第7話 母親の病気(2)
アズール家族の母親は、多分インフルエンザになっていると思われた。もし、異世界でしかない病気だったらお手上げだ。
僕は部屋に戻ると急いで机の中を漁る。
「あった!家政婦さんに見つかるのを怖れてゴミ箱に捨てなかった僕は偉い!」
その薬はあと四日と2/3日分残っていた。(やっぱり一回しか飲んでなかった)
さっそく「神の施し」を実行して段ボール箱を呼び出し、中に薬を入れた。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
僕は気が付いてしまった。
そう言えば、今日はもう「神のお告げ」が使えなかったんだ。どうしよう?
説明が無いと薬だと判らないよな。明日にするしかないのか‥‥‥‥
でも僕は苦しんでいる母親を今すぐにでも治してあげたい。少しでも可能性があるならば、なんにでも頼ってやる!
春馬の性格は少しずつだが積極性が強くなり、いい方向に変わってきていた。その変化に気付いているのは兄のみだが。
(神様、僕は少しでも早く母親の病気を治してあげたい。どうかお願いします。メッセージを送れるようにしてください)
僕は無我夢中で神様に祈った。
「ピコン」
静かな部屋に響いた着信音。僕は慌ててモニターを確認すると、チャットウインドウにメッセージが入っていた。
『「神の施し」①を「神のお告げ」②に変換可能です。また逆も可能』
やった!今まで反応してくれなかったのに、今回はすぐに対応してくれたんだ!神様、ありがとう!
僕は空に向かってお辞儀をしてから、作業に取り掛かった。
項目欄に追加されていた「変換」。僕は残り二回の「神の施し」を一回分、「神のお告げ」に変換した。これで今日出来るのは、「神の施し」が一回と「神のお告げ」が二回となった。
段ボール箱には、ナイロン袋にまとめて入れた薬(保護シートから錠剤を取り出すことが出来ないかも知れないのでバラした)、部屋の冷蔵庫にあったジュース類を六本を詰めた。まだスペースに余裕はあったが入れるものが無かった。
次は「神のお告げ」だ。
まずは薬の説明だ。送り先はタルク。(ミーナ、ごめんな)
『薬を送る。母親は朝昼夜二個ずつ飲め。姉弟も二個だけすぐ飲め。』
ちょうど三十文字。水分補給と治っても続けて飲むように指示したかったが諦めた。あともう一回分は、いざと言う時の為に残しておくことにした。
三人はまだ寝室で話をしている。僕は「神のお告げ」と「神の施し」を続けて実行した。
寝室の母親が寝ているベッドの足元に「ブウォン」という音と共に現れた段ボール箱。
驚く母親とミーナ。タルクは「神のお告げ」を聞いていた途中だったので驚くことは無かった。
「お母さん!これよ、これ!これに食べ物が入ってるの。神様がまた送ってくれたんだわ。ちょっと見ててね!」
ミーナは椅子から立ち上がり箱の前に来ると、右手を振り上げた。
「ふんっ!」
出た‥‥‥‥ ゴリ押し女のグーパンチ。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
初めてみた母親は固まった。
「タルク‥‥‥あの開け方が正解なの?」
「違うと思う。でもミーナお姉ちゃんらしいよね。ボクはカッコいいと思うよ」
「そ、そうなんだ‥‥‥‥」
ミーナはそんな二人のやり取りを気にせずに、段ボール箱の中身を取り出していく。
「これはさっき飲んだオレンのジュースが入ってた入れ物なの。今回は違うジュースが入っているみたい。あと、この透明の袋に入ってる丸い粒は何なのかしら?」
ミーナは袋を開けて一粒取り出すと、ためらいもなく口に入れ、噛み砕いていた。
「待って、ミーナお姉ちゃん。それ、お母さんの病気を治す薬だよ!」
タルクは慌てて姉を止めるが間に合わなかった。
(ミーナ‥‥‥ あとから姉弟も飲む必要があったから良かったものの、少しは考えてから行動して欲しいよ)
「ええっ!もう食べたゃったよ!どうしよう‥‥‥吐けばいい?お母さん!口開けて!」
ミーナは焦った顔をして、右手中指だけをピンと伸ばし勢い良く口に突っ込んだ。
「「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」」
これにはさすがのタルクでも庇いきれなかったようで、無言で姉を見つめていた。
「さっきボクに神様からお告げがあったんだ。その丸く白いものは薬で、お母さんは朝昼夜と二個ずつ飲むようにって。それとボクとミーナお姉ちゃんもすぐに二個だけ飲みなさいだって」
タルクの言葉にほっとしたミーナ。唾液まみれの中指を、服の裾で拭きながら涙目でタルクに質問する。
「なんで私達も飲むの?」
「たぶん、お母さんの病気は流行り病のようなものなんだと思う。だから予防の為に飲む必要があるんだよ」
「ほほー、なるほどね」
タルク。ホント凄いな。
ミーナは走って台所まで行き、水の入った鍋を持ってきた。母親とタルクがジュースを飲んでいたコップを持ち、残っているジュースをイッキ飲み。そして軽く振って鍋の水を注ぎ、母親とタルクに薬と一緒に手渡した。
「はい、どうぞ」
母親とタルクは、男前ミーナの行動に戸惑いつつも、お礼を言って薬を飲んだ。
「これでお母さんの病気が治るのね。神様、本当にありがとうございます」
母親が病気になって一週間。頼る人も無い中、幼い弟が不安にならないように気を使っていたのだろう。ミーナは安心したのか母親に抱きついて大きな声で泣き始めた。
そんなミーナに母親は、小さな声で「ありがとう」と言い、泣き止むまで背中を擦っているのであった。
僕はその光景を見て思った。
母親の病気がインフルエンザでなかったらどうしようと‥‥‥‥‥‥‥
(神様、お願い。助けて!)
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