(06)
店内の混乱を収め、事後処理を全て済ませた後、思わずつばさは漏らした。
「痛っ……」
与晴が声を上げた。
「先輩、どこかやられましたか!?」
「声が大きい! 目が怖い! ヤクザの闘争じゃないんだから……」
「すみません……」
心配してくれたことを、つばさは嬉しく思った。
「ごめん。ただの靴擦れ。ヒールで格闘するもんじゃないね。脱いでやればよかった」
与晴はジャケットの内ポケットから何やら取り出した。
「絆創膏貼ります?」
彼からはよくこうやって物がスッと出てくる。
つばさはハンカチもティッシュも持ってない時がよくある。
絆創膏はおろか、薬まで常備している与晴とは正反対。
よく与晴の持ち物に世話になっていた。
「ありがとう。ありがたく使わせてもらいます」
つばさは小さなため息をついた。
「……ほんとできる子だね、与は」
仕事は全て終了。二人の勤務時間も終わり。時刻は23時を回っていた。
「ご自宅まで送りますね」
当然のようにそう言って車のエンジンをかける与晴。
「いいよまだ電車で帰れるし。そもそも、与、逆方向でしょ?」
つばさは実家。与晴は独身寮。
与晴は引かなかった。
「その格好でこの時間の一人歩きは危ないです。さっき転びかけてましたし、靴擦れしてますし」
反論できない。しかし、心配してくれる後輩に、つばさは嬉しくなった。
「……もし先輩に何かあったら、岩井警視正と宮田警視正に殺されるのは俺ですからね」
嬉しさが瞬時に引っ込んだ。
自分の父と婚約者を怖がっているのが、最大の理由だ。
それは自分に必要以上に気を遣わせてるというつばさの悩みでもあった。
「……あのね、悪いのを捕まえる警察官が人を殺すわけがないでしょ?」
「社会的に殺されるんです。俺、ほんとに懲戒免職だけは勘弁です……」
与晴はやたら懲戒免職を怖がる。
相棒を守るためにも、送ってもらうのが正解だとつばさは判断した。
「……じゃあ、すみませんが、お願いします」
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