第12話 アズール家族の秘密(1)
家政婦桜子さんのお陰で「神の施し」での物資調達はなんとかなりそうだ。
僕はベッド下に隠していたノートパソコンをテーブルの上に戻してモニターを見る。
時刻は朝8時過ぎ。視点は台所。
竈の横の流し台で洗い物をしている母親が居た。どうやら病気が治ったみたいだ。インフルエンザの薬が効いて良かった。
グレーの半袖パーカーを着ている母親。もちろん僕が送った服だ。オレンジ色の長い髪によく似合っている。送った服は上着とシャツだけなので、履いている下のスカートは母親が持っていたもの。裾が膝上までなのは、ファッションなのか狩りで行動の妨げにならない為なのかは判らない。
ただ、よく似合ってるのは間違いない。
見た目は二十代前半に見える可愛い女性。でもミーナが十二歳前後だとすると三十代前後なのかもしれない。(意外とおばさん?)
「シュパッ!」
いきなり包丁差しからナイフを抜き取り、カメラ目線で半目になる母親。
(うわっ!ごめんなさい‥‥‥)
母親は頷きナイフを包丁差しに戻した。
これがラノベで俗に言う「定番」か。怖かったけどちょっとだけ嬉しい僕が居た。
僕は姉弟を探す為、視点を家の外にした。居たのはタルク。畑仕事ではなく、なにかやっている。よく見るとタルクから五メートルほど離れた位置の地面に棒を刺し、その棒の先に空き缶を被せているものが五本あった。
タルクはその空き缶目掛けて右手を突きだし構えていた。
「ファイアボール」
タルクの手のひらの先から拳大の火が現れ、バッティングセンターの低速くらいの速度で空き缶目掛けて飛んで行った。
僅かに外れて七メートルほど先で消滅する火の玉。悔しそうな顔をするタルク。
いや、凄ぇよタルク。
僕は初めて攻撃魔法を見て感動した。(ミーナの魔法?あれは調理だったからね)
それからタルクは五分ほど続けて魔法を放っていた。空き缶に当たったのは約三割ほど。疲れたのか魔力が少なくなったのか、不満げな顔をして地べたに座るタルクだった。
僕はここで「神のお告げ」を発動する。
『昼食後、過去を含めてお前達家族の事を詳しく教えてくれ。』
二十七文字。(今日は調子が悪い)
「判りました!あと神様、お母さん元気になりました。ありがとうございます。それと美味しいご飯と服も嬉しかったです!」
空に向かって大きな声で叫ぶタルク。何気にカメラ目線になっているのが素敵。
僕はモニターに向かって手を振り、次の場所に移動する。(歩いてないけどね)
目的は「神の施し」と残り一人を探す為。
本日の「神の施し」メニューは、食パン一斤、ピーナッツバター1瓶、調理済みの唐揚げタッパー1つと玉子焼きタッパー1つ。
さっき桜子さんが持ってきてくれたものだ。(桜子さんありがとう!)
桜子さんが作る唐揚げは、生姜とニンニクがアクセントの肉汁溢れる逸品だ。また、玉子焼きもだし巻きみたいに深い味わいでとても美味しいのだ。
ジュースは冷蔵庫にコーヒーしか残ってなかったので今回は入れていない。
アズール家族が元気でふっくらとするまでは継続して支援しよう。ただし、自立が最終目標なので生活基盤を整える事も合わせて協力していくつもりだ。
僕は「神の施し」で段ボール箱を台所のテーブルに送る。そして変換して「神のお告げ」をあと二回にして「神のお告げ」も発動した。
外で座り込んでいるタルクに。
『食べ物を送った。今日はこれだけだ。明日も少しだが送る。』
二十七文字。(ぐぬぬ、今日は駄目だな)
段ボール箱に気がついた母親は、感謝の祈りを捧げていた。そして段ボール箱の前に立つと、右手を天高く上げた。
(ええぇ!ま、まさか!!)
母親が天高く上げた右手。握り締めていた拳はまるで花開くように平手になった。
「ふんっ!」
まさかのパーチョップ。
(お前か!お前の遺伝子が原因なのか!)
何事も無いような顔をして、段ボール箱の蓋を開ける母親。
食パンを触り柔らかさを堪能し、ピーナッツバターの蓋を開け、鋭い手刀ですくい舐めた。そのあと唐揚げと玉子焼きのタッパーの蓋を開け、匂いを嗅ぐが首を傾げて蓋をした。
(そこもお前か!ミーナの天然ゴリ押し部分は全てお前の遺伝子が成せる技なのか!)
精神を疲労した僕は、一度癒しを求めて視点を家の外に持っていく。
(タルク~、僕はくじけそうだよ)
タルクは魔法の練習を再開していた。
僕はタルクが休憩するまで見守り英気を養った。(うん、元気になった)
そして僕は母親の遺伝子を濃く受け継いだ女の子を探す。残るは森か寝室か?ここから視点を森に向けて一回り見てみたが、見える範囲には見当たらない。
そして僕は視点を寝室に移した。
ベッドでスヤスヤと寝むる女の子。時刻は9時を過ぎていた。(引きこもりの僕が起きてるのにお前はいつまで寝てるんだ?)
ミーナの寝顔は僕が今まで見た中で、一番幸せそうな顔をしていた。そうだよな。お前は頑張ったよな。母親を支え弟を守ったミーナ。
お前が頑張ったから神様が助けてくれたんだ。僕はお前を尊敬する。性格の一部は否定するけどな!
僕は視点をミーナの足から顔まで二往復させてから視点を台所に変えた。(ごめんなさい)
母親は椅子に座って窓からタルクの様子を見ていた。その顔はとても優しい顔つきで綺麗だった。僕は少しだけ頬が赤くなる。
そしてその母親の手元には、首から上の部分が切り飛ばされたペットボトルがテーブルの上に置かれていた。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
もうこれ以上なにも言うことはない。僕は少しだけ頬が青くなる。
(タルク~、僕を癒して~)
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