げ惑うお母様の速さに目で追うのも一苦労だ。だが、お母様専属の特殊部隊……いや、メイドたちは負けじ劣らずの素早さでお母様に向かってロープを投げた。その輪がお母様の腕を捕らえ、一瞬の隙にベットの下からピンと張られたロープが伸びていたのである。
さすがはお母様専属部隊だと感心する。手慣れているわ。
「お母様~、ほぅら、怖くないから出てきて下さいなぁ~」
まるで綱引きでもしているかのように引っ張り合いになっているロープのその先に向かって間延びした声をかける。ここで焦ったりイライラした言葉をかけたらそれこそ逆効果なのだ。今のお母様は警戒心むき出しの野生の猫と同じだと心得なくてはいけない。
「お母様~、お父様からの手紙を預かっていますよぉ~。出てこないと読んじゃいますよぉ?お父様からのラブラブで甘々なお手紙の内容を朗読しちゃいますよぉ?」
ちなみに、お父様とお母様は大恋愛の末に結婚したと聞いている。お父様は未だにお母様にぞっこんだ。 娘の私から見ても恥ずかしくなるくらいのラブラブ夫婦である。
ロープが一瞬だがピクリと揺れた。その反応に反対側でロープを綱引きしているメイドはこくりと頷いた。
あともうひと押しだ!
「いいんですね?読みますよ?
……あぁ、愛しのマーリルシュエ(お母様の名前)。最近はゴタゴタが続いていて君の愛らしくも素晴らしい姿を見に行けていないが元気に屋根裏を闊歩しているだろうか?人見知りは相変わらずかい?もちろん僕以外の男に警戒して近づかないでいてくれるのは至高の喜びだ。君の美しくも儚くその素晴らしいくちび「旦那様ぁぁぁぁあぁあ!!」あ、釣れたわ」
ベットの下からスライディング気味で飛び出してきたお母様は私が読んでいた手紙をむしり取り頬擦りをしだした。人見知りの激しいお母様にとって、愛するお父様の存在は偉大なのである。
「捕まえたぁっ!」
「はっ!」
私はそのままお母様に抱き付き、羽交い締めにした。さすがのお母様も実の娘の羽交い締めから逃げる事はなく、やっと落ち着いてお母様と対面をすることができたのであった。
「もう、お母様ったら、知らない人がいたからって緊張しすぎて暗殺しようとするなんて……おっちょこちょいなんだから!ルークは私の従者で希少な治癒師なのよっ」
「エメリアちゃんが知らない人を連れていたからつい……。もう少しで急所をぶっ刺して即死させる所だったわぁ。まさか噂の治癒師だったなんて……ごめんなさいねぇ。エメリアちゃんに近づく男は殲滅してやろうと思っちゃって☆」
テヘペロ!と舌を出すお母様はなんともチャーミングである。人見知りと早とちりと緊張しぃなのがたまに傷だが、本来は可愛らしい人なのだ。ルークの事も納得してくれたみたいだし、これで一件落着だわ!
「ごめんなさいねぇ……ルークくん?だっけ?
ーーーーでも、エメリアちゃんに何かしたら……わかってるわよね?」
お母様がルークに謝罪するために近寄り、耳元で何か囁いたようだが……ルークの顔色が悪いのはどうしたのだろうか?
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