第13話 アズール家族の秘密(2)

 僕はタルクの魔法の練習風景を眺めて英気を養っている。


 あの母親とその娘は、偶に僕の精神を枯れ葉のようにボロボロに崩してくれる恐ろしい存在である。(タルク、お前は違うよな?)


 僕は昼までのんびりするつもりだ。これからどうするか、少し考えてみよう。


 今日使える神シリーズは全て一回ずつ。その中でまだ使ってないものがある。


「神のいかづち」だ。


 これは攻撃用なんだろうか? 誰を攻撃? あの母親と娘? それは酷すぎるな。


 まぁ、アズール家族が危険な目に合った時に使うのだろう。そしてこれは神様が設定したものだ。だらそう言った事が起こる可能性は非常に高いのだろう。そしてその相手は人間かも知れない。


 僕に人を殺す事が出来るのだろうか。


 うん、今の僕には無理だ。だけどアズール家族は守ってあげたい。だから僕は守る力が欲しいよ神様。


 色々考えてるうちに昼御飯の時間がきた。見るとタルクもいつの間にか居なくなっていた。(あれれ?いつの間に‥‥‥‥‥)


 視点を台所にすると三人でテーブルを囲んで楽しく食事をしている光景が目に入った。


 テーブルの真ん中に食パンと苺ジャム、ピーナッツバターを置いて、各自で好きなものを塗って食べているようだ。


 手元の皿にはソーセージが一本と畑で取れた葉野菜。タルクだけ二本盛り付けてある。


 その光景を見ながら僕も昼食を食べる事にした。今日のメニューは唐揚げと玉子焼き。アズール家族に送ったものと一緒だ。


 出来れば同じものを食べたかった。アズール家族は晩御飯の時に食べるのかな?(うん、やっぱり桜子さんの唐揚げは美味しい)


 楽しい昼食が終わると、タルクは母親に魔法の練習に行くと言って外に出た。多分、僕に家族の事を説明する為だ。


 ミーナが付いて行こうとすると「ついて来ないで」とタルクに言われ、唖然とした顔をして立ちすくんでいたのは面白かった。


 僕はタルクを追い掛ける為に視点を外にする。タルクは空に向かって話をしていた。(おっと、出遅れたか!)


 急いでタルクの元に視点を合わせると、タルクは神様にお礼を言ってるところだった。(ふぅ、間に合って良かった)


 それからタルクは家族の事を話し始めた。


 時刻は昼の二時を過ぎたところ。僕は「神のお告げ」でタルクに「今日はそこまで」と伝え、ベッドに横になった。


 話の内容は思った以上に辛くて厳しいものだった。もし僕がタルクであったならば、耐えられなかっただろう。


 タルク、お前は凄いよ。


 僕はしばらくの間、ベッドの上で考えを纏めていた。そして起きたのは夕方になってから。僕は冷蔵庫からコーヒーを取り出し、心を落ち着けるようにゆっくりと飲む。


 そしてタルクから聞いた話を僕なりに整理して、一つの物語のように纏めてみた。


 まず、ここはサルバルート王国。人種差別も無く平和な国だそうだ。ただ一つの部族を除いてはだが。


 タルクの父親はダルタン・アズール。人々から「神の使徒」と呼ばれる誇り高き銀狼族。遥か昔、神々の争いがあり、銀狼族の祖先は神の部下として勇敢に戦ったそうだ。


 そして問題なのが母親のミスカ・アズール。人々から「裏切りの炎狼族」と呼ばれている部族の出身なのだ。


 何故、裏切り者と言われるのかだが、約二百年前にサルバルート王国と他国との戦争があったそうだ。炎狼族は炎を操る魔法に優れ、国の中でも重要なポジションを与えられていた。


 そして炎狼族は数々の戦績を上げ、英雄と呼ばれる部族にまでなったそうだ。戦争はサルバルート王国が優勢であともう少しで勝利を掴むところだった。だが、軍の中枢部に入り込むまでになった炎狼族が突如反旗を翻し、重要施設を破壊し幹部連中を皆殺しにしたのだ。


 その結果、サルバルート王国は他国に領土を侵攻され多くの被害を出し、国土の一部を譲渡する事で戦争は終結した。優勢だった戦争が炎狼族の裏切りによって負けたのだ。


 何故裏切ったのかは判っていない。


 それから炎狼族は、人里離れた森の奥で暮らしていた。そして「裏切りの炎狼族」の呼び名も年月が経つにつれて人々の記憶から、おとぎ話のような記憶へと切り替わっていった。


 そんな時、代替わりとなり新たに王となったガザフ王。彼は幼少の頃から残虐な性格で、民からの評判も良くなかった。

 だが、野心家のガザフは自分より上の王位継承権を持つ兄弟達を暗殺、毒殺し、王となったのだ。そして民の心を掴もうと、「裏切りの炎狼族」の話を掘り返し、自分に向けられている嫌悪を炎狼族に擦り付けようとした。


 合わせて民が持つ色々な不満と嫌悪をも擦り付け、その裏切り者を討伐することで、煽り立てた憎悪を解消し、民からの支持を得ようとしたのだ。


 なんて酷い王なのだろうか。


 そしてガザフ王は炎狼族の居場所を探しだし、討伐隊を組んだ。そこでもう一つのおとぎ話も掘り起こし、更に民の心を掴もうとした。


 それが「神の使徒」と呼ばれる銀狼族。


 銀狼族十人を旗印に討伐隊は総勢500名。その中にタルクの父親ダルタンが居た。ダルタンは王城に勤める騎士であった。


 ダルタンは正義感に溢れる強き男で、同じ騎士から一目置かれる存在だった。


 そして討伐隊は炎狼族が住む村に向かった。


 その村は小さな村だった。住人は約300人程度。戦える住人は約60人と更に少ない。


 火魔法耐性のある鎧を身に纏った200名の重騎士隊が60人の炎狼族の戦士を斬り倒す。

 昔と違い魔法技術が発達した現代では、無敵と言われた炎狼族も歯が立たなかった。


 そしてそこから残虐が始まった。


 討伐隊残り300名程は傭兵やならず者の寄せ集め。手強い戦士が倒れると我先にと雪崩れ込んだ。このならず者達は、数合わせといざという時の壁役として雇った連中。村のものを自由にしていいという見返り付きで。


 ならず者達は、金になりそうなものを探す者、若い女性を捕まえて家の中に連れ込む者、ただひたすら目に付く住人を殺す者。と、まともな者は居ない。


 だが正騎士の200名はガザフ王の命により、その光景を見ている事しか出来なかった。


 その騎士の中から飛び出す影が一つ。


 タルクの父親ダルタン・アズールだ。

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