第3話出会うために必要なもの

「ワニの騎士に会いたい」と書いたとたん、青い光の柱が現れたグッドシナリオ。やがてその光の柱は形を形を変えて、本のしおりのような形になった。

『グッドシナリオの持ち主よ、我はパワー・

ストーム、グッドシナリオを造り出したものなり。』

「パワー・ストーム・・・。」

『パワー・ストーム様、わざわざ来ていただきありがとうございます。』

突然、メイクが頭を下げた。

「メイク!?一体、どうしたの?」

『おい、パワー・ストーム様が来たぞ、頭をさげろ。』

「えっ、パワー・ストーム様?」

『ぼくとグッドシナリオを生み出した存在だよ!』

えっ!?パワー・ストームがメイクとグッドシナリオを作ったの?

ぼくはあわててメイクに言われるまま、頭を下げた。

『顔を上げよ、私はグッドシナリオの契約者に話があって来たのだ。』

「えっ、それってぼく?」

『お前はワニの騎士に会いたいと書いたそうだな・・・、しかしお前にその未来が来ることは永遠に無い。』

「えっ!?ぼくは、ワニの騎士に会えないの?」

『ああ、その通りだ。それに会えたとして、お前はどうするのだ?敵をを討つとしても、お前とワニの騎士では、雲泥うんでいほどの強さがあるぞ。』

確かに仇を討つことはぼくも考えていた、けどワニの騎士はとてつもなく強い相手・・。

と思っていたが、ぼくはあることを思いつき、パワー・ストームに質問してみた。

「じゃあさ、ワニの騎士に会えたら『ぼくがワニの騎士に必ず勝つ』とグッドシナリオに書きこんだら、勝てるの?」

『いや、そうなるとはいえない。ワニの騎士は私と同じ力を持っている、グッドシナリオが決めた未来ですらくつがえせるかもしれん。』

「そんなに強いの・・・?」

『ああ、ちなみにワニの騎士の名は、ムナスマンという。』

ムナスマン・・・、グッドシナリオでも倒すのが難しい相手。でも父さんをどうして殺したのか知りたい。

『ぼくはどうしても知りたい・・・、父さんがどうしてムナスマンに殺されたのか、本人に会って聞きたい・・・。そして仇を討ちたい!』

ぼくは心に強く決意をした、ムナスマンは絶対に倒す!

そしてパワー・ストームは、こう言った。

『そうか、そこまで決意があるのなら力を貸してやろう。そのためには、このグッドシナリオをパワーアップしなければならない。』

「グッドシナリオをパワーアップさせるって、どうするの?」

『まずはグッドシナリオで多くのいいことを重ねるのだ、このグッドシナリオはいいことを書き続ければページ数が増えて行き、逆に悪いことを書き続ければページ数はあっという間に減ってしまう。だからいいことを重ねれば、グッドシナリオはパワーアップして、どんな未来もより確実に実現できるようになるのだ。』

「そっか、それじゃあいいことを書き続けるよ!」

『あの、パワー・ストーム様!ムナスマンがミライの父さんを殺したのは・・・』

メイクが何か話そうとした時、パワー・ストームがメイクを口止めした。

『何も言うな、メイク。』

『はい、すみません。』

『では、また会おう。』

そしてパワー・ストームはどこかへ行ってしまった。

「ねぇ、メイク。さっき何を話そうとしたの?」

『ああ、何でもないよ。それよりも、グッドシナリオをパワーアップさせないと!』

「そうだった、ムナスマンに会うためにがんばらないと!」

『まずは身近にいる人から元気にしよう。』

「身近な人・・・・、お母さんだ!」

ぼくは早速、お母さんのいるリビングにやってきた。

「お母さん、何か困っていることない?」

『わっ!?急に声をかけないでよ!!』

「ごめんなさい、それより何を読んでいるの?」

「ああ、これ?友だちが結婚することになって、その結婚式の時に読むスピーチの練習をしていたのよ。でも、なかなか緊張がなくならないわ・・・。」

ぼくの母さんはなれてしまえばできるけど、それまでは緊張してしまうタイプなんだ。しかも

「どう?まだ緊張してる?」

『まだ、なれない・・・。結婚式は明日なのに・・・、もう少し練習しないと。悪いけど、少し向こうに行っててくれる?』

「うん、わかった。」

ぼくは自分の部屋にもどっていった。

『どうだった?なにかこまっていたか?』

「お母さん、友だちの結婚式でスピーチをすることになったんだって。それで上手く読めるように練習している。」

『それじゃあ、お母さんが緊張しないようにグッドシナリオに書きこんであげよう。』

「うん、そうだね。」

ぼくはグッドシナリオを開くと、こう書きこんだ。

『お母さんが結婚式で、上手くスピーチができますように。』

そしてぼくはグッドシナリオを閉じた。








翌日、お母さんは結婚式へ行くために早く家を出たので、家にはぼく一人しかいない。

なので朝ごはんは、お母さんが前もって用意してくれたおにぎりと、昨日の残りのみそ汁を食べた。

「お母さん、ちゃんとスピーチできたかな?」

『心配は無いよ、グッドシナリオなら必ず大丈夫だから。』

ぼくはひと安心して、その日はずっと家で宿題や絵を書いていた。

母さんがもどってきたのは午後六時を過ぎたころだった。

「おそくなってごめんね、はいお土産。」

「やったー!ごちそうだ!!」

母さんが結婚式で出た料理を持って帰ってきた、それをテーブルに置いてぼくは母さんに質問した。

「ねぇ、スピーチちゃんとできた?」

「もちろんよ、慣れるのに苦労したけど、みんなから拍手してもらえてよかったわ。」

どうやらグッドシナリオの効果は出ていたようだ、そして母さんはこんなことを言った。

「実はね、新しい仕事を始めることになったのよ。」

「えっ!?仕事を見つけたの?」

実は父さんが死ぬ前まで、ぼくの家では父さんと母さんの稼ぐ給料で生活していた。けど父さんが死んでしまったから、母さんの稼ぐ給料だけでは足りず、母さんは転職することを考えていたんだ。

「友だちの結婚式に、友だちの親戚が来ていたんだけど、その親戚が会社を運営していたの。それで友だちが親戚に私のことを話していたようで、中途採用で雇ってくれることになったのよ。」

「そんなことがあったんだ、これで家のことは大丈夫だね。」

母さんは結婚式のスピーチに成功しただけでなく、新しい仕事を始めることができた。

『んん!?おい、ミライ!自分の部屋に来てみろ!』

「わ!どうしたの、メイク!?」

突然メイクにうでを引っ張られて、ぼくの部屋に入った。

そして机の上に置いてあったグッドシナリオを見ると、うっすらと光っていた。

『これはグッドシナリオがパワーアップしたということだよ、ページ数もふえている。』

ぼくがグッドシナリオのページ数を数えてみたところ、前より二ページ増えていた。

「ほんとだ、けど二ページしか増えてないよ。」

『そう簡単にパワーアップできないよ、ページ数を増やすなら、もっといいことをしていかないと。』

「そうだね、これからもっといいことをしていくぞ!」

ぼくはやる気が出て、「エイエイ、オー!」と拳を上げた。








翌日の午後の放課後、ぼくは学校の中をうろうろしていた。

「何かこまっている人って、いないかな?」

『さあね、ここにはいろんな人がいるけど、こまっている人を見つけるのは簡単じゃないよ。』

しばらくうろうろ歩いていたけど、こまっている人は見つからない・・・。

教室にもどろうとした時、教頭先生と用務員の先生が、上を見上げながらなやんでいた。

「一体、どうしたんだろう・・・?」

ぼくも上を見上げた時、あることに気づいた。

「あれっ!?校旗こうきが無い!?」

見上げたところには学校の校旗があるはずなのだが、それが無くなっていたのだ。

「まさか、校旗が無くなってしまうなんて。」

「風に飛ばされてしまったのでしょうか?」

二人とも困った顔をしている、ぼくは気になって声をかけた。

「あの、校旗がなくなってしまったのですか?」

「ん?ああ、そうだよ。全く、どこに行ってしまったんだか・・・。もし見かけたら、私に教えてくれ。」

「はーい、わかりました。」

そう言ってぼくはその場を離れた。

「よし、次はあの校旗が見つかることを書いてあげよう。」

それから家に帰ったぼくは、グッドシナリオにこう書きこんだ。

『無くなった校旗が、見つかりますように。』

これで校旗が見つかるはずだ、果たしてどうなるかな・・・?

そして翌日、学校に行くとまだ校旗はなかった。

「あれ!?なんで校旗が無いの?」

『あれはまだ見つかってないね、きっと見つかるのはまだ先だよ。』

「まだ先って、いつ?」

『さぁ、そこまではわからない。というか、昨日グッドシナリオに書くときに、いつ見つかるか書いてなかったの?』

メイクに言われてぼくはハッとした、そういえばそんなとこまでは書いてなかった・・。

『まぁ、心配ないさ。グッドシナリオに書きこんだことは、必ずその通りになる。』

ぼくはメイクの言葉を信じたものの、二日、三日、四日経っても校旗は無かった。

そして一週間が過ぎて校旗のことをわすれかけたころ、総合の授業で先生からクラスのみんなにプリントが配られた。

「校旗のデザイン案・・・?」

そして先生はみんなに話した。

「えーっ、一昨日近所の住民からの連絡で校旗が見つかりました。しかし校旗があまりにボロボロで色落ちもはげしいということで、この度新しい校旗を作ることになりました。そこで校旗のデザインを、全校生徒のアイデアから選ぶことになりました。アイデアのある生徒は、二週間後までにアイデアを書いて職員室前にある応募箱の中へ入れてください。」

どうやら二日前に書きこんだことがかなったようだ。

「叶うかどうかわからなかったけど、これでグッドシナリオがパワーアップするね。」

ぼくはウキウキした気持ちで家に帰ったけど、グッドシナリオはパワーアップしていなかった。

「えっ!?どうしてパワーアップしていないの?」

『前の場合は願いがかなったうえで、さらにいいことがあったからパワーアップしたんだ。だけど今回は、何とも言えない結果になってしまったからね。』

そっか・・・、ただグッドシナリオに書きこむだけじゃだめなのか。

「うーん、グッドシナリオっていいことが起こる本じゃないのかな・・・?」

『そうだよ、書きこんだことは確実にその通りになるけど、それが幸せになるかならないかは別の問題だよ。』

メイクに言われてぼくは考えた、今までぼくはグッドシナリオにかなってほしいことばかりを書いてきた、給食のプチシュークリームもお母さんのスピーチも、偶然に書きこんだことがかなった結果、みんなも母さんも幸せになれたんだ。

だけど校旗の場合は、みんなで新しい校旗を作ることになり、みんなが幸せになれたのかというと、そうではない。

「うーん、ぼくがグッドシナリオに書きこんだことがみんなの幸せになるとは限らないんだ・・・ん!?」

ぼくはあることに気づいた。

「だったらさ、みんなの幸せになることをグッドシナリオに書きこめば、みんなの幸せを叶えることができる・・・!」

『・・・ようやく気づいたか、ミライ。』

「メイク、ぼくこのグッドシナリオでみんなを幸せにしてみせるよ。だから、これからもよろしくね。」

『うむ、いいだろう。』

こうしてぼくとメイクは握手をした。

さあ、これからがんばっていくぞ!









それから一週間後、今日の天気は雨だ。

「あーあ、今日は雨か・・・」

「今日勉強するのか、つまんないよな・・」

みんな窓の外をみながらぶつぶつ言っている。

「今日は雨か・・・、ということは遠足は延期だね。」

実は今日、遠足がある日なのだ。

みんな楽しみにしてお弁当を持ってきたのに、この天気は酷い。

担任の先生が教室に入ってきて、みんなに言った。

「えーっ、今日は遠足になる日のはずでしたが、雨天ということでこれからお昼までに自習をすることになりました。遠足は来週に延期です、それではみなさん自習をしてください。」

みんなは暗い気持ちで自習を始めた、ぼくも暗い気持ちで机から筆箱とノートを取り出した。

「あーあ、遠足行きたかったなぁ〜」

『まあ、雨だからしかたないよ。それに来週も雨の可能性が高いし。』

「ええっ!?そんなのこまるよ!!」

今は五月の終わり、梅雨が近いのか雨の降る日が少しずつ増えてきた気がする。

「よし、家に帰ったらグッドシナリオに書きこむぞ・・・」

ぼくは早く自習が終わらないかと待ち遠しくなった。

そして午後一時二十分、いつもより学校から家に早く帰ってきたぼくは、グッドシナリオにこう書きこんだ。

『来週の天気は晴れで、みんなで楽しく遠足ができますように。』

ぼくは来週がとても楽しみになった。






そして一週間が過ぎた、今日の天気は晴れだ!

「やったー、晴れたよ!今日は遠足だ!」

『当然のことだけど、果たしてグッドシナリオはパワーアップするかな・・・?』

「大丈夫、必ずパワーアップするよ。」

ぼくはそう言いながらも、心の中はドキドキしていた。

そして家を出て学校に行くと、校庭ではぼくと同じくリュックを背負ったみんなが、クラスごとに並んでいた。

「おはよう、矢倉くん。」

「おはようミライ、今日は晴れてよかったね。」

「うん、遠足楽しみだね。」

そしてぼくはみんなと一緒に、バスに乗って遠足へ向かった。

遠足の行き先は「田代製菓工場たしろせいかこうじょう」といって、せんべいや金平糖こんぺいとうを作っている工場なんだ。今回の遠足は田代製菓工場を見学して、それからその先にある柳橋公園でお弁当を食べるんだ。

バスは道を順調に進み、田代製菓工場へ到着した。

ぼくたちは工場の中へと進み、作られていくせんべいや金平糖を興味津々に見つめていた。

見学が終わると、工場の人から一人一枚ずつせんべいをもらった。

「えへへ、後で食べよ。」

そしてバスは田代製菓工場から、柳橋公園へ向かった。

公園に到着すると、ぼくたちは橋のある池の近くでお弁当を食べた。

「うーん、いつもの弁当より美味しい!」

きれいな景色がぼくの弁当をより美味しくしてくれる、口いっぱいにほおばって食べていると、メイクが突然「あっ!」と言った。

弁当を吹き出してしまったぼくはメイクに質問した。

「どうしたのメイク?」

『今、グッドシナリオがパワーアップした気配を感じた。』

「えっ!?本当?」

『ああ、よくやったミライ!』

メイクは右手でグッドサインをした。

「うん、これでムナスマンにまた一歩近づいたね。」

『お前が日野ミライくんか?』

すると誰かの声が聞こえた、そしてぼくとメイクは辺りを見回した。

「えっ・・・、周りの景色が止まっている」

『これは、パワー・ストームの力だ。だけど声がちがう・・・一体だれだ?』

『こっちだよ。』

そしてぼくとメイクの目の前に、モンスターらしきものが現れたんだ。

そいつは鎧を着て、顔はドラゴン、しっぽが生えていて、おのを肩にかついでいる。

目付きも迫力がある・・・、ひょっとしてこいつが・・・!?

「ひょっとして、あなたがムナスマンですか?」

ぼくはおそるおそる聞くと、そいつはこう答えた。

『いや、おれはエンガーだ。お前に伝えることが会ってやってきた。』

「伝えることって何?」

『この調子で、がんばれ。師匠ししょうのムナスマンが待っている。』

「師匠・・・ということは、エンガーさんは弟子さんなの?」

『ああ、それじゃあこの調子がんばれよ』

そしてエンガーはどこかへと行ってしまい、止まっていた景色もまた動き出した。

「なんだったんだろう・・・?」

『もしかして、ムナスマンはどこかでぼくとミライを見ているということじゃないか?』

えっ、ぼくのことを見ている・・・。どこで見ているのだろう?

そう思うと、ぼくはますますムナスマンに会いたい気持ちが強くなった。
























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