松の樹

 海沿いの道。

 荒涼と砂浜が続くなか、一本の松の樹が立ちすくんでいた。


 その松は雨にも怯まず、潮風を耐え忍び、轟くいかずちにさえその場を譲ることはしなかった。

 そうして長い間、幾年もわたってただ独り、立ち続けてきたのだった。


「お前は曇り空がよく似合うなァ」


 通りすがった旅人は、いかにも雨が降り出しそうな曇天を背に抱える老樹に向かって呟いた。


 松の樹は返答のかわりに、とでも言いたげな様子で風に葉を揺らした。

 そして旅人とともに海の向こう側、はるか遠くの地に思いを馳せながら、静かに時を刻むのであった。

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とある世界の短編集 花沢祐介 @hana_no_youni

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