第15話 アズール家族の秘密(3)
タルクの父親ダルタン・アズールは炎狼族を助ける為に正騎士団を抜けた。
それは国家反逆罪となる行為だった。
それでも誇り高き銀狼族として、果敢に戦い半数以上の住人を救うことが出来た。それから残った住人達の移住の準備を手伝い、そこで妻となるミスカと出会ったのだ。
ダルタンは反逆罪で、ミスカは裏切り者の炎狼族としてサルバルート王国に追われる身。二人は追ってが来ることが無い「不浄の森」に逃げる事にした。
「不浄の森」の植物は九割強が「ニュダ」と呼ばれる木。
この「ニュダ」は大地の養分を吸い、樹木内部に膨大な量を溜め、永遠の時を生きる植物。
葉は一年中生い茂り枯れることがない。そして葉を千切ったり、枝を折り、木を切っても養分を使って元通りになる。
それも樹木内部に溜めた養分は危機的な状況にならない限り使わず、大地の養分を更に根こそぎ吸い付くすのだ。
だから他の植物が生き辛い土地となり、動物や魔物もそして人も住みつかなくなった。
ただ一つ救いがあるとすれば、この「ニュダ」は繁殖しない事。だから「不浄の森」が広がることも縮小することもない。
何百年間なにも変わらない土地なのだ。
それが「不浄の森」と呼ばれる場所。今アズール家族が住んでいる場所なのだ。
それでもダルタンとミスカは「不浄の森」を定住の地と決め、住めそうな場所を探した。半日ほど歩き、広い空き地を見つけた二人はその場所に住むことにした。
その空き地にはなにも無い。周りの森も資材となるもの食材となるものも、ほんの僅かしか無かった。
普通であれば諦める場所。だがダルタンは親から受け継いだ魔法の腕輪を持っていた。
魔法の腕輪はアイテムボックスみたいなもので、時間停止は無いが体育館ほどの容量がある優れもだった。
その魔法の腕輪には、炎狼族の村で分けてもらった食料、塩、食物の種、衣類、布、生活用品、木材、そして家が二軒入っていた。
因に魔法の腕輪に入れる方法は、対象物に触わり魔法の腕輪に魔力を流せばいいそうだ。出す場合も似たような感じらしい。
二人は空き地に家を一軒出し、家の前に畑をつくり食物の種を蒔いた。
空き地はテニスコート二面ほどの広さで、家と畑を作ってもまだ余裕があったが、それでも「ニュダ」の影響で土地は痩せ細っていた。
畑で採れる野菜は発育不十分なものばかり。二人で食べる分には事足りるが、将来子供が出来た時には不足するだろう。
それでも二人は逃亡生活よりはマシだろうと、この土地を離れる事は無かった。
因に「不浄の森」には水源が無い。川や湖は遥か昔に枯れ果てたか元から無かったかのかは判らないそうだ。
じゃあどうやって水を確保したのかだが、ダルタンの水魔法からである。ダルタンは水と雷魔法、ミスカは火魔法が使えた。
二人は貧しいながらも幸せに暮らし、一年後にミーナ。そして六年後にタルクが産まれた。
ミーナは銀狼族ダルタンの容姿を受け継ぎ、銀色の髪。魔法は二人からで、水、雷、火魔法が使える。(性格は絶対ミスカだ)
タルクは炎狼族ミスカの容姿を受け継ぎ、オレンジ色の髪。魔法もミスカで火魔法のみ。(性格は父親なのかな?)
タルクが産まれた時、そのオレンジ色の髪を見た両親はタルクの将来を心配した。
髪がオレンジ色なのは炎狼族の証。他の人種でその色の髪で産まれる事はないのだ。
ダルタンとミスカは子供達が幼いのもあるが、この土地で暮らす理由を話すことなく、ミーナとタルクを大切に育てていった。
ダルタンは三ヶ月に一度、子供達の為にと一週間ほどかけて「不浄の森」から離れた場所まで狩りに行き、動物や魔物を狩って肉を確保していた。塩や生活用品は、その狩りの時に街に寄って買う。そのお金は狩った魔物の素材を売って得たものだ。
辛くも幸せな生活。家族四人は穏やかに暮らしていた。
タルクが四歳の時。
「「森の外に行ってみたい」」
ミーナとタルクが両親に言った。
家の周りしか知らないミーナとタルク。親から聞く物語や勉強で知った外の世界。二人が見てみたいと思うのは仕方ない事だ。
ダルタンとミスカは悩んだ。
あれから十年以上過ぎたのだ。もう大丈夫なのではと二人は思った。ミーナはもう十歳。今後の為にも外の世界を見せるべきだと、家族で街に行くことにした。
一週間かけて街まで行く四人。ダルタンの魔法の腕輪があるので苦労はしなかった。
「ニュダ」以外の植物。可愛い動物や恐ろしい魔物。川や湖。魔物を倒すダルタン。ミーナとタルクは初めて見るものばかりだった。
そして街に着いたアズール家族。
初めて見る家族以外の人々。石畳で舗装された綺麗な道や建ち並ぶ家。美味しそうな匂いをさせている屋台。見たこともない食材や物を売っている店。
ミーナとタルクは、この旅に出てから初めてをたくさん見て経験した。
屋台で買った肉串を食べながら街を歩くアズール家族。子供達は喜び、その子供達を見て喜ぶダルタンとミスカ。
そんな時だった。
「お父さん、ボクを睨んでる人達が居る‥‥」
タルクが見つめる先には傭兵団が居た。
その傭兵達は、仲間内で何かを話し始め、そして話が終わると一人の男が歩いて近づいて来た。
「おい!そこのチビは炎狼族だろ。それとそこの女もだ。そのオレンジ色の髪は炎狼族の証。間違いない!そうだろ!」
ダルタンの前まで来た傭兵団の男は、怒ったように問い掛けてきた。
(油断していた。まさか当時雇われていた傭兵なのか?)
ダルタンが返答に困っていると、その傭兵は街全体に聞こえるのではと思えるほどの大きな声で話し始めた。
「このオレンジ色の髪をした女とチビは「裏切りの炎狼族」だ!十年ほど前にガザフ王が討伐を宣言した民族の生き残りだ。お前らも覚えてるだろ!」
街の人々が群がり周りの人と話し始め、その輪がどんどん大きくなっていく。そしてアズール家族を見る目と雰囲気が異様なものになっていった。
ダルタンはミスカに目で合図を送り、そのミスカは頷くとタルクを抱えて走り出す。ダルタンは目の前に居る傭兵を殴り倒し、ミーナを抱えてミスカを追いかけた。
アズール家族は人混みを掻き分けながら、街の外を目指した。邪魔する者は追い付いたダルタンが雷魔法で威嚇し退かせ、それでも向かってくる者は殴り飛ばした。
訳が判らず抱き抱えられたまま泣きわめくミーナとタルク。
やっとの思いで街を抜け出したアズール家族は、逃げるように「不浄の森」へ戻った。そして泣いて怯えるミーナとタルクに両親は全てを話した。
それからはダルタン以外は「不浄の森」から出ることは無かった。
そして一年ほど前にダルタンは狩りで亡くなった。と言っても見た訳ではなく、いつまで待っても戻って来なかったので、そう思うことにしたそうだ。
これがタルクから聞いた話を僕が物語風に解釈した内容だ。
大体の経緯は判った。
ただ、これからどうするかは判らない。取りあえずは生きていく事だけを考えて生活基盤を整えようと思う。
僕としてはガザフ王を許せないけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます