02. 未来予想図(8+1)


 身長というステータスは、決してモテる男の必須項目ではない。

 あればいいなとか、自分よりは高いほうがとか、その程度の願望はあれど「彼氏は絶対に180以上じゃなきゃいや!」という女子はそういないはずだ。いたとしてもそれは俺の好みの女子ではない。つまりはどうでもいい存在なので視界から外す。

 そんな俺の身長は、大体172……173cmということにしておくとして。これは決してチビではない。

 でかくはないが。

 チビではない。チビでは。


「……ヤナセ、目がキモいんだけど」

「そうだよー。そんな見られてたら着替えにくい」


 ただ、こいつらがデカいんだ。

 いつも一緒にいる、バスケ部の二人。


「お前ら身長いくつあんの」

「んーと、188?」

「……それマイナス10」

「何それ。巨人? ずるくない?」


 いたって普通の身長なのに、こいつらと並ぶと、どうしても俺という存在が縮小されてしまうような気がする。


「そんなこと言われても。俺ガキの頃からでかかったしなー」


 特にこいつ。シムラ=バカ=タカシ。

 こいつは出会った中1の時点で、今のイチくらいの身長があった。これでバスケしてなかったら、ただのトーテムポール……いや、電柱だ。


「身長かー……俺もうちょい欲しいな」

「イチ充分じゃん! でかいじゃん!」

「でかくない。そりゃ小さくもないけどさ。上の方の大会とかいったら完全に不利」


 そう、そうなんだよ。こいつらこれでも全国レベルだし。比べる基準が間違っている。

 トーテムポール……電柱なシムラはとにかく。イチの身体なんて、一般的な目線でみたら思春期の男が理想とするカラダそのものじゃないか。

 身長もイイ感じにあって、筋肉もいい感じにのってて。

 おまけに手も足もえらく長い。


「充分だって。ねえ。何食ったらそんなでかくなんの。豆腐? やっぱ豆腐?」

「お前……俺が豆腐だけででかくなったと思ってるわけ」

「だってイチんちの豆腐マジうまいし!」

「うん。ほんと旨いよね」

「有難う。でも、味は関係ないよな」

「関係ある! あるある! 旨かったらいくらでも食える!」

「いや、いくらでも食べないし。そりゃうちは豆腐屋だけども、俺は普通に肉と牛乳と野菜で育ってるし」

「うっそだあー。イチんちドーナツにまで豆腐はいってるじゃん」

「いっとくけど貧乏で入れてるんじゃないからな?!」

「……いーなあいーなあ。俺もとーふ食いまくろうかなあ」


 身長は「必須項目」ではない。けれど。

 これを実際にモテてるヤツに見せ付けられると、流石にちょっと悔しい。


「いや、だからさ」

「背が伸びるかどうかはともかく、肌には良さそうだよね。イソフラボン? だっけ?」

「マジで。そんな、どうしよう。豆腐食ったら俺モテちゃうじゃん」

「聞けよお願いだから」

「え。どうだろ。馬鹿が治ればなんとかなるかな」

「治るって豆腐パワーで」

「すごい。万能」

「これぞイソラボンマジック」

「いや、イソフラボン」

「あ。うん。それ」


 とりあえず。最初の、来年の目標はイチを見下ろすこと。

 そして3年後には、巨人シムラのツムジをぐいぐいと押してやろう。

 その頃の俺は、きっとむちゃくちゃモテるナイスな大学生ストライカーに成長しているはず。

 我ながら惚れ惚れするほど完璧な未来予想図だ。


「……豆腐食ったくらいでモテるかよ」

「イチモテんじゃん! 一木君格好いいーって、女子そればっか!」

「そういうのはモテるっていわないの」

「だから言っといた。でもイチにはシムラいるからねえって」

「……何サラっととんでもないこと言ってんのお前」

「ライバルは滅すまで……」

「ヤナセ!」

「えー? いいじゃん別。俺気にしないよ」

「よくねえ!」


 余裕こくのも今のうち。

 見てろよ、一木荘介。

 

 待ってろ、光り輝く未来。

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