(07)

 窓の外を眺めながら、つばさは与晴に聞く。




「……歳下彼女設定の方がやりやすかった?」




「……はい。……歳下としか付き合った事ないんで」




「……先に言ってよ。……この前、無駄に緊張させたじゃん」




「……すみません」




 二人はコンビを組んでそろそろ三年目。


 しかし、与晴は何故だか自分のプライベートのことはほとんど話さなかった。


 信用されていないのかと、少し寂しく思うことがつばさには時たまあった。








 つばさのスマホにメッセージの着信があった。確認した途端に彼女は天を仰いだ。




「うわー……」




「……どうしました?」




「明日、朝イチで検死立ち合えって……」




 つばさの最も苦手な仕事だった。




「……大丈夫。一人で行くから。運転集中して」




 与晴はつばさ以上に苦手だった。




「いえ行きます。いい加減慣れないといけませんから……」




「何度も言ってるけど、慣れはダメ。人として終わりだから。いい?」




「はい……」




 慎重な運転を続ける与晴を眺めながら、つばさは相棒が最初に来た頃を思い出していた。




 二人で初めて行った殺人現場。与晴は眩暈を起こした。


 驚いたつばさは現場を他の班員に任せ、他の仕事に回った。


 後で彼に聞けば、配属直後の交番勤務時代、初めて立ち会った交通事故現場で


吐いて仕事にならなかったこと、上司に怒られ、警察官をやっていく自信を喪失しかけたと告白された。




 つばさも何度も痛ましい現場に立ち会ったことがある。慣れたわけではない。


 しかし、前のペアだった三宅にもキツく言われていた。




『慣れたらダメだ。何とも思わなくなったら、人として終わりだ』と。




 だからこそ、与晴にも同じ事を言い続けている。

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