第17話 傭兵のフリする貴族の娘、満面の笑みで魔道具について語る

「どういうことだ?」

「それはですね!」


 リラは本棚の方を向き、二冊の本を抜き出す。

 それぞれの本をパラパラと捲り目的のページに辿り着くと、「見てください!」と言わんばかりに大きく開いてギバに見せる。


 確認すると、どうやら一冊は天文に関する統計資料。そしてもう一冊は魔道具に関する論文集のようだった。

 統計資料では流星群が観測された場所と時間がまとめたページを開いていた。

 次に論文集で開かれていたタイトルは


『魔道具の出現頻度とその在処についてのいくつかの議論』


とあった。

 論文のページに一枚の紙があり、そこには手書きでまとめられている表のようなものが記載されていた。

 これらを出した意図がわからず


「どういうことだ」


とギバはリラの顔を見ると、


「こちらの論文の中では、天然の魔道具の出現頻度、場所や時間の詳細なデータを分析して、いくつかその発見法について議論しています。

 その中には、発見された場所の環境――特に魔素が充満しているところで魔道具が発見しやすく、魔素が増幅したタイミングで魔道具が生成されると記述されています」


 魔素というのは大気中にごく微量に漂う魔力を帯びた粒子のことだ。

 魔素が豊富に集まる場所では、魔道具の威力が増幅すると言われている。

 リラが見せてくれた論文には、魔素が集まることで魔道具が生成されると考察されているようだった。

 論文の中では、まだ実験的に証明されてはいないが、との注意書きはあったが、理に適っている気はする、とギバは思った。


 魔道具は不可思議。

 未だ何故存在するのか、を決定的に説明する手立てがない代物であると言われている。

 魔素が豊富な場所で発見されやすいというのは巷でもよく言われていることだ。


 特に普段から魔素が多いと言われる森や山などを行き来している冒険者界隈では経験的に知っている者が多い。

 であれば、魔素によって魔道具が生成される、と説明されれば、そうなのか、と納得する。

 それでは


「この論文ともう一冊がどう関連しているんだ?」


とギバは素直に聞く。

 すると、リラは得意げな顔をすると、論文に挟まっていた紙を取り出す。


「この論文、実は魔道具が発見された場所とその時間が詳細に書かれているんですけど、これを時間順にまとめるとこういう表になるんです!」


 どうやらこの表はリラが論文を読みながら作った表だったようだ。

 この表と流星群の資料を見せながら、


「何か気が付きません?」


と質問するので、眉間に皺を寄せて、その二つを見比べてみる。


「なるほど」


 確かに表を見比べると一目瞭然。


「流星群が観測された時期と魔道具が発見された時期が重なるな」

「そうなんです! それに星が落ちたと思われる場所と魔道具が発見された場所も似通っていますよね!」


 ギバが理解したことでより一層嬉しそうな顔をするリラ。

 流星群と魔道具の関連、そしてアストロの物語を照らし合わせてみると、リラの言いたいことがなんとなく見えてきた。


「つまり君は、流星群……つまり星自体が魔道具である、とそう言いたいのか?」

「そうです! アストロの物語でもあった『降ってきた星々に不思議な力が込められている』というのは実は魔道具だったのではって考えているのです!」


 リラは興奮し、目を輝かせてそう叫ぶ。


「明日にもまた王都周辺で観測できる流星群があるとお聞きしていますし! もしかしたら王都近くで魔道具が発見されるかもしれません!」

「観測は至るところで出来るからな。

 落ちる場所が王都近くとは限らないが、そこで魔道具が発見されれば君の仮説は証明できるわけだ」

「えぇ! しかも明日の流星群は少々特別なので、観るのを楽しみにしているんです」


 ギバの理解の早さに嬉しくなり、リラは満面の笑みを浮かべる。


「専門家でも気付いていないことなので、もしかしたら間違えているかもしれませんが! 天文と魔道具が好きなわたしからすれば、とてもロマンがあります」


「なかなか興味深い話だった。他の物語も、もしかしたら何か実際にあったのかもしれないな」


「そうですね! アストロの物語は必ずしも作り話ではなく、大昔に起こった教訓を物語にしている可能性もあります!」


「色々な地方を巡れば、その物語のモチーフを発見できるかもしれない。そういう旅をするのもまた面白いだろうな」



「…………」



 ギバの発言を聞いた途端、リラの口は静止した。

 妙な間が開いたと感じ、ギバはリラの方を見ると、少し表情が固まっているような気がした。


「どうかしたか?」

「……いえ」


とリラは首を横に振る。


「わたしもアストロのように星を観測しながら旅をして様々な発見ができたら……と子供の頃は夢見ておりました」


 違和感のある言い方だ。表情もどこか無理して微笑んでいる。


「今は違うのか?」

「そうですね」


 先程のようなキレがないが、なんとなく理由は察する。リラの立場を考えれば容易に想像がつく。

 だが、その次に出てきた言葉はギバの想定とは少し違った。


「わたしは『リラ・ブラウン』ですから」

「ん? それはどういう意味――」


と意図を聞こうとするが、


 ――ガチャ


 突然、部屋の扉が開く音でそれは中断されることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る