第18話 貴族の娘になった傭兵、第一師団長の隣で目を覚ます
カーテン越しに差し込む朝日がちょうど顔に当たって目が覚めた。
瞑っていてもわかるほどの眩しさに眉を顰めて、目を開けると、いつもの生活では目にしない高い天井で、ここはどこだったか、と思い出すのに少々時間がかかった。
寝心地の良い弾性に名残惜しさを感じつつも、未だ慣れない馴染めない身体をゆっくりと起こす。
昨日までの疲れが完全に取れているのは、若い身体だからか、寝ていた場所が一級品だったからか。
とにかくこんなにも清々しく起きれたのは何年振りか、と言わんばかりに大きく伸びをして完全に身体を覚醒させる。
そして一気に脱力して、後ろに手をついて――。
むにゅとした柔らかな感触。
「……ん」
その後に聞こえた微かに漏れる吐息の音。
ギバは思わず後ろを振り返ると、そこには赤い髪が乱れながらも気持ち良さそうに寝る
あり得ない彼女の存在に驚き、思わず強張り手を動かすと、また柔らかな感触。
一体何に触れているのか、とその手があったのがとある豊かな山脈のひとつだと理解した瞬間、
「ッ!」
間髪入れずにギバはその手を引き抜いた。
勢い余って身体も仰反る。
何故ここに彼女が? と動揺するが、
「……あぁ。そうか」
彼女から微かに漂うアルコール臭ですぐに察しがついた。
昨日の夜、リラと二人で会話していた合間に部屋に入ってきたのはアイラだった。
パーティーの後、アイラはリラの両親に強制的に連行され、リラ談(リラについての談笑)という名の二次会に参加させられていた。
最初は愛想笑いを浮かべてフォードとラルーの話に付き合っていたようだったが、このままでは朝までコースになりかねん、とリラの護衛を理由に話を切り上げたらしい。
そう言った手前、真っ直ぐ自身に与えられた客室――とはいえ有事に備えてリラの部屋と繋がるように出来た護衛用の部屋なのだが――そこに帰るわけにもいかず、リラの自室に向かったみたいで。
そして、入ってきたアイラの第一声は
「飲み直します!」
だった。
ご丁寧にも両手にはどこから取ってきたのか、ワインボトルとグラスを持っていた。
曰く、こんなに良いお酒があるのにブラウン卿に気を遣って呑めなかった、とのこと。
仮にも名目上は私の護衛だろう、とギバは呆れながらも諭したが、アイラの目は据わっていてこう言った。
「中身がギバさんだから大丈夫でしょう」
今朝と言っていることが違う、と思わず突っ込みを入れるが、アイラは
「そんなこと言いましたっけ?」
と惚け、やっと呑めると言わんばかりに、自分のグラスにワインを注いだ。
さらに一人で呑むのかと思えば、リラに
「何事も経験です! ギバさんの身体は強いですから!」
とお酒を薦め、あろうことかリラの好奇心をくすぐってしまい、止めるのが大変だった。
そんなこんなで彼女は泥酔。
リラと共に護衛用の部屋に返したはずだったが、いつの間にか引き返してこっちで寝てしまったらしい。
「はぁ」
ギバはため息を吐くと、気持ち良さそうに寝る元部下の姿を眺め、やがて布団をかけ直すと自分はベッドから降りた。
護衛対象を前にこの体たらく。
最初は呆れてはいたが、表向きは護衛とはいえ、裏では囮。
泥酔している騎士がいるとわかれば、賊も油断するだろう、と考えを改めた。
さて。
日が昇ってきたとはいえ、外の様子からまだ早朝。
使用人でさえもまだ仕事をしていない静かな時間だ。
これからどうするか、と考えを巡らせていると、
――ブォン
外から風切り音が鳴っていることがわかった。
聞き馴染みのある力強いその音。
むしろ自分の側で鳴っていないことに強烈な違和感を覚える。
聞いてすぐにわかるほど心当たりのあり過ぎるその音に、しかし、まさかと驚く。
ギバはすぐに部屋から出て、その音が聞こえた中庭の方へ向かった。
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