第2話 夜のおさんぽ

骸骨の手を握ると、すっと二人の体が浮いた。

そして天井や屋根裏部屋をすり抜けて屋根の上に着地した。


「さて、では少しの間だけお付き合い願おうか」

骸骨に促され、馬車に乗り込む。

私が腰かけると、隣にちゃっかりうさぎが座った。

そして、骸骨からカンテラを渡された。

「このほうが落ち着くだろう」

カンテラの中の灯りは、火ではなく電球でもない。

小さな太陽のようなものがぼんやりと明滅を繰り返していた。


「さあ、出発だ」

骸骨が合図をすると骨の馬が蹄を鳴らし歩き始めた。

そして二、三歩進んだかと思うとふわりと空に向かって浮き上がったのだった。

「わぁ!」

まるで月に向かうような感覚だった。



馬がひと啼きし夜空を滑るように駆けていく。

それは地上を走る馬車では感じられない独特の浮遊感を感じさせた。

眼下ではどんどんと我が家の屋根が小さくなる。


星と町の灯りが同じくらいの大きさに感じられ始めたとき、私は少しだけ寒さを覚えた。

そんな時はカンテラをぎゅっ、と抱き締めるとじんわりとした暖かみが包み込むように広がった。

それは不思議と、どこか知っているような暖かみだった。


「素敵な馬車ね」

私が言うと骸骨はどこか嬉しそうに「そうかい」と言った。

「お褒めにあずかり光栄だ」

馬もヒヒン、と嬉しそうに啼いた。


まだまだ続く夜の中を、私たちは馬車に乗って進んだ。

カンテラの灯りと暖かさがあれば多少の寒気は気にならないし、うさぎは話はしないもののぷらぷらと足を動かしていて見ているだけでも飽きない。


「御者さんは、どこから来たの」

話しかけると骸骨は半分だけこちらを向いて答えた。

「ずっと遠いところからさ。だけどとても近い場所でもあるね」

謎かけのような言葉だったが私はふうん、とそれ以上の追及をしなかった。


馬車は雪道を滑るそりのように夜空を駆け巡った。

まるで永遠に続くような時間だったが結局は終わりの時がくる。


馬車は再び我が家の屋根の上に着地した。

私は馬車を降りて、骸骨にお礼を伝えた。

「素敵な夜をありがとう。またお話ししたいわ」

すると骸骨は私の頭を撫でた。

「ああ、いつかきっとまた」


「今日は楽しかったよ。こちらこそありがとう」

そう言って、骸骨は馬車に乗り再び夜空へと駆け上がっていった。

私はその姿が見えなくなるまで手を振っていた。




目を開けるとそこは自室のベッドの上だった。

柔らかな朝の陽射しが頬に触れる。

「夢だったのかしら?」

私は再びぽすりと枕に沈んだ。

きっと夢ではない夢がまだ瞼の裏に残っている。



その日、祖母は永遠の眠りについた。

見つけたとき、とても安らかな表情をしていたという。

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