(08)
「……お腹減ってない?」
つばさが与晴に聞く。夕食は取ってない。さっきのバーで口にしたのは水だけだ。
「減ってます。どこか寄ります?」
少し考えた後提案した。
「久しぶりにうちでごはん食べていきなよ」
高校と大学の部活の仲間をそうやってよく家に連れて来ていた。
そのノリで同期や与晴も家に連れて行ったことが何度かあった。
しかし全てはつばさの婚約前。与晴は遠慮した。
「父親は明後日まで仕事で帰ってこないし、宮田さんはペアの子家に連れてきて怒るような心の狭い人じゃない」
それでも遠慮する相棒。つばさははっと気づいた。
「……やっぱりわたしのせいで振られた? 年下の彼女に?」
「だからそれは違いますって……」
戦法を変えた。
「歳が会いたがってるよ」
「え? ほんとですか?」
少し心が動いたらしい彼にさらに追い打ちをかける。
「新顔もいるよ」
「新顔って?」
「来たらわかる」
手を変え品を変え、しきりに誘う先輩の押しに与晴は負けた。
「……分かりました。お言葉に甘えさせて貰います」
「素直でよろしい。引き続き運転お願いします」
つばさが母に連絡を入れると、すぐに返事が来た。
「カレーだって」
「ありがとうございます」
つばさはメッセージの続きを訝しんだ。
「お代わりし放題って…… なんでそんなに作った?」
二人の車は岩井家に向けて進んで行く。
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