(04)

「……今日の設定は、歳下彼女と二回目のデート、フレンチの帰り、OK?」




 歩きながら手筈を再確認。




「……了解です」




 二人でいると絶対と言っていいほど、つばさが年下で部下だと間違えられる。


実際には年齢、経験、階級、全てつばさの方が上にもかかわらず。


 しかしつばさはそれをよく逆手に取る。今日もそのつもりだった。




「……わたし丁寧語、与タメ口。お互い呼び方は苗字。OK?」




「……了解」




「……リラックス。怖い顔しない」




「……はい」




 与晴は真面目すぎるのか緊張しいなのか、こういう仕事が苦手だった。


彼を鍛えるためというのも、つばさが彼を相手に選ぶ理由だった。


 手を変え品を変え彼を鍛えている。




 店の前に到着した。


 半地下の入り口までは階段になっている。


 逃げられた時が厄介だと考えながら歩いたせいか、はたまたヒールのせいか、つばさは躓きよろけた。




「あっ」




 咄嗟に隣の与晴が抱き止めた。




「大丈夫!? 足、怪我してない?」




「ありがとうございます。大丈夫です。……やればできるじゃん」




 与晴の顔から緊張は消え、微笑みが浮かんでいた。








「……現着しました。入ります」




 狭い店内。さっと見渡し、カウンターに座っている茂山と西谷にアイコンタクト。


 そして、同じくカウンター席で女と酒を飲むホシを目視確認。




 二人はソファ席に座った。


与晴が手慣れた素振りで注文する。




「ジントニックと、マティーニ」




 もちろん、二人とも一滴も飲みはしない。




 つばさの耳に三宅からの指示が届いた。




『ホシの連れてる女、余罪ありだ。全て茂山の指示通りに動け』








 しばらく与晴と話しながら待機する。カップルのフリをしながら。




「……今日はありがとうございました。ごちそうさまでした」




「こちらこそ。口に合ったようで安心した。今度はドライブがてら、イタリアンでもどう?」




「はい。ぜひ」




「夜景が綺麗なとこあるんだ」




 ものすごく自然な与晴に、つばさは内心驚いていた。


 前回は歳上彼女の設定にしたせいか、緊張でガチガチだった


 今日はなぜか余裕すら見える。


 慣れたのか、もしや……




 少しすると、ホシの女が席を立った。


途端、茂山から指示が出た。




『岩井、職質からの任意動向頼む』




 つばさは腰を上げた。




「……ちょっとお手洗いに行ってきます」

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