第13話 結び付く点と点


 捕まってた?


 いやいやいや。もし捕まったなら今奴らが外にいるのはおかしいだろ。釈放された…?それとも脱獄?そんな訳ねぇし。


 あーもう訳わかんねぇ。


「大混乱してる所悪いんだけど、もう一つあるんだよね」


 天音さんが、笑顔を浮かべて周囲に言った。


 もう一つ?まだなんかあんのか。


「そう疲れた顔しないで。これ、回してね。極秘国のサイトから引っ張って来たやつだから」


 ご…極秘国のサイトから。


 またセキュリティ突破したのか?天音さんすげぇな。


 天音さんの一番近い席にいる俺まず、紙が渡された。


 なんだ…。これ。


 紙には、真っ黒な背景に、名前と年齢がいくつも載っていた。どれも、10歳未満の子供たちばかりだ。そして、名前の上には、何かの金額が表示されている。これは…。


 紙は3枚あり、ホチキスでまとめられている。


 俺は、紙をめくって最後のページを開いた。


 ズラリと並ぶ子供たちの名前と年齢、金額。3枚目の下の方に、目慣れた名前があった。


 俺は、目を見開く。


 ルーカス、マテオ、リアム、オリバー。あと、犯罪者ランキング5位だったと言う名も………。


 そして、一番下には、と、記載されていた。


「……………」


 俺は目を丸くしたまま、固まる。


「早く回せ」


 面倒臭そうな声が耳に届いた。


 成川さんの声だ。


「す、すみません。どうぞ」


 俺は、頭が真っ白なまま、紙を次の人に回した。


 ……………。


 俺は今、腕に鳥肌が、立っていた。


 まただ。


 また、ルナの名が、ない。


 前に、天音さんが持って来た極秘国の養護施設の子供たちの日記では、ルナの名前があったはず…。なのに、この紙には彼女の名だけがない。


 そして、まるで、彼女の代わりようにと言う名がある。


 しかも、犯罪者ランキングと、全く同じ名が、最終ページに並んで…。


「順番も、名も、一緒…」


 俺は、目を丸く見開いたまま、つぶやいた。


「そうだな。犯罪者ランキングの並びと一緒だな。ルナの名がない事も、一緒だ」


 俺の言葉に反応したのは、成川さんだ。彼はもうすでに次に紙を回していた。


 頭おかしくなりそうになる。極秘国のデータと犯罪者ランキングと全く一緒なんざ、どう考えてもおかしい。ルナの名がないのも一緒だ。こんな偶然ありえない。


「おい天音! なんだよこれ! リアムたちが養護施設にいて脱走して懸賞金かけられてんのは分かったけどよ。犯罪者ランキングと一緒ってよ」


 大野さんが、大きな声で言った。


「確かになー。でも、あいつらの殺しの動機は分かったな。集団脱走するくらいだ。よっぽどひどい環境だったんだろうよ」


 天音さんは、椅子に持たれながら、笑いながら口を開いた。


「あと、もう一つが、犯罪者ランキングはこれ見て作られたのかもしれないなって事くらいか」


 成川さんが、なんの違和感のなく当たり前のように言った。


 俺たちはびっくりしすぎて成川さんを見る。


 成川さんは自分に視線が集中したのを驚いたかのような顔をしたあと、すぐに眉をしかめて溜息を吐いた。


「な、なるほどな。だ、だったら、順位がめちゃくちゃなのも分かる。そのまま名前を載せて、殺害人数は後で付け足したって感じ…か」


 野村さんが、固い口調で言った。


「繋がってるって事だろ。警察組織と、極秘国が。捕まえて欲しいんだ。あいつらを」


 成川さんが、下を向いて眉をしかめたまま、再び面倒臭そうに声を上げた。


 そして、またも目を丸して成川さんを見る俺たち。成川さんは、面倒臭いのか、誰とももう目を合わせなかった。


 成川さん…冷静に話し進めてるけど、俺の頭は大パニック中だ。


 警察組織と極秘国が、やつらを捕まえて欲しい…?だから、極秘国は懸賞金をかけた訳で、だから警察組織も、犯罪者ランキングのトップに彼らを置いたと…?


 いつかの、真実を、思い出した。


 ー隠す事ー


 俺たち個人に、こんな大犯罪を担当させて、誰の力も借りず、たった一人でなんて捕まえられる訳がなかった。なのに、警察組織はその仕組みで、彼らを担当させる特別機関を作った…。望んでいた事は、きっとやつを捕まえる事じゃない。遺体を発見させ、記録させ、管理する者が必要だっただけ。


 なのに今更、犯罪者ランキングトップなんかに載せて、皆で捕まえて下さいだ?どういう風の吹き回しだよ。


「おどらされてんのかもな」


 成川さんが、静かに口を開く。


「あ?」


 大野さんが、声を上げた。


「極秘国が、懸賞金を出した事で、目的が変わったんだろ」


 目的が…変わった…?


 誰がなんの目的を変えたって?


 もう、成川さんの言ってる事の意味、誰も理解出来てないと思う。俺もだ。


「隠す事から、捕まえる事に?確かにな。この懸賞金が出たのも最近だ。運営や関係者が次々と殺されてく中で、黙ってられなくなったんだろうな。極秘国からしたら、やつらを捕まえる事が一番の解決策だ」


 天音さんが、微笑みながら口を開いた。


 相変わらず場違いな笑顔だけど、成川さんの言葉を理解出来てんのは天音さんだけだ。


 天音さんの言葉を聞いても、いまいち訳分かんねぇし。俺が馬鹿なだけなのか、天音さんと成川さんが特別頭がいいだけのか。まぁ、どっちでもいいけどとりあえず理解しねぇと。


「すみません。えっと、まず、極秘国の懸賞金名簿をそのまま載せるって事は、極秘国と警察組織は繋がってるって事で。って事は、今まで上がってた死体が、極秘国の運営であった事も、警察組織は知ってたって事にもなる…」


 知ってたって事はどうする?


 殺されているのが極秘国の運営だと言う事が、世間に漏れないように、最低限の人数で、極秘に遺体を処理し、記録する機関が必要になる。


それが、俺たち特別機関。


本人たちですら、その目的を知らされてない。なのに、懸賞金が出た事で、目的を、変えたんだ。隠す事から、捕まえて、極秘国にやつらを引き渡す事にー。


 警察組織が、極秘国の養護施設脱走者を捕まえるための…。特別機関が、彼らを捕まえるための組織。


「あいつらや子供たちが、その後どうなったのかも調べてみるよ」


 天音さんが、ニコニコしながら言う。


「それに、殺人リストが手に入ったんだ。生き残ってる人に接触すれば、やつらの事も聞けるかもしれない」


 野村さんは、天音さんとは対象的な、硬い口調で言った。


「そうですね」


 俺は、静かに言った。


 殺人リストで、まだバッテンが付いていない人物。彼等を保護と称して接触すれば、何かしらの手がかりになる。


 俺たちは、再び殺人リストを視界に入れた。


 こんがらがる情報ばかり、でも、少しずつ、点と点が結び付いて行く。


 彼らの真実まで、あと少し。




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