第2話みんなを笑顔に

お父さんからたくされた不思議な白紙の本・グッドシナリオ、ぼくはこの本を学校に行くときも肌身はなさずに持ち歩いていた。

『今日は一体、どんなことを書くのかな?』

グッドシナリオの管理者・メイクが言った、メイクはグッドシナリオを手にしたあの日からぼくの部屋に住んでいる。

メイクの姿はぼくにしか見えず、しかも何も食べなくても生きていけるという。ちなみにふだんはグッドシナリオの中に住んでいるんだ。

「うーん、一体どんなことを書けばいいのか迷っているんだよね・・」

『きみのことだから、何を書けばいいのかすぐに思い浮かぶと思っていたけど、迷うんだね。』

「ううん、書く内容は頭の中にあるのだけど、どれを書こうか迷っているんだ。」

メイクとそんな会話をしながら歩いているうちに、学校へ到着した。

教室につくと、となりの席の八倉くんが声をかけてきた。

「おはよう、ミライ。学校に来るの久しぶりだね。」

「おはよう、八倉くん。」

「お父さん、亡くなっちゃったんだ。悲しいよね?辛くないかい?」

「うん、とても悲しいよ・・・。でも辛くないから、安心して!」

「よかった、いつものミライで安心したよ。」

そして先生が教室に入り、出席を取った。

「おい、今日は一人休みがいるね。」

突然、八倉くんが声をかけてきた。

「それがどうしたの?」

「今日の給食、プチシュークリームだって。だから絶対にもう一個もらうぞ!」

あっ、そういえば今日の給食はプチシュークリームだった。

ということは数が余るということだ、よーし絶対に手に入れるぞ・・・。

と思った時、ぼくはひらめいた!

「もしかして、グッドシナリオに書きこめばプチシュークリームをもう一個食べることができるんじゃない?」

ぼくはそう思うと、うれしくてニヤニヤした。

『ミライくん、もしかして書く内容が決まったの?』

「うん、今日の給食のプチシュークリームをもう一個必ず食べるんだ。」

『ふーん、小さい望みだね。どうせならもっと大きくしてもいいのに。』

「もっと大きくって、どういうこと?」

『例えば、プチシュークリームをもう一個食べたい人は他にもいるはずだ。そういう人たちが必ずもう一個、食べられるとしたら?』

確かに、そうすればみんな大喜びだ。

「よし、それならそうしよう!」

そして一時間目の授業が終わったとき、ぼくはグッドシナリオにこう書いた。

『クラスの全員が、必ずプチシュークリームをもう一個食べられる』





そして給食の時間、デザートはもちろんプチシュークリームだ。

中の生クリームが、口の中で美味しくとろけて美味しい。

「これはもう一個食べたくなるよ・・・」

そしてぼくはもう一個のプチシュークリームを取りに向かった、するとぼくの他に八倉くんを入れた六人もやってきた。

「やっぱりライバルが多いな・・・」

みんなプチシュークリームを狙って、目をつり上げて火花をバチバチさせている。

「それでは、余ったプチシュークリームをかけてジャンケンだ!みんな、負けても恨みっこなしだからな。」

先生が七人に言った、そしてぼくたちは右手をかまえた。

「ジャンケン・ポン!」

ぼくはチョキを出した、ぼくは勝ち残り、パーを出した三人が負けた。

「よし、次も勝つぞ!」

八倉くんも勝ち残った、さあ二回戦だ!

「ジャンケン・ポン!」

ぼくはグーを出した、相手はパーを出していた。

「ああ〜、負けたか・・・。」

「ざんねんだぜ・・・」

ぼくと一緒に八倉くんも負けた、残りは二人。そしてその二人もジャンケンをして、一人が買った。

「これでぼくはプリンをもらえなかったけど、グッドシナリオがあるから大丈夫。」

「あーあ、プチシュークリームもう一個食べたかった・・・」

負けたみんながすごすごと自分の席にもどろうとした時、突然教頭先生がダンボール箱を抱えて教室に入ってきた。

「教頭先生、一体どうしましたか?」

「実は、給食センターの注文ミスでいつもより多くプチシュークリームが届いてしまったんだ、そこでみんなに一つずつわけているのだが、プチシュークリームほしい人はいないか?」

「えっ!?もう一個、もらえるの!!」

ぼくは教頭先生のところへやってきた、もちろん他のみんなもだ。そしてぼくのクラス全員がプチシュークリームをもう一個食べることができた。

「まさか、ぼくたちみんなでプチシュークリームを食べられるなんて」

「これはキセキだよ!」

「どうしてこんなことが起きたんだろう?」

みんなキセキが起きたと喜んでいる、ぼくは見ていてとてもうれしくなった。

『みんな喜んでいるね、ミライくん。』

「うん、みんなで食べることができてよかったよ!」

喜ぶみんなを見て食べるプチシュークリームは、いつもより美味しかった。







そして家に帰ってきたぼくは、自分の部屋のテーブルに座って、あれこれ考え出した。

『あれ?ミライくん、いつものお絵かきはしないの?』

「今日はね、明日学校でどんなキセキを起こすか考えてるの。」

『明日も給食の時間に起きたことと、同じことをするの?』

「うん、明日じゃなくて、毎日必ず一つはやるつもり。」

『へぇー、毎日やるんだ。それで何を考えているの?』

「例えば、学校の宿題を無しにするとか、教室が勝手にきれいになるとか・・・」

『うーん、宿題を無しにする発想はあまりよくないかな・・・』

「えーっ、なんで?宿題がなくなったら、みんなが喜ぶじゃないか。」

『確かにそうだけど、グッドシナリオが書いた願いを叶えられるのは、その願いにつながる出来事をグッドシナリオが引きおこすためなんだ。つまり宿題が無しになると、先生が死んでしまう出来事がおこる可能性があるということだ。』

「先生が死んでしまうの!?それは・・・いやだよ」

確かに、みんなの願いでだれかが死ぬのは、とてもよくない。

『だから、だれも傷つけることなくやれることを考えたほうがいいよ。』

うーん、だれも傷つけることなくキセキを起こすか・・・。

「そういえば、明日は体育の授業があったよね・・・」

ぼくは体育の授業の日が一番苦手だった、だから明日は少し落ち込んでしまう。

「うーん、体育の授業中にキセキがおきたらら、みんなうれしいよね・・・、あっ、そうだ!」

『えっ!?何々、何か思いついたの?』

「うん、それじゃあ早速書こう!」

ぼくはグッドシナリオにこんなことを書きこんだ。

『明日の体育の授業で、ぼくのクラス全員が新記録を出す。』

メイクはぼくが書きこんだ文章を読んだ。

『ぼくのクラスに新記録を持つ生徒が現れる・・・?』

「うん、明日の体育は五十メートル走なんだ、それでぼくのクラスはまだ新記録を出したことがないのだけど、もし新記録を出すことができたらみんなうれしくなると思って。」

『うんうん、悪くない書きこみだね。』

「さて、明日のことも終わったし、昨日の絵の続きだ!」

そしてぼくはいつも通りに絵を書き始めた。









そして翌日の二時間目、天気は晴れ。

ぼくたちは体操着に着替えて、校庭に並んでいた。

『いよいよ、この時が来たね。』

「うん、どんなことが起きるのか楽しみだよ。」

みんなが並ぶと、担任の先生が言った。

「今日は五十メートル走だ、みんな自分のベストを越えられるように、がんばってくれ。」

そして準備体操とウォーミングアップで校庭を三週走った後、五十メートル走が始まった。

一人ずつスタートからゴールまで走り、記録を取っていく。

「おっ、自己ベスト更新だ!すごいな」

最初に走った人がいい記録を出したみたいだ。先生がほめていた。

一人二人と走っていき、そしてぼくの番が来た。

「あー、早く走れるかな・・・?」

そしてホイッスルが鳴った、それと同時にぼくは走り出した。

「ハッ・ハッ・ハッ・・・」

ぼくは夢中で走り出した。

そしてゴールにつくと、先生が大きな声で言った。

「おお!前より七秒も速くなった!すごいじゃないか、日野!」

「えっ!?ぼく、そんなに速く走ったの?」

「うん、とても速かったよ!」

八倉くんも言った、本当にぼくは速くなったようだ。

そしていよいよ永瀬くんの出番だ、永瀬くんはクラスの中で一番足が速い。

「あいつ、五十メートル走の時は一番気合い入っているよな。」

「うん、果たして最高記録が出るかな・・?」

ぼくは永瀬くんが何秒でゴールするか、頭の中で考えた。

そして永瀬くんがスタートの体勢をとり、ホイッスルがなった!

「ビュゥーン!」

永瀬くんが今までにない速さで走り出した、その姿にぼくたちも担任の先生もおどろいた。

「おお!自己ベスト更新!五秒速くなっているぞ、さすが永瀬だな。」

「はい・・・えへへ」

永瀬はうれしくて照れた顔になった、そして授業の終わりに先生はみんなに言った。

「今回はみんな自己ベストを更新することができた、これは大変すばらしいことです。これからもがんばって、自己ベストをさらに更新できるようにしましょう!」

そして体育の授業が終わった。

『ふふふ、みんな速くなってよかったね。』

「うーん、でもなんならもっとみんなが喜べるものがいいな。」

ぼくは明日のアイデアを頭の中で思い浮かばせていた。






翌日、教室に入ると八倉くんが声をかけてきた。

「おはよう、ミライ。」

「おはよう、八倉くん。今日は一時間目から音楽だよね。」

「うん、そうだ・・・あっ!?」

八倉くんは突然、慌ててランドセルの中をのぞきだした。そしてへこんでしまった。

「一体、どうしたの?」

「リコーダーを忘れた・・・」

「えっ!今日の授業で使うって、先生言っていたのに・・・。」

「はぁ、怒られるだろうな・・・」

八倉くんはすっかりしょげてしまった。

ぼくはこの時ひらめいた、グッドシナリオを使えば、八倉くんは怒られずにすむ!

ぼくはグッドシナリオに書きこみだした。

『八倉くんのリコーダーが、八倉くんのところに来る』

ところが書きこんだとたん、その文字が突然消えてしまった。

「あれ!?ちゃんと書いたはず・・・」

ぼくはもう一度同じ文章を書いたが、文章は消えてしまう。

ぼくはあわててメイクにたずねた。

「ねぇ、どうして書いた文章が消えたの?」

『あー、これはむしろ大丈夫だよ。』

「えっ、どういうこと?」

『これはね、自然な成り行きでその通りになるということさ。つまりきみが、何もしなくてもその通りになるということ。』

「それじゃあ、矢倉くんは・・・」

『ああ、リコーダーを持てるということ。』

でもそれが本当になるのかな・・・?

結局、ぼくは八倉くんのリコーダーについてどうすることもできず、ぼくと八倉くんは音楽室へむかった。

そして音楽の授業が始まる時、先生がリコーダーを持ってみんなに言った。

「えー、一昨日音楽室にリコーダーを忘れていた、八倉くん。前に来てください。」

八倉くんはハッと気づいた後、恥ずかしそうに先生のところへやってきた。

「忘れないように気をつけなさい。」

「はい・・・」

八倉くんはみんなの目を気にしながら、もとの場所へと戻っていった。

「そういうことだったんだ・・・、もしかしてグッドシナリオは、前からこうなることがわかっていたの?」

『ああ、この本にはこの先にある未来を見ているからね。本当に特別な本だよ。』

ぼくは改めて、グッドシナリオのすごさを感じたのだった。







そしてぼくは毎日グッドシナリオに望みを書きこんでいった。

給食のお代わり、忘れ物をなくしたり、宿題を無しにしたりと、ありとあらゆるキセキをおこし続けた。

みんなにはヒミツだけど、ぼくはキセキで笑顔になるみんなを見続けることが、楽しくなっていた。

そしてその日も書きこみを始めようとした時だった。

「あれ?ページが少なくなってる」

グッドシナリオの残りページが少なくなっていることに気づいた。

「ねぇ、メイク。グッドシナリオのページが残り少ないよ。どうしたらいいの?」

『ああ、大丈夫。書くのを止めればいい、そうすれば自然と白紙のページに戻る。だけど三日で一ページしか戻らないから、気をつけてね。』

「えっ、そうなの?」

ぼくが今まで書きこんだページは二十ページ、つまり六十日は放置しないと、グッドシナリオは元にもどらないということ?」

つまり三ヶ月待たないと、グッドシナリオは完全に元にもどらない。

「そんな、三ヶ月も待つなんて・・・、ぼくには無理だよ。」

『それじゃあ、一週間に一度だけ使うようにすればいい。そうすれば、グッドシナリオのページは二ページずつ元にもどる、一ページ使っても一ページ回復するから問題ない。』

「そっか、頭いいねメイク!」

『それにね、もし全てのページを使うと契約が強制的に終了になる。つまりもう、グッドシナリオが使えなくなるということだよ。』

「そうなの!?」

『うん、ていうか使い方はちゃんと最後のページにある契約書に書いてあるから、ちゃんと見た方がいいよ。』

「わかったよ、それじゃあ今回のキセキはここまでか・・・」

『残念だけど仕方ないね。』

ため息をついて落ち込むぼくは、絵をかき始めた。

『おお、これはどういう絵だ?』

「この絵は、ある村に大きなカレーライスがふってきて、それをみんなで分けて美味しく食べているところなんだ。」

『ふむふむ、意味がわからないな。第一、空からカレーライスがふってくるわけないじゃないか。』

「確かにそうだけど・・・、でも実際にあったらみんな大喜びじゃないか。」

『確かにそうだけど・・・』

「お父さんがいつも言っていた言葉、『どんなことでもいいから、たくさんの人のためになることをしろ』というのがある、ぼくはこのお父さんの教えを守ってきたんだ。」

『ふーん、だからあれほどみんなのためだとか言っていたのね・・・』

「父さん・・・、なんで死んじゃったの?」

ぼくは父さんを思い出して、とたんに悲しくなった。

『・・・父さんに会いたいのか?』

「うん、でもグッドシナリオでやったらぼくが死んじゃうことになるし・・・」

『そうだな、もし父さんがこの本を見つけなければ、ミライのところに生きて帰ることができたかもしれない。』

「えっ・・・、どういうこと?」

ぼくはメイクにたずねた。

『きみの父さんが死んだのはこのグッドシナリオのせいなんだよ。』

えっ・・・、グッドシナリオのせいで死んだってどういうこと?

「だって、父さんが死んだのは強盗に殺されたって・・・」

『それはウソだ、死に方があまりに悲惨だったから、きみをあまり悲しませないために、強盗に殺されたことにしたんだ。』

「それじゃあ、父さんはどうして死んだの?」

『知りたいのか、ミライ・・・。』

メイクの表情が真剣になった。

「知りたいです、お願いします!」

ぼくはメイクに頭を下げた、メイクはぼくに父さんの死の秘密について告げた。

『きみの父さんは、ワニの騎士が殺したんだ。』

「ワニの騎士・・・、だれなの?」

『名前の通り、ワニの顔をした騎士だよ。水の剣を振るい、飛竜ワイバーンに乗って世界中を飛び回る正義の騎士。とてつもなく強い相手だよ。』

ぼくは頭の中でイメージしてみた・・・。

「なんだか強そうなやつだ・・・、ワニの騎士が父さんを殺した理由は何?」

『それはこのグッドシナリオが関係しているよ。知りたいなら、直接会ってみないか?』

そうだ、このグッドシナリオでワニの騎士と出会えたら、父さんがどうして死んだのか知ることができる!

ぼくはグッドシナリオに、『ワニの騎士に会いたい』と書きこんだ。

するとグッドシナリオから、青い光の柱が現れた。

「うわぁ、何これ!?」

『こ・・・これは、ぼくにもわからないよ!こんなことは、今までになかったよ!』

ぼくとミライは何が起きたのかわからず、光る青い光の柱を見続けるのであった。



















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