第4話 アズール家族を救え(2)
怠惰の神からのクエストが来た。
『アズール家族を救え』
詳しい説明や質問を受け付けない一方通行のメッセージ。何をもってクリアになるのか判らない。(怠惰の神だから適当なのか?)
アズール家族は母親と姉弟の三人家族。父親は狩りで亡くなっているらしい。理由は判らないが、食料不足のようで三人共にやつれている。そして母親は何かの病気で寝たきりだ。
母親の病気を治し、食糧難を解決すればクエストクリアとなるのだろうか。
まあ僕はこのクエストが無くても、この家族を助けたいと強く思っていたけどね。
そこでまずは「神のお告げ」にて、僕の存在を知ってもらい、協力して生活改善していこうと思う。さて、一日一回で三十文字までの縛りがあるので判りやすく簡潔にしたメッセージが必要だ。どうするかな。
『僕は神です。あなた達を助けたい。お母さんの名前を教えてください』
「なんで母親の名前が優先なんだ」って?
いや、サンプルとして考えてみただけだよ。コンプリートを優先した訳じゃないからね?
そして思い知った三十文字まで縛りの厳しさを。さっきのサンプルでも一文字オーバーしている。これでは一度で伝えきれない。
とにかく今日の一回では無理だと判ったから、どんな風になるのか試してみよう。
僕はじっくりと考えた。(心配しなくてもお母さんの名前は聞かないよ)
『私は神。貴女達を見ている。助けたい。後で食べ物送る。毎日送る。』
ジャスト三十文字だ。僕は頑張った。
まずは食べ物を送ることにより、僕の存在が本当だと信じてもらえるのではと考えた。
よし、「神のお告げ」を試そう。
僕はカーソルを「神のお告げ」に合わせてクリックした。(ドキドキするな)
するとチャットウインドウに「誰にお告げしますか?」と表示される。(えっ!家族全員じゃないの?一人限定?)
「マジか‥‥‥怠惰の神って意外とセコい?」
僕は再び考える。一人だけとなると大人である母親にするのがベストだろう。だけど名前知らないよ?どうするの?「母親」で大丈夫なのかな?試してみよう。
僕はキーボードで「母親」と入力する。そして結果は駄目だった。
「むがー!少しは融通利かせよなっ!」
僕は怠惰の神が居るであろう上に向かって文句を言った。(天罰とか無いよね?)
仕方ない。次の候補だ。
僕のイチオシのタルクは賢そうだがまだ幼い。多分、六歳くらいではないだろうか。
残るは姉のミーナだ。家族思いの優しい女の子。中学生くらいに見える。十二歳前後なのだろうか。次の候補としてはミーナになるが、僕は少しだけ不安になっている。
それは僕の幼馴染みの女の子に、どこか雰囲気が似ているところだ。まあ、思い過ごしだと信じてミーナに「神のお告げ」を送る事にしよう。家に戻って来たらね。
それまでに「神の施し」を試してみる事にする。最後の決定ボタンをクリックしなければやり直しは出来るだろう。
僕は「神の施し」を実行した。
「ブウォン」と音がしたと思うと、テーブルの空きスペースに、縦横30cm高さ15cmほどの大きさの段ボール箱が一つ現れた。
装飾なんてものはない茶色オンリーの箱。厚みはしっかりしていて、潰れたり底が抜けたりしそうにない。
(フムフム、この段ボール箱に入れるとアズール家族の元に届くんだな)
僕は段ボール箱の蓋を開け、中に飲みかけのペットボトルを一本入れてみた。
少し待ってみたが何も反応が無い。ならばと段ボール箱の蓋を閉じてみる。するとモニターに『どこに配達しますか?』とメッセージが表示された。(なんか運送屋さんみたいだね。もっと言い方あるんじゃない?転送とか)
『どこに転送しますか?』
僕の考えを読み取ったのか、いきなりメッセージ内容が切り替わった。
「えっ!僕の考えてる事が判るの?!」
今まで叫んだりメッセージを送ったりしても、なにも反応しなかったのに‥‥‥‥‥
その後、僕は頭の中で色々と質問したがなにも反応は無かった。(ぐぬぬぬ‥‥解せぬ)
僕は諦めて食べ物を段ボール箱に詰めていく。昨日の晩御飯であったおむすびとトンカツが入ったタッパー、ウインナー1袋、缶詰め10缶、食パン一斤、ジャム一瓶(食べ掛け)、果汁100%ジュース三本。これで段ボール箱はいっぱいになった。
そして僕は閃いた。
「手紙も一緒に入れればいいんじゃね?」と。さっそく事細かく書いた手紙を段ボール箱に入れて蓋をする。
‥‥‥‥‥‥‥反応しない。
手紙を出して蓋をする。
『どこに配達しますか? あっ!どこに転送しますか?』
「………………」
なんで打ち直しせずに訂正文を追加するの?何気に人間くさい仕草をしやがって‥‥‥‥返事は全くしないのにな!
もう手紙が送れない事が判ったけど、そっちが気になってどうでもよくなったわ!
『まあ、そんな気にすんな』
新たに追加されたメッセージ。
「……………」
僕はそのメッセージを無視し、ミーナが戻るまでアズール家族の様子を見ることにした。
家政婦さんが待って来てくれた朝食を食べながらアズール家族の様子を見ているが、母親はベッドで寝たままだ。顔色が悪く少しだけだが苦しそうな表情をしている。
タルクは畑で「フフフーン、ラララーン」と、体を揺らし歌いながら楽しそうに草取りをしていた。(和むわ~)
そしてタルクが草取りを終え、桶に水を入れ柄杓で水やりをしていたところでミーナが戻って来た。(僕は何をしてたかって? ずっとタルクを見てたよ。因みに大人の女性が好きだからね。違うからね)
「タルク、帰って来たよ~。畑の草取りありがとうね。何も問題なかった?」
タルクは満面の笑みで答える。
「ミーナお姉ちゃん、お帰りなさい!ボク、草取り頑張ったよ!もんだい?大丈夫!」
二人は手を繋いで家に入っていった。
僕は視点を家の台所に移動させ、ミーナが居ることを確認すると「神のお告げ」を発動させた。(さあどうなる!)
タルクと手を繋いだままポカーンと口を半開きにして、どこか遠い目をしているミーナ。
その姉の様子を見て小首を傾げるタルク。
その間、約三十秒。
ミーナの首が「ギキギ」と機械音が鳴っていそうな動きでタルクの方を向いた。
やっと反応したか。短いメッセージだけど理解してくれたかな?僕はミーナの泣いて喜ぶ顔を想像した。(ふふふ、存分に喜ぶがよい)
「タルク‥‥‥‥‥この家、覗かれてるわ」
「ちがーーーーう!!! 合ってるけどそこじゃなーーい!」
僕は部屋で立ち上がり叫んだ。
やっぱり思った通りだった。僕の幼馴染みもどこか抜けててズレてる女の子なのだ。ミーナはその幼馴染みと同類だったのだと。
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