第12話 脱走者
鈴木 ゆう side
──────────────────
俺は、事務所に向かって歩いていた。
昨日、殺人リストが見つかった。皆夜遅くまでいたし、多分、事務所には誰も来てないだろうけど。
事務所に行ったからって何かある訳じゃない。ただ、じっとなんてしてられなかった。
建物に入り、エレベーターに乗ろうと足を進ませた時「あ?ゆう?」と、聞き慣れた声が聞こえて来た。
「大野さん!?」
エレベーターの前で、大野さんに会った。
俺たちは、出勤時間は定まっていない。会うなんて結構凄い確率だ。
「そんな驚く事かよ。お前もアレだろ?とりあえず、家から出て来たってオチだろ」
大野さんは、言った。
まぁ、そうだけど。そう言うって事は大野さんもか。
「まぁ…」
俺は、苦笑いをして答えた。
「あんなの見つかって家でのんびりなんて出来ねぇよなー。ほかのやつらも事務所来てんじゃねぇか?」
大野さんは。エレベーターから降りて早足で進んで行った。
「そうかもしれませんね」
俺も、彼を追いかけるようにして早足で付いて行く。
つか歩くの早。大野さんこの人、絶対せっかちだよな。俺が遅いだけか?
案の定、事務所に着くのは実にあっという間だった。
ドアを開けたら、見慣れた人たちの顔があって、俺は目を丸くする。
「おはよー」
「おはようございます」
俺はいつものように挨拶をした。
成川さん、野村さんに天音さん。皆いるじゃねぇか。やっぱり、考える事は皆一緒って事か。
でも、なんだ?この妙な空気は。
「……………」
誰も挨拶返して来ねぇんだけど。
「おいおいなんだよ。暗くねぇか?」
大野さんが、大きな声を出して言う。
俺も大野さんも、自分の席へと歩いて行く。
「まぁ、面白い事になってるからね。大野も聞いたらきっと困惑するよ」
天音さんの声。
相変わら奇麗な笑みを浮かべている。
「丁度良く全員が
堅苦しい声。
野村さんだ。
新しい情報…?殺人リストが見つかった事とは別件だよな。ほんとに、次から次へと…。
「犯罪者ランキングが更新された。トップ4位まではやつらの名前が載ってる」
は?
なに?
「どういう…」
俺の声は、大野さんの「どういう事でだよ!?」と言うリアクションに、呆気なくかき消された。
「うるせぇ。これだよ」
成川さんだ。
大野さんに言ったんだろうけど、紙は俺に手渡された。
俺は、紙を食い入るように見つめた。
┌───────────┐
│ルーカス 19才 男 │
│───────────│
│身長177 体重59 │
│───────────│
│ 258名殺害 │
│ ランク1位 │
│───────────│
│───────────│
│マテオ 19才 男 │
│───────────│
│身長182 体重63 │
│───────────│
│ 248名殺害 │
│ ランク2位 │
│───────────│
│───────────│
│リアム 19才 男 │
│───────────│
│身長170 体重52 │
│───────────│
│ 242名殺害 │
│ ランク3位 │
│───────────│
│───────────│
│オリバー 19才 男 │
│───────────│
│身長175 体重59 │
│───────────│
│ 238名殺害 │
│ ランク4位 │
│───────────│
│───────────│
│シエル 19才 男 │
│───────────│
│身長176 体重60 │
│───────────│
│ 232名殺害 │
│ ランク5位 │
└───────────┘
なんだこれ…。
「ちょっと、俺にも見せてくれ」
大野さんに紙を取られた。
俺は、大野さんに紙を取られた事なんて気にも止めないほど、頭をぐるぐると回転させていた。
成川さんが配ったって事は、成川さんが持って来たものだよな。
犯罪者ランキングって昔はこまめに更新してあったけど。ここ数年はもはや機能してなかったはず。
ランキングは、人数的に何億という単位の規模に及ぶもので、まだ逮捕されていない犯人たちが載っている…。指名手配犯のランキングみたいなもんか。それが、急に更新されて、しかもやつらの名前が載った?
「おい、ゆう。ルナって女の名前がねぇぞ?」
そう…そして、大野さんの言うように、俺たちの前に現れた犯人たちの中で、ルナの名前だけが、なかった。
ルナの代わりのように、5位には見知らぬ名前がある。
「シエルってやつが、5位にいるな。ルナはまだ発見されてないのか」
大野さんは
「どうやら俺らは、とんでもないやつらを相手していたらしい」
野村さんが苦笑いを浮かべながら話した。
何億との人数をランク付けした犯罪者ランキング。六位から下は知らない犯罪者のデータが載っていた。
未解決事件、同一犯であると予想される連続殺人事件、異国のテロリストのリーダーなども載っている。難解で、未だに逮捕まで至っていない事件ばかりだ。
5位までの若い殺人犯よりも、6位以下の方が妙に現実味が帯びる。
「でも、殺した人数はでたらめだな。なんでこの順位なんだろーな?」
天音さんが、声を上げた。
え。
嘘だろ。そんな事あるか?俺たちが担当する遺体の数は警察組織は把握してるはずだけど。
紙を持っていた大野さんが、また紙を見直していた。
大野さんの担当は…ルーカスだったか。それぞれの担当事件の被害者の数は、自分たちしか把握してない。
「本当だ…。少ない」
大野さんが、言った。
「まじかよ! 殺した人数がでたらめ!? 大野さん、リアムの殺害人数教えて下さい」
「242人だ」
「本当だ。全然違げぇな。なんだこの順位」
やつらの順位が、でたらめ…?
なんでだ?
あいつらの殺人の数は少なくはない。そのままの数字載せりゃいいのに。4人の中で順位が変動するだけだろ。
「あと、もう一つ問題もあります」
成川さんは低い声で呟いた。
「何故あいつらのデータが、担当者の特別機関のもとに降りて来ないのか」
成川さんは眉間に
そうだ。そこもおかしい。
犯罪者ランキングで上位4位までの犯罪者が起こす事件をそのまま特別機関に回したと言う事は、国は犯人を知っていたという事になる。だが俺たちには何も情報は回って来ていない…。
どういう事だ?
ルナはどういう訳か逃げ切れたみてぇだが、ほかの4人は、バッチリランキングに載ってる。
それにそもそも、彼らが連続殺人の犯人である事は誰も知らないはず。俺たちは個人個人で彼らを追っていたため、特別機関のメンバー同士でさえ、それぞれの担当していた犯人の特徴すらも知らなかった。
調査を任された俺たちが、最近やっとこいつらが犯人だと確信付いて来たばかりだと言うのに…。何故彼らが犯人だと、ランキングでは分かってるんだ…?
「それに、未成年だったんだね彼ら。知らなかったな」
天音さんは、笑いながら言った。
「どうなってんだかな。年齢普通に載ってるけど、担当してる俺たちですら知らない情報だぞこれ」
野村さんが、固い口調は崩さないものの、何処か苛々したように話した。
知ってたなら、あいつらの情報があったなら、こっちにさっさと教えろよって話しだ。たく、警察組織は何を考えてこんなランキング出したんだか。
「しかも、身長と体重なんて…。これ、計ったって事ですよね?」
「……………」
俺が口を開いたら、辺りが、一瞬静まり返った。
まぁ、適当に載せたのかもしれないけど。
「計った!?あいつらに接触して、逮捕も何もしねぇで、身長と体重計ったって事かよ。そんな事あるか?あんなの嘘っぱち載せてるだけだろ。殺害人数も順位も適当なんだからよ」
大野さんが大きな声を上げた。
そうだよな。そうなるよな。でも、嘘載せるか……?まぁ、ありえなくもない。現に、順位はでたらめな訳だし。非現実感的な事なんて腐るほど起きてる。
「ほかのランキングに載ってる殺人犯は、身長体重は愚か年齢も載ってない者もいる。それを見ると、身長も体重も年齢も、必須じゃないんだ。分からない事は記載しなくてもいいって事だ。確かな情報だから、あそこに載ってる」
野村さんは、紙を直射しながら、真面目な口調で話していた。
「やっぱり、誰かが、調べたって事か…。逮捕されてないのは、なんだろうな。あいつら、妙な力使うし、逃げたんじゃねぇか」
大野さんは、頭を無造作にかきながら話す。
「それか、一回捕まってたとか?」
天音さんが、ニコニコしながら言う。
皆、目を丸くして、笑顔を浮かべる彼を視界に入れた。
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