第11話 貴族の娘になった傭兵、チンピラに遭遇する

「なんだ?」


 突然の出来事に声を上げると、


「どうやら襲撃のようです」


と馬車を操縦していた御者が説明する。

 他人事のようにいう御者に違和感を覚えながらも、ギバはアイラと共にすぐさま馬車の窓から前方を確認する。

 なるほど。どうやら自分達の馬車が襲われているわけではないようだ。

 前で止まっている荷車を数人の男達が剣を構えて囲んでいたようだ。


「やいやいやいやい! ここを通りたけりゃ通行料払いな!」

「金目の物全部置いていきな!」

「お、お止めください!」


 荷車を引いていた女性が困ったようにそう叫ぶ。


 王都郊外に住む農夫だろうか?


 見たところ、王都に採れた作物を売りに行った帰り。

 荷車に野菜や肉はなく、皮袋が放り込んである。

 おそらくあの男達の目的は皮袋の中身――金が入っているんだろう。

 あの農夫が王都から帰るタイミングを見計らっていたに違いない。


「おい、しかも別嬪じゃねえか」

「こりゃラッキーだ」

「しししししかかもも……おおおお女の子こここもいる~ッ!」

「お、お母さん……」


 女性の陰に隠れていた少女が、恐怖で思わず母に助けを求めていた。

 不安そうな少女の顔や声に、男達の大半は薄気味悪い笑みを浮かべ、一名は興奮していた。


「金も入るし、女も手に入る! まさに一石二鳥。お前ら、今日は運が良いぞ~」

「私は別に構いませんから、娘だけは!」


 そう言って、農夫の女は娘を抱きかかえていた。




「随分わかりやすい奴らだな……バナナか?」

「いえ、違うと思います。彼らならもっとこっそりやるでしょう」


 そんな中、馬車の中では、顔を青く染めて両手で口を塞ぐリラがいる一方、ギバとアイラは冷めた目で彼らを観察していた。


「ならただの不良か……ちょうどいい」


 ギバは静かにアイラの隣に置いてあった剣を持ち、扉に手を掛ける。


「ち……ちょっと! ギバさん!?」


 突然の行動にアイラは驚きの声を上げて、肩を掴む。


「何するつもりですか!?」

「彼女らを助ける」

「!! 本気ですか? さっき自分で動く必要がないって納得しましたよね!?」

「心配するな。服は汚さん。この剣も借りるぞ。私のでは重いからな」


とアイラの愛刀を持ち直す。


「そういうことではなくて!」

「リラ・ブラウン」


 叫ぶアイラを無視して、リラを呼んだ。


「君に手本を見せよう」

「え?」

「完璧に似せる必要はないが、ある程度の基本は覚えた方が良い」


 アイラの手を静かに振り払い、ギバは扉に力を加えてガチャッと開けた。

 その音に反応し、男達はギバ達が乗っている馬車に漸く気が付いたようだ。

 そして、その中から小さな身体に剣を携えた娘が飛び出すと、男達は更に騒めいた。


「おい……女の子じゃねぇか?」

「ああ、しかもかなり上玉」

「こんなところに出会えるなんてなぁ!」

「一石三鳥!」

「おおおおおおなのこがふふふふ二人~⁉」


 経験したことのない下卑た視線にギバは眉間に皺を寄せると、


「ひどいな。この視線にいつも耐えていたのか」


と改めて女性に敬意しつつ、剣を構えた。


「ここで待っていろ。私の戦い方を見せてやる」

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