(05)

 つばさは剣道と反対に素手ではかなりのものだった。

 彼女の履歴書に並ぶのは、柔道、空手、合気道、少林寺拳法の段数。

 オリンピックも狙えるかと言われたぐらいだったが、学業や仕事を優先した。


 強すぎる彼女に女性相手の訓練は意味を成さないので、相手は男性陣だった。


「佐藤! 手加減するなって言ったはず!」


 与晴はすぐに投げ飛ばされた。


「違います! 俺が弱すぎるんです!」


 彼はつばさと真逆で柔道が苦手だった。


「茂山! ふざけるな!」


 茂山は寝技であっという間に降参した。


「ふざけてない! つばさが強すぎるんだ!」


 三宅は奮闘したがつばさにあっさり負けた。


「岩井さん、参りました……」


 しかしそんな彼女でも、署内で最強の井上にはいつも敵わなかった。




 更衣室でつばさは悔しさを露わにした。


「あとちょっとで玄さんに勝てたのに!」


 隣で淡々と着替えをしながら、吉田が言った。


「岩井。もっと筋肉つけな。筋肉は裏切らないから」


 綺麗に程よく筋肉が付いた引き締まった身体を持つ吉田の言葉を、つばさは大人しく聞いた。


「……はい」


 西谷が真顔で言う。


「でも、つばささんってどんなに食べても鍛えても、全部お胸にいくんですよね?」


「……え? どういうこと?」


 吉田がつばさを小突く


「この無自覚隠れ巨乳め! なんて物を服の下に隠してんだか!」


 つばさは膨れた。


「こんなの、邪魔なだけです!」


 胸に視線が行くのを避けるため、つばさは急いで服を着込んだ。


「聞いた? 邪魔だって!」


「羨ましい! わたしも邪魔って言ってみたい!」

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