行きつけのカフェ

 彼らには行きつけのカフェがある。


 そのカフェは大通りから一本入ったところにあって、彼らは比較的空席率の高い道路側のテラス席を定位置としていた。


 何もすることがない日はそのカフェへ赴き、あたかも決まりごとのように彼はエスプレッソを、彼女はカプチーノを注文する。


 飲み物を受け取って席につくと、彼らは文庫本を手にとったり、手帳に何かを記したり、ただぼうっと雲を眺めたりと、思い思いにのんびりとした時間を過ごす。


 時々、ビターチョコレートソースがかかったパンケーキ(バニラアイス付き)や、季節のフルーツタルトなんかも注文して食べたりするが、概ねそうした一連の行動すべてが彼らの「いつも通り」だ。


 彼らにとってその「いつも通り」は必要不可欠であり、とても大きな意味を持つものだった。


 何があってもなくても、そこに立ち帰りさえすれば、二人の毎日が変わらずに続いていくことを保証し合えるという、ある種の儀式のようなものなのだ。


 そして今日も、彼らは道路側のテラス席に座ってコーヒーを飲み、二人にしかわからない無言の約束を交わしている。


 テラス席の面する歩道では、アプリコットカラーのトイプードルが飼い主を先導して得意げに散歩していた。


 今日の空はよく晴れている。


 彼らの日々もきっと、末永く続いてゆくのだろう。

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