第13話 《13》従者は尋問される(ルーク視点)
翌日、オレは最大のピンチを迎えていた。(本人比較)
「“あなたがエメリアちゃんに中途半端に手を出しておいてまだ告白もしていない治癒師さんね?”……と、奥様が申しております」
「いや、あの、中途半端にってそれは……「いいから質問にお答え下さい」う、はい」
オレは今、3人のメイドに囲まれている。そして正座させられている。エメリア曰く「お母様専属特殊部隊」らしく、なんというか……正座している自分を上から見下げてくる視線が氷のように冷たく鋭い。もはやナイフだ。なんかもう、針の筵にいる気分だった。
「“それで、エメリアちゃんの事を本当はどう思っているのかここで答えなさい”……と、奥様が申しております」
またもやメイドのひとりがブリザードを纏った声でオレにエメリアの母親の言葉を告げた。もちろんこの部屋の中にその本人もいる。こっちをものすごい形相で見ている……5メートルくらい離れた場所からだが。やたらと背もたれの大きな椅子に座りこちらを射殺しそうな目で見ていた。
いくら人見知りだと言ってもディスタンスが過ぎる。つい昨日、エメリアに羽交い締めにされた後にオレに近寄り耳元で不穏なセリフを囁いていたではないか。別にあれほど近寄って欲しいわけではないがもう少し中間地点で会話をすることは出来ないのだろうか。さらに声が小さいので彼女がなにか発言する度にメイドのひとりが近寄りそれを聞き取ると、わざわざ戻ってきてルークに内容を告げてくるのだ。まぁ、視線には今にもルークを殺しそうな程に殺気が込められているのでその心情は手にとるようにわかるが。
まさかエメリアの母親に尋問されるとは思わなかったが、下手に逃げ出したり誤魔化すわけにもいかない。しかしまさか、
「“あの子が学園でどういった目に遭ったかは聞いているわ。婚約者に浮気された挙げ句に殺されかけ、体に消えない傷まで残るなんて女にとってこれほどの屈辱はないのですよ。旦那様からの手紙にはあなたの事を擁護する内容があったけれど……わたくしは認めませんからね。そんな、ちゃんとした告白もせずにエメリアちゃんを翻弄して反応を楽しんでいるようゲホッ!やだ、むせちゃったわゲホゲホ……とにかくそんな男にかわいいエメリアちゃんを任せられなひ!いひゃい!舌かんらったぁ!!”……と、奥様が申しております」
淡々と夫人が言った言葉を一言一句正確に伝えてくるメイドの仕事に対する姿勢に尊敬するが……むせたところとか、噛んだところは端折ってもいいのでは?おかげで夫人の殺気が少し和らいだ……いや!さらに増したぞ!なんか「よくもわたくしを辱めたわね」みたいな感じでオレを睨んでる!メイドに言ってくれ!
「「「さぁ、早く奥様の質問にお答え下さい」」」
3人でオレに威圧をかけてくるが、誰かひとりくらいあっちにいかなくていいのか?とも思うのだが、どうやら答えるまで威圧を辞める気はないらしい。
まさか、エメリア本人に言う前にその母親に告げるはめになるとは思わなかったが……。オレは意を決して口を開いた。
「……もちろん、エメリアの事が好きで「お嬢様を呼び捨てにするなんてその首掻き切るぞ、ゴルァ」……ご、御主人様をお慕いしております」
まさか巻き舌で脅されるとは思わなかった。メイドとはなんとも恐ろしい生き物である。と心底思った。オレは闇の力に囚われていた事もありそれなりに裏街道を歩いてきたつもりだ。エメリアに救われなければ今頃は捕まって死罪か、逃げ続ける犯罪者か……とにかくその辺のメイドなどに遅れを取るわけがないと自負していた。それなのに、このメイドたちは(夫人もだが)規格外過ぎる気がしてならない。まさかメイドに囲まれて威圧される日が来るとは……いや、まず普通のメイドは人を威圧しない。そしてなにより、ここのメイドたちもエメリア信者のようだ。公爵家本邸の使用人たちはどちらかというとオレに好意的だったが(それでもエメリアを泣かせたりしたら必ず囲まれるだろうけど)こちらの使用人たち(一部)は敵意むき出しである。
エメリアの父親、カーヴェルド公爵に物申したい。
「“細かい内容は省くけれど、あなたについては調査させてもらっていたわ。顔を知らなかったから昨日は(緊張して)つい殺しかけたけど……”」
ついで殺されたらたまったものではない。まぁ、オレだってエメリアを害する奴がいたらつい殺してしまうかもしれないのであえて突っ込まないが。
「“後始末の方はなかなか優秀ね。例のアレは旦那様からお褒めの言葉がありました。最初はまだ生かしているなんて……とガッカリしたけれどちゃんとしていたのには驚いたわ。不審な点は全くなかったんですもの”」
それがあの元王子の事だとわかる。あの元王子はエメリアの気持ちを確認して後にきっちりと事故死させていたのだが、最後の始末は公爵にも報告していなかったのにいつの間にか調べられていたらしい。
「……あっちの方は公爵がやってくれたんで、こっちはオレの担当ですから」
にっこりと
「“それで、エメリアちゃんの事が本心から好きだと言うのね?心から愛と忠誠を誓えるのかしら”」
「もちろんです」
「“もし偽ったら、どうなるかもわかっていての発言かしら”」
「わかっています」
そして、だんだんとメイドを通す公爵夫人との会話にも慣れて来た頃。夫人がぱん!と手のひらを打ち合わせ叫んだ。
「それじゃあ、いまからエメリアちゃんに告白してもらいましょうかぁ!!」と。
「へ?」
オレが間抜けな声をあげると、3人のメイドたちは無言のまま夫人の背後に行き、そのやたらと大きな背もたれ部分から誰かを引っ張り出してきた。
「……ご、御主人様」
「……っ」
そこから出てきたのは、茹で上がったタコよりも顔を赤く染めたエメリアだったのだ。
「エメリアちゃんはウブでボッチだし、他人からの好意には本当に鈍感よね。鈍感過ぎて心配だわ。誰に似たのかしら……」
「「「奥様じゃないですか?」」」
3人のお付きのメイドの言葉に首を傾げる公爵夫人。今は普通に接しているが、最初の頃は人見知りが発動してこのメイドたちとの交流も一苦労だった。主にメイドたちが。
夫であるカーヴェルド公爵からの手紙には、かわいい娘が初恋を拗らせているので相談に乗ってやってほしいと書かれていた。だが、この夫人も言わずもがな恋愛に関してはかなりのポンコツだ。夫との大恋愛も美談として伝わってはいるが、実際は秘境育ちの令嬢を口説き落としてここまで人間らしくした公爵の手腕あってこそである。公爵夫人の故郷……秘境の国に暮らす両親はそれでなくても他国とほとんど交流がないのに、さらにものすごく人見知りな性格の娘の将来を案じていただけに大国の公爵家に嫁ぎさらには孫娘の顔まで見れた事を奇跡のように喜んでいる。ちなみに誤解のないように言っておくが、秘境の者が全員天井裏を徘徊するわけでない。この夫人が特殊なのだ。
「まぁ、いいわ!エメリアちゃんが幸せになれるのなら喜ばしいことよ。
孫娘ラブのジジババ来襲の予感がするが、エメリアもルークもまだ知る由もない。
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