第14話 幕間 銀狼族ダルタン・アズール

 炎狼族の村を好き放題にしているならず者達。ただ見ることしか出来ない正騎士達。


 その騎士の中から飛び出したタルクの父親ダルタン・アズールは駆ける。


「くそっ!お前達はそれでも人間か!戦えぬ人々に手を掛けるとは許さん!」


 ダルタンは腰に差したロングロードを抜き、小さな子供に向かおうとしていたならず者を斬り捨てた。それからは目につくならず者達を、剣と魔法で息の根を止めていく。


「誇り高き銀狼族の同士よ。目を覚ませ!こんなことは正義の戦いではない!」


 ダルタンは村の中を駆け巡り、叫びながら次々にならず者達を倒していった。


 だがいくら強い銀狼族でも数の暴力には敵わない。徐々に自身の体に傷が増えていく。

 まだ瀕死となる傷が無いのは、自分勝手のならず者達は他の事に夢中で積極的に攻めては来なかった事が大きな要因であった。


 ダルタンは焦っていた。一人で倒すには多すぎる敵。倒した敵の数は増えていくが、酷い目に合う炎狼族の住人も増えていた。


 その時だった。


「我は誇り高き銀狼族のバルドス。お前達の行いは許せるものではない!ダルタン、遅くなってすまない!」


「「「俺達も加勢するぞ!!」」


 残りの銀狼族九人が隊列から抜け出し、住人を助ける為に立ち上がった。


 これは国家反逆罪となる行い。それでも銀狼族は村を駆け巡る。


「それでこそ誇り高き銀狼族だ!」


 ダルタンは歓喜し吠えた。


 それからダルタンは多くの住人が避難した大きな倉庫の前まで来ると、扉の前で抵抗していた数名の炎狼族の戦士と合流した。


「加勢する!遅れてすまない!」


 ダルタンはそう言うと、ロングソードを天高く突き上げ魔法を放つ。


「天の雷!」


 目の前に居たならず者達に、空から激しい光の槍が降り注ぎ、時間差で轟音が響き渡る。


「「「うがぁ!!」」


 三十人は居たであろう、ならず者達はその場で倒れ死んでいった。


「これで魔法は打ち止めだ!剣で戦うぞ!」


 ダルタンは疲れて動きが鈍くなった炎狼族の戦士を鼓舞する。


「助かります!私達も前線で魔法を打ち尽くしてから防衛に回ったので、もう魔法が使えず苦戦していました」


 炎狼族の戦士は女性二人。もう一人男性の戦士が居たが死んでいた。無数にある傷は、女性戦士二人を庇いながら戦ったのだろう。


「さすが炎狼族の男だ!」


 ダルタンが纏う殺気と戦いを見た残りのならず者達は逃げて行く。


 周りを見ると加勢に来た銀狼族が大暴れしており、逃げ出すならず者が増え形勢は逆転した。それから十数分で村から生きているならず者は居なくなった。


 ダルタンは礼を言ってくる住人に頭を下げながら、村の入り口で待機している正騎士部隊のもとへ行く。


「マスタック隊長、ご迷惑をお掛けしました。そして攻撃せずに待機して頂き感謝致します」


 ダルタン達は反逆行為をした。正騎士が乗り込んでもおかしくない状況だったのだ。


「いや、何も出来なくてすまない。最初から判っていたことだが余りにも酷すぎた」


 ダルタン以外の銀狼族九人は、他の場所から集められた。だから逃げる猶予がある。

 だが、正騎士達は国に愛する家族が居るのだ。躊躇するのは仕方の無いことだろう。


「これからの事ですが。この村のじゅ‥‥‥」


「まあ待て。我々の指命は炎狼族の戦士の殲滅だ。そしてその指命は果たした。残った非戦闘民は傭兵とならず者に任せて、我々は王都に戻った。銀狼族の九人とダルタンは、勇敢に戦い戦死した。王都からこの村まで一週間。情報が漏れても二週間以上は大丈夫だろう」


 マスタック隊長は、ニヤリと笑いダルタンの肩を叩いて隊列に戻って行った。


「よし!正騎士部隊は王都に向けて出発するぞ!お前達も疲れただろう。夜営になるが、途中で三日ほど休暇を与えよう」


「「「 おー!」」」


 ダルタンをよく知る騎士達は、隊列から離れて肩を叩くものや手を振って別れを告げた。


(お前達もありがとう!)


 勝利とは言えないが、最悪の結果だけは回避出来たと思うダルタンであった。


 そのあとダルタンは村を見て回ったが、酷いものだった。約三百人居た住人のうち、百二十人ほどの死者が出た。重傷者は四十人ほど。


 銀狼族も三人死んだ。


 それから怪我の無い住人を集め、丸二日掛けて死体を片付けた。ならず者達は村の外に放り投げ纏めて燃やし、村の住人は一人ずつ墓を作り丁重に埋めた。


 怪我をした住人には、正騎士団が置いていった大量のポーションを使い完治した。重傷者も含めてだ。


 残った銀狼族の六人は、元居た場所に帰って行った。これから逃亡生活が始まるのかと思うと頭の下がる思いだ。


 村の住人もずっとここに居ることは出来ない。馬車で半月ほどの距離に炎狼族の隠れ里があるらしく、準備が整ったら移動するそうだ。


 それから二週間経った。


 ダルタンは住人が移動するまで残っていた。少しでも償いをしたかったのだろう。


 移動の準備が出来た住人は今日隠れ里に向けて出発する。住人は皆、ダルタンにお礼を言って村を出ていった。


 残って居るのはダルタンともう一人。


「ミスカ、俺達も行こう。目指すは誰も居ない。見つかる事もない。「不浄の森」だ」


「ええ、あなたと一緒ならどんな場所でも幸せに生きていけるわ」


 そう、ミーナとタルクの母親である。

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