ザ・グッドシナリオ 「ワニの騎士」

読天文之

第1話白紙の本

「ふふふ、ここは楽しい遊園地・・・。子どもも大人も動物もオバケも、手を取り合って遊ぶ遊園地〜!楽しくはしゃいでいこう!」

ぼくはウキウキな気分で物語を作っていた。

「ミライ、ごはんよ〜」

「はーい、今行きます!」

せっかくいいところなのに〜、でもごはんなら仕方ないかあ〜。

ぼくは日野ミライ、物語や絵をかいたりするのが好きなんだ。

ある日、突然アイデアが浮かんで、それを文章や絵で書いているうちに、楽しい気分になるんだ。

「いただきまーす!」

そしてぼくは物語作りへもどるために、急いでごはんを食べた。

「ミライ、そんなに急いで食べたら、むせるわよ!」

母さんの言うことを聞かずに、ぼくはごはんを食べた。

「ごちそうさま!」

そして食事を終えたぼくは、再び自分の部屋へ向かって、物語作りを再開した。

「ふふふ、みんなで楽しいメリーゴーランド・・・」

ぼくは今、遊園地の絵をかいている。

この世界ではみんなが楽しめる、夢のアトラクションがたくさんある。

みんなが笑いながらアトラクションを楽しむ様子を想像して、ぼくの毎日は過ぎていく。

そしてぼくはいつも、こう思っている。

『いつか、ぼくの想像したことを現実のものにしたいなあ・・・。』

ぼくはそんな理想を持っていた。

するとまた母さんがぼくをよんだ。

「ミライ、お父さんからだよ!」

「えっ!お父さんから!!」

ぼくは大急ぎで電話のところへくると、母さんから受話器を受け取った。

「もしもし、父さん?」

「ああ、ミライか。今、アフリカにいるんだ。」

「アフリカって、ライオンとかゾウがいるよね?父さんは見たの?」

「いや、父さんのいるところでは見てないな。父さんは今、都会から電話をかけているよ。」

父さんの仕事は、世界の貧しい人たちを救うボランティアをしている。ぼくはそんな父さんの仕事が好きなんだ。

「父さんはこれからどうするの?」

「この後、自然があふれる村へと向かい仕事をする。その村の近くなら、ライオンやゾウに出会えるぞ。」

「そっか、それは楽しみだね。」

「ところでミライ、母さんに心配かけてないか?私が仕事の間、ミライが母さんを助けるのが、ミライの役目だろ?」

「うん、大丈夫だよ。ちゃんと母さんを助けているよ。」

「よし、それでいい。いいことすれば、自分も相手も楽しくなる。忘れるなよ」

「うん、忘れないよ。帰ってきたらアフリカでの話を聞かせてよ。」

「ああ、じゃあまたな」

そしてぼくは通話を切った。

「父さん、今ごろアフリカでなにしているのかな・・・?」

ぼくは父さんの帰りが待ち遠しくなった。








それから二週間が過ぎたころ、母さんがぼくに言った。

「そろそろ父さんが仕事を終えて、アフリカから帰ってくるわ。」

「やった!お土産は何かな?」

「もう、すっかりはしゃいで・・・。でも、少し心配ね・・・」

「何が心配なの?」

「父さんから連絡がないのよ、飛行機に乗る前に必ず連絡を入れるはずなのに・・・」

「きっと、父さんも仕事がいそがしいんだよ。それじゃあ、行ってきます!」

ぼくは学校へ向かって歩いていった。

学校に行く間も、ぼくは想像をする。いろんなことを思い浮かべるいい時間だ。

「お空の街で・・・、みんなで楽しく買い物だ・・・ムフフ。」

「ミライ、また何か想像しているの?」

ぼくに声をかけてきたのは、同じクラスの倉田美紀くらたみきさんだ。

「美紀さん、あのお空にもし街があったらどう思う?」

「えっ、空の上に・・・って、そんなわけないじゃない!」

美紀さんは笑いながら言った。

「確かにそうだけど、そう思うと楽しくならない?」

「べつに、夢とかならわかるけど、そんな絵本みたいなこと浮かべてもしょうがないよ。」

「ふーん」

みんなの反応はいつもこうだ、まるで楽しくないみたいな感じ。

だけどぼくは、想像することは楽しいことだと思っている。自分の世界を作る・・・、それはとても楽しいことだから。

学校に来てからも、ぼくの想像力はとまらない。授業中、先生に見つからないようにこっそりノートのはしに絵をかいたり、放課後は図書館で本を読みながらその世界に入る自分を想像したり、楽しい学校生活を送っていた。

みんなからは「ミライって変わっているよね」とか言われていて、ちょっと変な人に見られているけど、そんなの気にしない。

今日も鼻歌まじりに本を読んでいると、担任の先生が声をかけてきた。

「ミライ、悪いがもう先に帰ってくれ。」

「えっ、先生?どうしたの?」

「とにかく教室に入って荷物をまとめてくれ、緊急事態だ。」

先生のただならない言葉に、ぼくはすぐに教室へむかって荷物をまとめた。そして教室を出ると先生が待っていた。

「家まで乗せてあげるよ。」

先生はそういうと、ぼくを車にのせてくれた。

そして家まで向かう間、先生が帰ってくれと言った理由を聞くことができた。

「ミライ、お前の父さんはアフリカでボランティアの仕事をしていたよな。それで外務省から母さんに連絡があって、大変言いにくいが・・・、君の父さんがアフリカで亡くなったそうだ。」

ぼくは声が出なくなった・・・。

父さんがアフリカで亡くなった・・・?

そして急に悲しい気持ちがあふれてきた。

「そんな!どうして!?お父さん、電話で話したときとても元気だったのに!?」

「帰国する途中、空港までの道で強盗におそわれて、ナイフで胸をさされたらしい。即死で、病院に着いた時にはもうダメだったようだ・・・。」

強盗なんて・・・、そんなの無いよ。

「つらいよな、母さんも電話ですすり泣いていたよ。」

そしてぼくも先生も何も言わずに、車はぼくの家についた。

車からおりると母さんが待っていた、たくさん泣いて目が赤くなっていた。

「ミライ!」

母さんはぼくをだきしめた・・・。

「母さん、父さんは本当に死んだの?」

「・・・うん、もうミライを見ることも、ミライとお話しもできないの。」

「そんな〜!」

そしてぼくと母さんは、その日一番大泣きした。






その日からぼくは五日ほど学校を休んで、父さんに会いに行くためにアフリカへむかった。

パスポートはどうするのかと気になっていたが、特別に用意してもらうことができた。

そして飛行機に乗ってアフリカのケニアという国へやってきた。

空港へ到着すると、田部たべさんと黒い肌の人が出迎えてくれた。

田部さんは父さんと同じ仕事をしていて、家に来たこともある。

「日野さん、この度はケニアまでご足労いただきありがとうございます。こちらはマカラさん、父さんがお世話になった村の村長さんです。」

「この度は、主人がお世話になりました。」

お母さんはマカラさんに頭を下げた。

マカラさんは何か言ったがぼくにはわからない、けど田部さんが教えてくれた。

「いえいえ、お世話になったのは私たちです。すばらしい人を亡くしてしまい、私も悲しいですと言っています。」

「はい、本当に私にとってもすばらしい人でした・・・」

母さんは目頭を押さえて泣いた。

それからぼくと母さんは田部さんとマカラさんと一緒に車に乗って、父さんのところへとむかった。

そしてたどり着いたのは、日本大使館。車からおりて中に入ると、母さんは手続きをはじめた。

「さあ、ミライ。お父さんに会えるわよ」

母さんは笑っていたが、表情は悲しげだった。

そしてぼくと母さんは、父さんと再会した。

父さんは棺の中であお向けになって眠っていた。目も口もすっかり閉じてしまい、顔はすっかり白く、もう動く様子はまるでなくなっていた。

「あなた、迎えに来たわよ。ミライも一緒よ。」

「父さん・・・父さん!」

改めてもう父さんは死んでしまったことを知り、また涙がこぼれ落ちた。

するとマカラさんがぼくの肩に優しく手を置いて、一冊の本を渡した。

「これは・・・?」

マカラさんは何か話し出した、田部さんが説明してくれた。

「これは父さんがあなたに渡すはずだった本です、父さんの形見として受け取ってください。」

ぼくは本を受け取り開いたが、何も書かれていない真っ白な本だった。

「この本は一体なんなの・・・、どうして何も書かれていないの?」

ぼくはこの不思議な本が気になってたまらなくなった。

そしてその間に父さんを日本へ送るための手続きが進んでいき、ぼくと母さんは一泊してから日本へ帰ってきたのだった。






空港から家についたぼくは、自分の部屋で父さんの形見である本を開いた。

「やっぱり、何も書いてない・・・。この本は一体なんだろう・・・?」

ぼくは本のページを開いたり閉じたりしたが、何も書かれていないためぼくの頭には、何も思い浮かばない。」

父さんはなんでこの本をぼくにたくしたのだろう・・・?

『おい、最後のページを開け。』

とつぜん、どこからか声がした。この部屋にはぼくしかいないのに・・・?

『最後のページを開け。』

えっ!?なになに、どうなっているの?

まさか・・・、この本がしゃべっているの?

それともぼくの頭に直接話しかけているの?

『早く、最後のページを開け!』

本から聞こえる声にせかされて、ぼくは本の最後のページを開いた。すると本がとつぜん光だして、その中から人の子どもの姿をした何かが現れた。

「うわぁ!一体、どうなっているの!?」

『ふーっ、やっと出られた・・・。きみが日野ミライくんだね。』

「うん、きみはだれ?ていうかどうしてぼくの名前を知っているの?」

『ぼくはメイク、このグッドシナリオの管理を任されている。きみのことはこの本を通して知った。

「ぼくのことがわかるの?」

『ああ、そうだよ。このグッドシナリオは願いを書きこむことで、効力を発揮するんだ。』

「書きこむ・・・?本なのに書き込んでいいの?」

『いいよ、むしろそれが正しい使い方だからね。』

「書きこむとどうなるの?」

『書きこんだことが本当になる、どんなことでも書きこめる。けど一度書きこむと、取り消しはできないから、気をつけて使ってね。』

グッドシナリオ・・・、父さんはこんなにもすごいものをぼくにたくしたんだ。

あっ!?これを使えば、また父さんに会えるかもしれない!

ぼくはグッドシナリオに書きこもうとしたが、メイクはそれを止めた。

『これを使うには、ぼくと契約しないといけない。ぼくはそのために出てきたんだ。』

「そっか、それじゃあ契約しよう。」

『ここにサインと手形をよろしく。』

メイクは一枚の紙とペンをポケットから取り出した、ぼくは紙にサインと手形を押した。

『はい、これで契約完了。さあ、このグッドシナリオは今から君の物だ。』

「よーし、気を取り直して・・・」

ぼくはグッドシナリオに、こんな文章を書きこんだ。

「また、父さんに会いたい」

『えっ!?その願いを書くの?』

「うん、だって書いたことが本当になるでしょ?まずは父さんにまた会えたらいいなって思って。」

『あわわ、そんなこと書きこんだら・・・』

メイクは慌てだした、一体どうしたんだろうと思ったその時、突然ぼくの後ろにある本だながかたむいてきた。

「うわぁ、倒れる!!」

『危ない!!』

ミライがとっさに右手を出すと、かたむいていた本だなが元の立った状態になった。

「こわかった・・・、でもどうして本だなが倒れてきたんだろう?」

『きみは父さんに会いたいと書いた、父さんは天国にいる、つまり会いに行くにはミライに死んでもらうしかない。だからその通りになったんだ。』

「じゃあ、ぼくが死んで父さんのところへ行こうしたということ!?そんな・・・、父さんが生き返るかと思った。」

ぼくはガックリと落ち込んだ。

『グッドシナリオは願いの解釈が独特だからね、気をつけてつかわないと。後、君が助かったのはぼくの管理者権利かんりしゃけんりで書きこんだことを取り消したんだ。これを使えるの後四回までだから、気をつけてね。』

「うん、ありがとう。」

ぼくは改めてグッドシナリオを見た、父さんにはもう会えないけど、他の願いなら叶うかな・・・?

「それじゃあ、こういうのはどうかな?」

ぼくはこんなことを書いた。

「今日の夜ご飯はラーメンを食べる」

さて、これで一体どうなるのかな・・・?

すると母さんがぼくを呼んだ。

「ミライ、おつかいに行ってきて!」

「おつかいかあ・・・、行きたくないなあ」

『いや、グッドシナリオはもう発動している。このお使いを頑張れば、ラーメンを食べられるよ。』

ぼくは母さんから千円札とバッグをもらって、お使いに出かけた。母さんから頼まれたものを思い浮かべて、あることに気づいた。

「えっと、ギョウザの皮とひき肉・・・って、これ今夜はギョウザじゃないか!」

『あわてない、あわてない。今夜はラーメンだよ。』

半信半疑でぼくはスーパーへやってきた、そしてギョウザの皮を探していたのだが・・。

「あれ?ギョウザの皮がない・・・」

商品の棚を何度見ても、ギョウザの皮はない。どうしようと思ったその時、ぼくのくつに何かが当たった。

「あれ?これって、さいふ?」

菊の花柄がついた長方形のさいふだ、一体だれのだろう?

とりあえず後で店員に渡すことにして、ぼくはひき肉を持ってレジにならぼうとした時だ。

「あ、あのさいふだ!」

一人の男がぼくに言った、どうやらこのさいふの持ち主のようだ。

「あの、これあなたのですか?」

「いや、母のさいふだよ。ひろってくれてありがとう!」

そういって男はぼくからさいふを受けとると去っていった。

「よかった、さいふが持ち主にとどいて」

そしてぼくはレジをして、ビニール袋にひき肉を入れた。

そしてスーパーから出ようとしたとき、後ろから声をかけられた。

「あの、私のさいふをひろってくれたのはあなたですか?」

ぼくが振り向くと、そこにいたのはさっきの男とおばあさんだった。

「はい、そうです。」

「これ、ひろってくれたお礼。」

そう言っておばあさんがくれたのは、ラーメンだった。

「えっ、いいの?」

「いいのよ、それじゃあね。」

そしておばあさんは男の人と一緒に去っていった。

『ふふふ、これできみはラーメンを食べることができるね。』

「あっ、確かに!?」

でも、おつかいのギョウザの皮は買えなかったし、もしそれで今日の夜ご飯が無しになったら・・・?

なんて思いながら家につき、お母さんにギョウザの皮を買えなかったことを伝えると・・

「あら、そうなの。それじゃあ、今夜はラーメンね。」

「えっ!?ラーメンでいいの?」

「だって、ギョウザの皮が買えなかったでしょ?仕方ないじゃない」

そして母さんはラーメンを作り出した。

「すごい・・・、本当にラーメンが食べられることになった・・・。」

『これがグッドシナリオの力です、ささやかなぐうぜんをつなぎ合わせて、望みへと導くことができるのです。』

これでぼくはグッドシナリオの力を信じることができた。

そして夜ご飯に美味しいラーメンを食べた後、ぼくは改めてグッドシナリオを手に取った。

「このグッドシナリオがあれば、望んだ未来を手にすることができる・・・」

『さて、次はどんな未来を手にするのかな?』

ぼくはどんな未来がほしいのか頭の中で考え、そして決めた。

「ぼくはお父さんがどうしてこの本をたくしてくれたのか、お父さんがどうして死んでしまったのか知りたい・・・」

『ミライ・・・、きみはそんなにお父さんが好きなんだね。』

「うん、お父さんはぼくに想像する楽しさを教えてくれた。だからぼくの大切な人なんだ。」

ぼくの目を見たメイクは、こう言った。

『それなら、このグッドシナリオを使い続けてごらん。そうすれば、きみのお父さんの真実へ近づくことができるよ。』

そしてぼくは、グッドシナリオを使い続けて、お父さんの死の真実を必ずつきとめてやるぞ!
































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