2章 星と魔道具の研究
第16話 貴族の娘となった傭兵、傭兵のフリする貴族の娘の部屋につく
「ようやく終わりましたね。お疲れ様です」
「あぁ」
フォード達とのパーティーは終わった。
リラの部屋に案内されたギバとリラはようやく演技を解くことができ、二人とも安堵の息を吐いた。
その日の夜まで続いたパーティー。
終始、ギバは微笑みを保ち続け、リラは眉間に皺を寄せ続けた。
そのパーティーの間に、アイラと『ギバ』を改めて紹介。
今回の事件の再発防止のためにしばらく二人を娘の護衛につかせてもよいか聞くと、あっさり承諾を受けたので三人とも拍子抜けした。
曰く、
「僕の愛する天使は天使すぎるからね! 当然、誘拐犯もその魅力に気づいたんだろう!」
「そうね! 再び攫いに来ることなんて充分にあり得ますから! むしろこちらから願い出ようと思っていたところです!」
フォードとラルーはそう高笑いしてアイラ達の滞在を許した。
そんなことを思い出しながら、ギバはリラを見る。
「君のご両親は、その、なんというか、強烈だな」
「すみません……お恥ずかしい限りです」
珍しく歯切れが悪いギバの言葉に、リラは顔を真っ赤にさせると両手で顔を抑える。
娘を溺愛している、とは噂には聞いていたが、想像よりも遥かに超えていた。
溺愛している。し過ぎている。
パーティーでも終始リラの話で持ちきり。
フォードとラルーが矢継ぎ早に話すから、別にギバ自身が話す必要もなくボロは出なかったが、微笑み過ぎて口角が痛い。
しかも事あるごとに頬ずりをする母のお陰で、両の頬が少し赤みを帯びていた。
どんだけ可愛がるんだ、と。
忍耐力の強いギバであっても、あの強烈な二人の前ではかなり色々削られてしまった。
珍しく椅子に深く座り、力を抜いていた。
そうやって虚空を見つめていたが、ふとリラの部屋の様子に気がつく。
「ところで、君の部屋は本が多いのだな」
リラの部屋は一般的な貴族の娘の部屋よりもだいぶ広いはずだが、少々手狭に感じる。
それは、リラの部屋を囲むように本棚が羅列されていて、その本棚にぎっしりと本が詰まっていることが影響している。
書斎だ、と思うほど本があり、圧迫感があるのだ。
中でも特に多いのは、二つ。
「魔道具と星に関するタイトルが特に多いな」
好きなのか、とリラに聞くと、彼女は首を縦に振る。
「えぇ。そうですね。本を読むのは好きですが、特にその二つは面白いと思います」
「ふむ」
ギバは近くにある本棚から無造作に一冊手に取る。
「あ、それ、特に好きな本です」
思わず、といった感じでリラがそう言う。
本のタイトルは『占星術師アストロの冒険』。
「あぁこれか。私も子供の頃に読んだな」
児童向けであるこの本はギバが幼少の頃から存在している名著。
占星術師であるアストロが観察した星の導きに従って世界中を旅をする。
行く先々で不思議な事件に巻き込まれるが、星を占うことで解決策を導き出していく。
シンプルな短編集ではあるが、それ故に誰もが知っている物語だ。
貴族であれば本で読むし、平民であればどこかの吟遊詩人や母の寝物語などで耳にする。
その物語の虜になる人も多い。
リラもその一人だった。
「アストロ、良いですよね!」
リラは指を組み、目を輝かせながらそう言う。
「どれもわかりやすいのに、ワクワクするしハラハラもします。
観測した星と導かれた場所がちゃんとリンクしていますし、解決方法も面白くて……!
あと設定自体もとても魅力的で!
新月の時に家を交換する兄妹のお話とか彗星の尾の毒によって滅亡してしまった村のお話とか」
矢継ぎ早に取り留めなく話すリラ。
アストロがとても好きなんだということがよくわかる。
「ギバ様はお好きな話ありますか?」
パラパラとページを捲りながら、リラの話を聞いていると急に話を振られた。
驚いてリラの方を見ると、目がキラキラとしていて何か期待している様子。
もう昔のことだからあまり話を覚えていない。
だが、こういう眼差しで見られると、
「覚えていない」
と一蹴してしまうのも可哀想だ。
ギバは今開いていたページをチラッと読み、記憶の引き出しからその内容を呼び覚ます。
「あぁ……このページの話、とか」
「どのページですか?」
とリラはギバが手に持っている本を覗き見る。
断片的にだが、内容はなんとなく覚えていた。適当に選んだにしては覚えているもんだ。
タイトルは確か――、
「『アストロと星の降る街』だったか?」
「あぁ! そのお話! わたしも大好きです!!」
どうやら、良くも悪くもリラの好みを引き当ててしまったらしい。
「天から星が雨のように降ってしまう街のお話ですよね! 住民はみんな石の傘で降ってくる星から身を守って生活しているんですけど、やっぱり困ってるからってアストロに相談したところ、実は降ってくる星々に不思議な力が込められていることがわかって、その力を上手く使って解決するっていう!」
ペラペラと口が回るリラに気圧されて、少し引いてしまう。
だが、リラはそれに気づかず続ける。
「それで、そのお話の何が素晴らしいかというと、結局のところアストロの観察眼と解決方法!
まさか流星を止ませることを考えるのではなく、降ってくる星自体を利用してしまおうとは思いませんでした」
リラの勢いは留まることを知らない。まるで水を得た魚の如く、饒舌に語っている。
その姿を見て思い出すのは、彼女の両親。
自分の好きなものに目がないという姿は、あの親あってこの子あり、という感じで興味深い。
「それに知ってます?」
とリラは人差し指を立てて、目を輝かせながら顔を近づける。
「な、何がだ?」
「実はあの話、あながち作り話っていうわけでもなさそうなんですよ!」
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