第6話 相まみえる両軍

 暮れかける夕陽の中。

エルデリオンらが、隣領地の開け放たれた門に駆け込む。

幸い、森と花の王国〔シュテフザイン〕の王軍とは、出会わなかった。


門の横にはラステルがいて、首尾良く領主一家を人質に取り、領民らを既に制圧済みで、エルデリオンを領地にある城へと、導こうとした。


が、その時。


門に続々入り来るエルデリオン軍の遙か後方から、森と花の王国〔シュテフザイン〕の王軍が群れ成し、馬を走らせ駆け来る。


ラステルは直ぐ、馬上のエルデリオンに叫んだ。

「早く中へ!

全軍中へ入れたのち門を閉め、門越しであちらの王と、交渉を!」


が、エルデリオンは馬の首を後ろに向ける。

門に向かい来る兵らに手を上げ

「馬の首を回せ!

敵は背後から来る!」

そう一声叫ぶと、馬に拍車をかけた。


門へ詰めかける兵らは、王子が向かい来る姿を目にした途端、一斉に馬を端に寄せ、道を空けた。

ラステルは開いた道を駆け去ろうとするエルデリオンに、尚も叫ぶ。

「それではダメだ、エルデリオン!

戻って!

真正面から戦えば、死人が出る!!!」


ラステルの必死の制止の呼びかけを耳にし、デルデロッテとロットバルトが素早く馬の首を後ろに回し向け、エルデリオンの背を追って一気に駆け出す。


けれど自国の兵らの群れから抜け出し、たった一騎。

先頭切る勢いのエルデリオンは、森と花の王国〔シュテフザイン〕の国王軍に向かい、馬を走らせる。


その直ぐ後をデルデロッテとロットバルトが。

決死の形相で馬を急かし、追いすがった。


敵軍から矢が放たれ、デルデロッテは気づくと直ぐ、遮二無二馬を飛ばし、エルデリオンの前に躍り出ると、放たれた頭上から襲い来る矢を、剣を抜いて払い退ける。


カンッ!


ロットバルトは、ふいの横に並び来る駒音を聞き、振り向く。

後ろから追いつき、併走する射手、ゲイルが。

背負った弓を持ち上げ、お返しとばかり背の矢筒から矢を抜き構え、相手の射手に狙いを定めるのを見た。


「当てるな!」

ロットバルトが叫ぶと、ゲイルは弓を引き敵射手を、狙いすましたまま叫び返す。

「心の臓は外します!」


エルデリオンの前で馬を飛ばすデルデロッテは、更に飛び来る二本の矢をも、エルデリオンに届く前に剣を振り切り、叩き落とした。


自国の王子を護る護衛従者の、その見事な守護を目にした森と花の王国〔シュテフザイン〕の国王軍は。

遅れてやって来る大群の兵を置き去りにし、どんどん近づいて来る敵王子と彼を護る数騎が、突進して来る絶好の機会を逃すまいと、馬を進めながらも次々剣を抜く。


王は察し、斜め後ろに馬を付ける、黒髪の強面将軍に振り向く。


将軍は国王の視線を受け、速度を落とさず手綱を握り、直ぐ様吠えた。

「油断するな!

王子の護りデルデロッテは、手強てごわいぞ!」


その時、矢を背の矢筒から引き抜く森と花の王国〔シュテフザイン〕軍射手に向け、駆ける馬上からとうとうゲイルが、矢を放つ。

森と花の王国〔シュテフザイン〕軍射手は、ちょうど背から、矢を引き抜いてる真っ最中。

かなりの距離がありながらも、真っ直ぐ自分に向かい飛ぶ矢に、目を見開いた。


慌てて握る手綱を手放し、腰に下げた剣の柄を掴もうとする。

が、間に合わないと気づき、覚悟を決めた。


どすっ!


森と花の王国〔シュテフザイン〕射手は、一瞬目を閉じた。

が、どっっっ!

と落馬する音が聞こえ、目を開けた時。


…馬上から転がり落ちる、王の姿を見、必死に手綱を引き、馬に踏むなと合図を送る。


「王っ!!!」


横の従者が馬の手綱を引き、直ぐ飛び降りて倒れる王に抱きつき、被さる。

向かい来た味方の馬達は、落馬した王を庇う従者の上を、次々飛び越えた。


「止まれっ!!!」

将軍の、腹の底に響く凄まじい咆吼に、森と花の王国〔シュテフザイン〕の国王軍の兵らは次々馬を止め、落馬した国王に寄り集まり始める。


デルデロッテは目を、見開いた。

ゲイルは敵射手にこれ以上弓を使わせまいと、肩か腕を狙いすまし…そして命中するはずだった。


…王が、矢の飛ぶ方向に馬を寄せ…味方射手を庇い、自らが矢の的と、ならなかったなら…!


デルデロッテが、手綱を引く。

エルデリオンも引いて馬を止め、目前のデルデロッテに尋ねる。

「一体、何が起こった?

なぜ彼らは進軍を止める?!」


デルデロッテは自分が壁となり目前を覆ったため、森と花の王国〔シュテフザイン〕国王が部下を庇い傷付く姿を、エルデリオンは目にしてないのだと気づく。

が、直ぐ言った。

「自軍に馬を止めよとの、御命令を!」


気合いこもる護衛の言葉に、エルデリオンは直ぐ頷くと、来た道に慌てて馬の首を回し向け、かなりの後方から押し寄せる自国の兵らに振り向き、手を上にかざし、大声で叫んだ。


「進軍、止め!!!」

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