スタンダード外伝

0区・歴史的惨敗

「太平洋大学、歴史的大勝利!」


 勝者がいれば敗者がいるのは世の常である。しかし、敗者と言ってもピンからキリまである。

 優勝を目指して大差の2位に終わった天道大学の人間たちの顔に、勝利の喜びは微塵もない。だがしかし、彼らが去年から8つも順位を上げた事は紛れもない事実であり、去年地に落ちた天道の名を取り戻すには十分だった。3位の任天堂大学もまた、去年より2つ順位を上げた。

 しかし、彼らの敗戦に光明を見出す事は誰にも出来ないだろう。いやかろうじて1人の選手だけが僅かな光芒を放ったものの、それ以外に何があったと言うのだろうか。




「…………」

 監督の顔に当然ながら笑みはない、しかし怒りもない、涙もない。

 選手たちの顔にはまだ悲しみと無念が貼り付いていたが、監督はもうそういう境地を通り越してしまっていたのであろうか。そしてそれから5分、監督は依然として表情を変えず、腕組みをしたまま何も言おうとしない。


「来年キャプテンは百地で行きます」


 そしてやっと放たれた監督の第一声には、コーチや選手たちの口を塞がらなくさせる破壊力があった。百地と言うランナーの成績が悪い訳ではない。具体的に言えば、1区で稲田大学・太平洋大学に次ぐ区間3位。そう、彼こそがその僅かな光芒を放ったランナーだったのだ。その実績を考えれば次期キャプテンに指名されるのもわかる話だろう……彼が2年生でなければ。

 数多の3年生を差し置いてのキャプテン指名、余りにも異例なその人事に、百地本人を含め大学関係者すべてが凍り付いた。

「新4年生はそれを許せないのであれば辞めろ、では解散!」

 その最後通牒と言うべき台詞を最後に、監督は話をやめた。そしてコーチも選手も無言のまま監督に付き従った。

 反論など一斉認めないと言わんばかりの大ナタに、誰も何も言う事はできなかったのである。その異様な空気を漂わせていた集団こそ、今年度箱根駅伝19位、日本ジムナス大学であった。

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