第22話 緊急クエストで再び異世界へ

 桜子さんと買い物に行った事は、僕にとって有意義なものだった。多分僕一人だけであったならば、どこかで行き詰まっていただろう。

 僕はこのゴッズタイムキリングを始めてから、いや、アズール家族と出会ってから大切なものを幾つも見つけ教えてもらった。だが、心配する事もたくさん増え、精神的に辛い思いもした。だから桜子さんが協力者となってくれた事で、知識、行動、金銭面だけでなく精神面でも助かったと思うのだった。


 僕は「ほんとに良かったなあ」と思いながら玄関を開けて家の中に入った。と、その時だった。僕の頭の中に女性の声がしたのは‥‥‥


『ピンポンパンポーン、緊急クエスト発生です。このメッセージが終わって三分後に異世界へ転移します。緊急クエストは「ダルタン・アズールを救え」です。場所はサルバルート王国の王都。ただ、直接王都に転移した場合に不審者と判断される可能性がある為、近隣の森へ転移します。準備はお早めにね』


「ええぇー!今度は王都に行くの!それとダルタン生きてるの!」


 そのメッセージを聞いた僕は、焦る心を落ち着かせながら玄関で脱ぎかけていた靴を履き直し、土足のままでキッチンに居る桜子さんの元へと向かった。


「桜子さん!緊急クエストのメッセージが僕の頭の中にさっき届いて、今から三分後に転移しちゃうんだ!ダルタンが生きてて僕が助けなくちゃいけないみたい!」


 僕は早口で桜子さんに説明した。それを聞いた桜子さんは「なに?まぢか!!」と言うと、キッチン中を走り回り食料をかき集めてきた。


「その食料を魔法の腕輪に仕舞え!あと今日買ってきた物は全部魔法の腕輪に入ってるよな。ナイフは一本だけか‥‥包丁を一本持っていけ!あーもうキッチンにあるものを片っ端から全部詰め込め!なにが必要になるか判らないからな!ほら、さっさと動け!」


 僕は桜子さんの言われるままに、どんどん魔法の腕輪に収納していった。そして僕の体感ではあと三十秒ほどで時間だ。


「桜子さん、もうすぐ転移する時間です!僕の部屋のノートパソコンでアズール家族の事を助けてあげてください!」


 今度の転移は長くなりそうな予感がした僕は、出来るかどうか判らないが、桜子さんにアズール家族の事を任せることにした。

 そしてその桜子さんは、何故か僕にギュッと抱きついて来るのであった。


「桜子さん?なにしてるの?」


「はあ?私も異世界に行くに決まってるだろ!ダルタンが生きて居るんだぞ。私も行ってダルタンに激しく抱いてもらうんだ!」


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」


 お前はこんな時でもブレないな。


 そんなドタバタをしていると再び頭の中に女性の声が聞こえてくる。


『転移するよ』


 そして世界は暗転した。

 _______________


 僕が今居るのは森の中。大きな木が立ち並び、色々な植物が生い茂っている。遠くから動物や鳥の鳴き声が聞こえ、小さな虫が飛び回っていた。そしてここに居るのは僕一人。どうやら桜子さんは転移する事が出来なかったようだ。(多分キッチンで暴れてるだろうな)


 僕はひとまず落ち着いて考えようと、初めての魔法を発動する。


「怠惰の防御」


 僕がそう唱えると、僕を中心にして半径三メートルほどの半透明のドームが出来上がった。(うん、問題なく魔法が使えたね)


 これが怠惰の神の加護で得た魔法の一つだ。僕は魔法の腕輪からコーヒーのペットボトルを取り出して、良さげな倒木に腰を下ろした。(さて、これからどうするかだ)


「よし、まずは僕のステータスの確認から始めよう。ステータスオープン」


 僕の目の前に現れた半透明のボード。そこには僕のステータスが表記されている。このステータスを見るのは三回目だ。実は地球に居た時に、二回ほど見ていたのだ。

 ▼▼▼▼▼

 中里 春馬 人族 男 17歳 レベル8

 怠惰の神の使徒 

 体力8 魔力30 知力60 腕力8 瞬発力8 

 スキル/マナ操作

 魔法/生活魔法 

 加護魔法/怠惰の防御 怠惰のお誘い 怠惰の休息

 加護/怠惰の神の加護

 ▲▲▲▲▲

 これが僕のステータスだ。内容については怠惰の神から加護を付与された時に、僕の頭の中にインストールされたので理解している。


 このステータスだが一般的な成人男性(15歳)を基準にしているらしく、基準値はレベルも合わせて10となる。だから僕は魔力と知力以外は15歳以下となる訳だ。引きこもりで運動してなかったから当たり前と思う事にした。


 因みにこの数値は強さを表している。例えば魔力が30と言うのは魔力を1使う魔法を三十回使えると言った意味ではない。

 魔法とは、大気にあるマナを体内に取り込んで、詠唱と言ったキーワードを用いて発動するもの。その威力や飛距離などは個人の資質や鍛練によって大きく変わるのだ。そして消費するマナの量もそれに当てはまる。


 だから同じ威力と飛距離のファイアボールを発動する場合、魔力が低い者は多くのマナを使い、魔力の高い者は僅かなマナで発動する事が出来るのだ。(複雑な内容だよね)


 ここでもう一つ、体内に貯めるマナの量も関係してくる。体の中にはマナを貯めることが出来る器官がある。それが魔石だ。


(実は怠惰の神から加護を付与された時に、僕の体の中に魔石が組み込まれた。そしてこの魔石はレベルアップや鍛練で成長するらしい)


 この器官には大きな個人差があり、マナを膨大に貯めれる者は威力の高い魔法を発動する事が出来て、威力の弱いものであれば連続して発動する事が可能になるのだ。


 これは体内にマナを貯める時間が結構掛かる事で起きる要因なのだ。ただし、そのマナの取り込みが異常に早い者が僅かではあるが存在している。その場合は、体内にマナを貯めながら魔法を発動する事が出来るので、マナを貯める器官の容量が少なくても連続して魔法を発動させることが出来るのだ。だが威力のある魔法の発動は出来ない。


 物凄く複雑な内容に僕は理解するのを諦めている。魔力が低ければ威力の強い魔法は使えない。そして連続で使う場合は、もっと威力の小さなものを発動するしかない。とにかく鍛練してレベルを上げろって事だと僕は解釈した。


 これだけ説明したけど僕は攻撃魔法が全く使えないんだよね。どうやら僕に与えられた加護が怠惰の神のものだかららしい。

 ただ、怠惰を極める為の魔法は凄いみたいだ。


 まずは「怠惰の防御」。これは僕が意識した内容で発動出来る究極の結界魔法だ。形状、色、強度、持続時間、発動場所を僕の魔力に応じて発動させる事が出来る。


 次は「怠惰のお誘い」。これはデバフだ。僕の魔力に応じて対象者の全ステータスダウン、スキルと魔法カットが出来る。戦う意欲を無くす事を目的とした魔法らしい。


 最後は「怠惰の休息」。これは治癒魔法だ。僕の魔力に応じて怪我、病気、状態異常を治す事が出来る。


 この三つが今僕が使える加護魔法。これは怠惰の神がのんびりする為に、邪魔者が入ることが出来ない結界。「一緒にのんびりしようよ?」と仲間に引きずり込む為のデバフ。「体調悪いとのんびり出来ないよ」と治癒魔法。


 さすが怠惰の神様だ。

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