(03)

 その日の夜、つばさと与晴は駐車場に停めた車の中にいた。


普段と違うのは二人の身形。




 つばさはいつも、パンツスーツにローヒールのパンプス。


必要最低限の身嗜み程度のメイクで、髪はポニーテール、ノーアクセサリ。


 今夜はドレスに近いノースリーブの黒いワンピースにヒール。


服装に合わせてネックレスにイヤリングも装着。フルメイクを施し髪は下ろしている。


 ……無線イヤホンを隠すため。




「姐あねさん、大変お似合いで……」




 相棒のその発言につばさは苦笑いした。




「……そのカッコで言うともう完全に若頭だよ」




「そうですか?」




 いつもスーツの与晴だが、今夜はハイブランドのスリーピース。


 普段は無造作に分けている前髪を全て後ろに撫で付けたオールバック。




「与、目が怖いし顔も怖い。冗談じゃなくて本当にヤクザに見える」




「えー……」




 指摘を受けた与晴はバックミラーを覗き込み、表情を調整した。




「どうですか?」




「マシになった」




 合格をもらえなかった与晴は鏡と睨めっこし始めた。


 そんな真面目な相棒につばさは笑いを堪えて言った。




「深刻に考えすぎない。落ち着いて。リラックス、眼力弱めて」




 真面目に言うことを聞く後輩をつばさは微笑ましく眺めた。








 与晴が腕時計を見た。




「まだですかね?」




「そういえば……」




 つばさも腕時計を確認した。




 今日の作戦は、高級バーの店内で犯人確保。


挟み撃ちにするため、既に茂山と西谷が店に入っている。


 今のところホシはまだ来ていない。




 今日のこの作戦、つばさには茂山と組む話もあったが断って与晴を選んだ。


ペアだからやり易いというのが最大の理由だったが、他にも色々と訳があった。




 無線が入り、ホシの入店と二人の潜入指示が出された。




「……了解。岩井、佐藤、向かいます。……行くよ」




「了解」




 車から下りると二人で揃って店へ向かった。

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