第8話 神からの贈り物を調べる姉弟

 春馬が「神の施し」で送ったインフルエンザの薬を飲み、体を休める為に母親はベッドに横になり寝むった。


 ミーナとタルクは二回目に送られてきた段ボール箱と完食した皿とコップをトレーに乗せて持ち、台所に移動する。


 久々に楽しく過ごせた夕食で、母親は一口サイズのジャム食パンを四切れ食べ、オレンのジュースをコップ一杯を飲んでいた。


 時刻はすでに夜八時。


 僕は夕食を食べながら、その後の様子を見ていた。因みに夕食はカレーライス。(アズール姉弟に食べさせたら面白そうだな)


 外はもう真っ暗だったが家の中は明るい。現代の蛍光灯に照らされた部屋ほどの明るさは無いが、不憫さを感じない明るさはある。

 光源は二つのランタン。それも燃料は魔石のようなものを使っていた。


 アズール姉弟は、テーブルに段ボール箱の中身を全て取り出して並べ始める。神様からの薬で母親の病気が治ると信じている二人の表情はとても明るい。(僕は胃が痛い)


「ミーナお姉ちゃん。これソーセージだよね。ボクの誕生日にいつもお父さんが街で買ってきてくれたの覚えてるよ」


 タルクが手に持つソーセージは六本入りで少し大きめのもの。懐かしむようにソーセージを見つめるタルク。それを慈しむように見ていたミーナは、タルクに「それ貸して」と言って奪い取り、ナイフで袋を切るとソーセージを二本取り出した。


 テーブルに四角い木の板を置き、その上に持ってきたフライパンを乗せ、二本のソーセージを入れるミーナ。


「火炎」


 そしてミーナはソーセージに手をかざし、火の魔法で焼き始めた。(薪で火を起こすのが面倒なんだろうな。火力調整も出来るみたいで便利な魔法だな)


 フライパンの中でコロコロと転がしながら一分ほど焼くと、焼き目の綺麗なソーセージが出来上がった。


 木の皿に焼き上がったソーセージを一本乗せて、木のフォークと一緒にタルクの前に置き、ニッコリと笑うミーナ。


「さあ、食べましょう」


 タルクは目をキラキラさせ、手に持ったフォークでソーセージの真ん中辺りに突き刺し、「いただきます」と言って一口齧った。


「パリッ!」


 弾ける音と共に溢れ出る肉汁。そして香辛料の香りと味に驚き目を見開くタルクは無言のまま、美味しそうに最後まで食べきった。


「こ、このソーセージ、物凄く美味しい!ミーナお姉ちゃん、早く食べてみて!」


 弟の食べる姿をずっと見ていたミーナに、早く食べてと催促するタルク。


 ミーナは頷きフライパンに残っている一本のソーセージをナイフで半分にすると、その半分をタルクの皿に乗せた。そして残りの半分をナイフで刺して一言。


「一緒に食べようね」


「うん!」


 二人は、「ほんと美味しい!」「明日、お母さんにも食べさせてあげようね」「幸せ~」など言いながら食べていた。


(お前ら最高だな!もう明日段ボール箱いっぱいのソーセージを送ってやるからな!)


 僕は残りのカレーライスを掻き込みながら、その光景を見ていた。(うう、僕も一緒にソーセージ食べたい‥‥‥)


 アズール姉弟は、最初に送った三本のジュース最後の一本を開けて飲み、幸せの一時をのんびり過ごしていた。


「あと調べて無いのは半透明の箱に入ってるものと、いろんな大きさの丸い鉄の箱だね」


 ミーナはタッパーの蓋を開けて、中身を見たり匂ったりしているが手を付けない。缶詰めはテーブルの上で転がして遊んでいた。


(薬の錠剤はすぐに口に入れたのに、なんでトンカツは食べないんだよ。ソースも掛かってて旨そうだろ?夏だから早く食べないと腐るんだよ!男前ミーナはどこ行った!)


 僕は救世主タルクに期待した。(頼むぞタルク。お前なら判る筈だ!)


「Zzz‥‥‥」


 幸せそうな顔をしてテーブルに手を枕にし、横を向いて寝ているタルク。


「ぐぬぬぬ‥‥‥良い子は寝る時間だった」


 寝ているタルクに気が付いたミーナ。椅子から立ち上がるとタルクの後ろに回り込み、両脇に手を入れる。倒れる椅子もお構い無しにタルクを引きずって寝室まで運び、自分が寝ているベッドへ優しく寝かしつけた。


 ミーナは台所に戻ると片付けを始める。


 ミーナも片付けが終わったら寝るだろう。僕はもう何も問題は起きないだろうと、今日最後の「神のお告げ」を実行することにした。


『残りは全て食べ物。鉄の箱は丸い取っ手を手前に引くと蓋が開く』


 ナイス三十文字以内。


 洗い物をしているミーナに「神のお告げ」を実行した。


 ビクッと体を震わせたミーナは、口を半開きにして遠くを見つめる。(毎回こうなるの?)


 その間、約三十秒。そして再起動する天然ゴリ押し女で心優しい女の子。


「ハッ!私の下着姿を覗きに来たのね!」


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」


 明日朝、タルクにメッセージを送り直そうと思った僕であった。

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