喫茶店、悠然と。

 日曜日の昼下がり。

 週末にしては混雑していない喫茶店には穏やかな時間が流れている。


「ほんと、貴方って変わった人ね」


 陽子はシナモンスティックを手に取りながら呟いた。


「それはどういう意味で?」


 洋一は手際よくエスプレッソに砂糖を加えながら答える。


「もちろん、一般的な意味においてよ」

「一般的な意味おいて」

「そう」


 ふむ、と洋一は考え込む。


 陽子は片肘をついて、頬に手を乗せた。

 それからシナモンスティックでティーカップの縁をくるくるとなぞる。

 店内の照明を受けて、カップの中のチャイがきらりと輝いた。


「もし僕が変わっていると言うのなら」


 洋一はパーマのかかった前髪を左耳にかけながら言葉を選んでいる。


「それはイタリアへの挑戦に他ならないよ」

「イタリアへの挑戦?」

「そう。まさしく」


 今度は何を言い出すのやら、と陽子は伏し目がちにチャイを一口啜る。

 先ほど浸したシナモンが心地良い風味を引き出している、そのチャイを。


「どうしてそんなことになるのかしら」

「というのも、僕のエスプレッソの飲み方はイタリアの方式に倣っているんだ」

「そうみたいね」

「だから僕が変わっていると言うのなら、イタリアの普遍に対する挑戦になってしまうんだ」

「そう、それは大変ね」


 陽子は引き続きチャイを啜った。


 シナモンスティックは悠然と、ソーサーの縁にもたれかかっている。

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