第21話 SIDE : 桜子

 私は佐々木桜子。中里家で家政婦をしてもう十年以上になったかな。家政婦をする切っ掛けは、近所だった中里家次男坊の春馬ちゃんが私の娘と仲良くなって、それから家族付き合いするようになってからの事。

 ある日、中里夫婦が仕事で忙しく、家の事がなかなか出来ないと私に相談してきた。その私はシングルマザー。原因は夫の浮気で私は慰謝料をたんまり貰って仕事もせずにのんびり暮らしていた。そんな生活に飽きたと感じ始めた時だったので家政婦をやる事にしたの。


 中里家族には三人の子供が居るが、三人共に素直でとてもいい子達。雅人さんは頭が良くて優しくて家族思いのナイスな男。でも私には少し退屈に思えるから合わないかな。

 真奈ちゃんは俗に言うツンデレってやつね。春馬ちゃんの事が大好きなクセに、いつも突っ掛かって行くのが可愛いの。春馬ちゃんが引きこもりになってからは無視してるようだけど、気にしてるのが丸判りなのよね。


 そして春馬ちゃん。この子はとても面白いわ。小さい頃からどこか達観した感じだったけど、人一倍に寂しがりやで思いやりがあるの。

 そして常に周りを観察して自分に被害が出ないかを考えながら行動していたわ。それは世間一般では「臆病」と言われるかも知れないけど私の考えは違う。


 彼は思慮深く慎重。そして賢くて機転が利く心優しい男。ちょっと誉めすぎかしらね。


 そんな春馬ちゃんが引きこもりになった事に私は少し驚いたの。自分の才能を上手く使えこなせなくて潰れてしまったのね。まあ、若いから仕方の無い事だと思ってあげるわ。


 私が家政婦をして十年以上。娘と中里家の子供を合わせて四人の子供の面倒を見るのはそれなりに楽しかった。でも十年以上家政婦をして、その子供達も大きくなってくると退屈になってきたのよね。


 私は子供の頃から好奇心旺盛の元気な女の子だったの。それは大人になった今も変わらない。そんな私は最近よく思うの。


「心踊る刺激が欲しい!」


 そんな時だったの。私の「なにか面白いこと無いの?」センサーに引っ掛かる反応があることに気付いたのは。


 最初に感じたのは食材が少し減っていた事。そして詳しく調べてみると保管庫の缶詰めと防災グッズが入ったリュックが一つ無くなっていたの。極めつけは包丁が無かった事。


 私は少しだけ焦ったわ。食材はどうでもいいの。問題は包丁よ。最初に思ったのは春馬ちゃんの自殺か恨みからの殺害。でも、すぐにそれはあり得ないと思った。これでも私は春馬ちゃんをずっと見てきたからね。

 次に真奈ちゃんのツンデレの、デレが消滅してツンツンだらけになって春馬ちゃんを‥‥‥‥‥なんてね。それもありえねー。

 最後に雅人さんだけど、包丁が似合わない人なのよね。考えるまでもない。


 まあ持ってるとしたら春馬ちゃんだと思うけど、あの子は絶対大丈夫。だから私はもう少し様子を見ることにしたの。

 それからすぐの事だった。私の欲望を満たす出来事が始まるのは。そしてそれからの私は、毎日世界が色鮮やかに見え、冷めかけていた心が熱く燃え上がり、「うぉー!」と吠えたくなるような感情でいっぱいになったの!!


 ある日、私が朝食を持って春馬ちゃんの部屋に向かっていると、ドアを開けて出て来たの。私の心に業火を灯しやがったヤツが。

 春馬ちゃんは私に相談があると言ってきた。私は部屋に入ると少しからかってやろうと思い、隣り合わせでソファーに座った。(ふふふ、照れてやがる。面白れーな、おい!)


 それから食材と包丁の事を聞いたら、やっぱり春馬ちゃんだった。でも危ない事には使ってないと春馬ちゃんは言いきった。(お?男らしい顔になってきてるじゃないか。やっと変わり始めたのか?嬉しいねぇ)


 そしてこれからも食材や物資が必要らしく、私に買い出しをお願いしてきた。その理由を私は知りたかったが話してくれない。(くう~、吊し上げて聞き出したい!でも我慢だ。いずれ話してくる筈だ。焦らされるほど、その後が最高だって言うもんな!)


 だが、その焦らしプレイは僅かな時間だった。春馬ちゃんからお買い物のお誘いが来た!(もう全てを聞き出してやる!)


 そしてついに来た。私が大興奮で狂いまくり暴れまくる日が。その買い物は昼御飯を食べてからで、楽しみで仕方ない私が作る昼御飯は超簡単手抜き料理だ。(やってられるか!)

 さっさと済ませた私は時間が来るまで時計をずっと眺めていた。(ノロノロすんなよ。さっさと昼の時間にしやがれ!この時計野郎が!)


 その日の私は二重人格だった。

 _________________


 今は私の愛車でホームセンターに移動中。昼御飯が終わってすぐに春馬ちゃんの部屋に行き、急いで車にぶち込んだの。(もう逃がさんぞ。全てを話すまでな!)


 私は優しく優しーく、春馬ちゃんから話すように誘導する。(ほれ?ほれ?話してごらん?)

 そして標的は私の話術に落ちた。


「僕に起きたこと全てを話します」


(ひゃっほー!ヒィーーシュッ!!掛かったぞ大物が!今日はご馳走だ!)


 私の全身は武者震いでブルブルだ。やっぱりコヤツはとんでもない秘密を抱えているんだ。

(もう嬉しすぎてオシッコちびっちゃう!初めて犬の気持ちを理解したぞ!)


 それから春馬ちゃんの告白タイムが始まった。神の使徒となった春馬ちゃん。そして異世界と繋がってるパソコン。それで困ってるアズール家族を助けてるところで食料や物資が必要だと。その食料とかは魔法みたいなもので異世界の家族に送ってるだって?


(待って!予想を遥かに越えてるよ!嬉しすぎて昇天しちゃうよ!)


 それから全てを聞いた私は何度も昇天した。(なんて素敵なお話しなんでしょう。こんな楽しそうな事は二度と訪れないと思うわ。絶対に逃がさない!!)


 そんな私は再び標的に懐柔作戦を開始した。優しさを見せ、大人の威厳さを見せ、そしてお金をチラつかせた。そして見事協力者としての立場を確立した。(やった!これからの毎日が楽しみだぜ!)


 はあ‥‥思い出すだけで嬉しくておかしくなりそうだ。その後も色々あったが今日はここまでだ。機会があったら続きを話してやろう。


 それではな!グッバイ諸君!


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