第20話 桜子さんとお買い物(3)

 車内で「魔法の腕輪」を試した僕達は車から降りてホームセンターに向かった。どこかの工場かと思えるほどに大きな建物。その大きさは体育館三つ分ほどだ。


 今日の目的は野菜の苗だ。「不浄の森」のような荒れた土地でも逞しく育つ野菜が無いか探してみるのだ。そして一つの案があり、その為に必要なものも買いに来た。


 まずは野菜の苗を見に行く事にした僕と桜子さんは、広い店内を色々と見ながら花と野菜コーナーに向かった。そこはとても広いスペースで、色とりどりの花達が僕達二人を歓迎してくれた。(花も買って帰ろうかな)


「綺麗な花がたくさんありますね。少しだけ買って帰ろうと思います」


 僕がそう言うと、「ミーナは花よりナイフだろ?」と桜子さんは笑いながら話すのだった。そして花コーナーを突き進み、目的の野菜の苗コーナーにたどり着いた。


 季節は夏。野菜の苗は春前後が一番多く売っていて、夏に近付くと少なくなっていく。僕の目の前にあるのは少なくはないが、多くもない種類の苗だった。きゅうり、なす、いんげん、トマト、ししとう、レタス、サラダ菜などの野菜が残っている中のメインのようだ。


「桜子さん、ここにある野菜の苗は荒れ地向きではないですよね?」


 僕は商品説明のカードを見ながら桜子さんにも確認の為に聞いてみた。


「そうだな。まず育つことはないだろう。残念だがここにある苗はハズレだ。だが喜べ。あそこに特売コーナーがあって見てきたのだが、お目当てに叶う物があったぞ」


 桜子さんのその言葉に僕は期待して、特売コーナーに向かった。そしてそこにあったのは、少し萎びれてはいたが立派な苗が数種類あった。(桜子さんが言ったのはどれだろう?)


 その桜子さんが両手に一つずつ、違う種類の苗を僕に見せるように手に持った。


「これはサツマイモとカボチャの苗だ。季節的に最後の掘り出し物だ。これなら荒れ地でも逞しく育つぞ。まあ見つからなかったら、種を買おうと思ってたけどな」


 そう、種はあるのだ。種蒔きの時期もまだ間に合う。なのに何故苗が無いのかは僕も桜子さんも知らない。(親は家庭菜園なんてしてないからね)


 僕はあるだけのサツマイモとカボチャの苗を買い占めた。そして他の野菜の苗も少しずつ全種類買っておいた。僕の案で使うのと、もしかして地球産の野菜はスーパー野菜で、異世界ではボコボコと育つ可能性もあるのではと思ったからだ。


 それから他に買ったのは、野菜の土、プランター、野菜の栄養剤。あと花と花の種を少しだけ。その購入金額は一万円を越えていたが、苗を含めて全て桜子さんがポケットマネーで買ってくれた。(このご恩は一生忘れません!)


「これで欲しかったものは買えたのかい?遠慮する必要はないからね」


 なんて素敵な桜子さん。


「はい、大丈夫です。今日は車を出してもらっただけでなく、お金まで出してくれてありがとうございました」


 僕は周りに人が居るのも構わずに、桜子さんに深く頭を下げてお礼を言った。


「そんなこと気にする必要はまったく無いよ。だってこれからは春馬ちゃんの部屋に入り浸るからね。だから家に戻ったらアズール家族を紹介してね」


「ははは、お手柔らかにお願いします」


 僕は強力な仲間が出来たと喜びつつも、少しだけ不安になっている部分もあった。前にも思ったが、まだよく判らない事が多い「ゴッズタイムキリング」だ。桜子さんに何かあったら幼馴染みに申し訳ない。


「そんなに心配しなくても自分の身は自分で守るから気にしなくていいよ。なんなら春馬ちゃんも守ってあげるわよ?」


 。僕の心の思いはお見通しと言う訳だ。僕はラノベ定番が起きるぞと身構えたが桜子さんからの反応は無かった。(少しだけ残念)


 僕の買い物が終わると桜子さんが欲しいものがあるからと、続けてホームセンターの店内を見て回った。お目当てはナイフとリュックのようだ。ミーナとタルクへのプレゼントだ。(ミスカさんには無いのね。仕方ないから僕が買った?花をあげよう)


 その桜子さんが買ったナイフは剣鉈だった。その剣鉈の刃は分厚く刃渡りは30cmと長い。分厚いショートソードと言ってもいいくらいだ。先端が四角い腰鉈とは違い、鋭利に尖った剣先は突きも出来る。鞘は茶色い革製でカッコいい。僕が作った段ボール鞘とは大違いだ。


 僕は剣鉈を手に入れたミーナがどうなるのかを想像するだけで体が震えてきた。(頼むから放送禁止の笑顔はやめような)


 それからタルクに買ったリュックだが、全体が黄色く蓋やポケットの縁が黒色で、小さなポケットがたくさん付いたオシャレな物だった。女の子用じゃないのと思えるのは僕の気のせいなのだろうか?


 あとは生活用品を見繕って買い、本日の買い物は終了した。そしてその帰りの車内でも桜子さんのハイテンションは収まらない。

 常に法定速度ギリギリで走るのは、早くアズール家族を見たいのだろう。(安全運転でお願いします。まだ死にたくないです)


 家に戻ったのは夕方4時。桜子さんの勤務時間が終了する時間だ。その桜子さんは「晩御飯を作ったら部屋に行くからね!」と叫びながら家に駆け込んで行った。


 家で待つ娘を放っておいていいのか?と、思いながらゆっくりと部屋に戻る僕だった。

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