真実編 第三章

第11話 明かされていく謎


 天音 直樹 side

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 俺は今、事務所に一人でいた。


 極秘国の運営の名簿…そして、奴らの殺人リストが見つかったのは、つい昨日の話しだ。遅くまでかかったし、多分、今日は誰も事務所には来ない気がする。


 自分の机の椅子に腰掛ける俺は、殺人リストを手にして、それを見つめた。


 何人もの顔写真が載っている紙には、見た事がある顔がちらほらいる。この人は確か…。1年前に死体となって発見された被害者。この人も、この人もだ。


 俺が見た事がある人物の写真には、太いマジックペンでバッテン印が書かれている。バツ印が付いた顔写真の人物は、俺が担当した死体…。何者かに殺された被害者たちだ。


 恐らく、バツ印が付いてない人たちは、生きている人たちなのだろう。そして、これから、殺されるの人たち。


 連続殺人犯たちの、殺人リスト…。とんでもないもん見つけちまった。


 俺は、パソコンを立ち上げた。


 ここで調べなきゃならねぇのは、あの、と言うサイトだ。


 厳重すぎるセキュリティを突破したのは俺だけ。サイトは、特別機関の中では俺だけが開く事が出来る。次に皆と会う時まで、ある程度中を調べておかないと。


 サイトを開いて、食い入るようにそれを見つめる。サイトにはいくつものリンクが貼ってあるが、どれも暗号のようなもので表示されていた。一見、どんなリンク先に飛んで行くのか全く分からない。リンクをクリックして中身を見ようとしても、またもやパスワードが求められるため中身は見れない。一つ一つのリンクに、それぞれ異なったパスワードが必要と言う、なんとも手の混んだものだった。


 俺は、唇を噛み締めながら、頬を上げていた。自然と笑みがこぼれていた。


 今まで何も進まなかった事件が、ようやく動き始めたのを、肌でひしひしと感じる。これを、笑わずしていられるか。


 特別機関に入る前は、パソコン業務を全般的にやっていた。こう言った複雑なセキュリティを解析する業務だ。そのときの技術が、こんな所で役に立つなんて思わなかった。


 特別機関のメンバーは、何かのスキルや能力が高い者たちが集まった集団であるらしい。俺は、この技術を買われてメンバー入りした訳だけど、皆がどんな能力で抜擢されたのかはよくわかってない。でも確か、成川はIQが高いから、だったかな。


 俺は素早く手を動かし、サイトのリンクのパスワードを解析し、中身をこじ開けた。


 前調べたとき、別のリンク先には、養護施設の子供たちの日記が出てきた。このリンク先に表示されているものは…。


 サイトには、黒い背景に、名前と年齢がいくつも載っていた。そして、その上には、何かの金額が表示されている。これは…。懸賞金…か?


 でも、懸賞金だとしたらおかしい。だって、載っている者の年齢を見ると皆、子供たちだ。こんな小さな子供に、懸賞金…?


 サイトをスクロールさせ、ページの下へと移動する。そしたら…。


 よく見慣れた名前が、目に映った。


 俺は、目を見開く。


 ルーカス、マテオ、リアム、オリバー。


 マテオ…。


 サイトの一番下には、と、記載されていた。


 マテオたちは…極秘国が運営する養護施設の、脱走者…?しかも、懸賞金…。


 ズキっ。


 不意に、こめかみの神経が、脈打った。


 頭が、痛い。


 俺は、頭を抑えながら、サイトのページをコピーしようと、手を進ませた。


 ズキ、ズキ。


 脈打つようなテンポで、痛みを伝えるこの頭は、休む事なく稼働し続ける。


 脱走者は、マテオたちだけじゃない。ほかの子供たちもいる…。そして彼らは、極秘国の運営名簿をもとに、殺しを行っている…?


 ガチャガチャ。


 ………?


 誰かが、事務所に入って来た。


「………おはようございます」


 事務所に入って来た男は、俺の顔を見ると思い切り眉をしかめて、ぶっきらぼうに言った。


「おはよう、成川。まさかお前が来るとはな」


 俺は、いつものように笑顔を浮かべて言った。


「妙な情報を得たから。天音は?」


 成川は、机に鞄を下ろして、静かに口を開く。


「俺もだよ」


 俺は、笑顔を浮かべたまま、言う。


「大丈夫か?」


 俺が笑顔を崩さずにいたが、成川は怪訝そうに眉をひそめて言った。


 俺は思わず「え?」と、口にする。


「いや、なんか」


 成川が、言う。


 あーほんと、鋭いよなこいつ。


「あぁ。頭痛くて」


 俺が下を向きながら言うと、成川は自分の鞄から小さな錠剤を手にして「どーぞ」と言った。


「お前が頭痛薬持ってるとか、いがいなんだけど」


 俺は、目を丸くして言う。


「…………」


 成川は俺に頭痛薬を無言で渡し、自分の席に戻って行った。


「ありがとな。で、妙な情報って?」


 持って来ていた飲み物で薬を飲みながら、俺はまた笑顔を浮かべた。


「いえ、まだ憶測程度だから」


 成川は、変わらず眉をしかめている。


「いいよ。俺もだし」


 俺は、肩を上げて自分の席に腰掛けた。


 成川の席は、俺の斜め向かいだ。顔がよく見える。


「警察組織の、犯罪者ランキングって知ってるか?」


 犯罪者ランキング…。名の通り、犯罪者のランキングだ。でもあれは確か…。


「あぁ。でも、もう機能してないだろ?」


 警察組織で昔作られた、犯罪者のランキング。その上位5位までの犯人を担当するために、特別機関が設立されたと聞いたが…。でも、俺たちが特別機関に抜擢された頃にはもう、犯罪者ランキングは放置され更新もされていなかった。もはやあってないようなもののはず。


「それが、更新されたんだよ。犯罪者のランキングの順位が、変わった」


 成川は、渋い表情を見せた。


「なに?なんで今更…」


 俺は、目を丸くした。


 コピー機から音が出始めた。成川が、何かを印刷したんだ。


 なんだ…?


「これを」


 成川は、コピー機に足を進めて紙を手に取ると、それをそのまま俺に渡して来た。


 犯罪者ランキングと一番上に書かれた紙には、犯罪者たちのランキングが載っている。


 殺した人数や、犯行数によって決められたランキング。まだ犯人はまだ逮捕されておらず、未解決扱いとなっている事件だ。犯人の名前が載っているものもあれば、物的証拠のみで同一犯と断定された事件等もランキングには含まれている。


「……………」


 俺は、紙に書かれたランキングを見たまま、目を丸く見開いて固まっていた。


 馬鹿な…。


 犯罪者ランキング。


 1位が…。ルーカスだと?


 2位は、マテオ、3位はリアム…。4位が、オリバー?


「なんだよこれ…」


 俺は、独り言のようにつぶやいた。


「…………わかりません。なんであいつらの名前がこんな所にあるのかも。なんで、警察組織が…」


「あいつらの名前を、知っているのか」


 俺と成川は、目線を上げて、互いの顔を見合わせた。


 ガチャガチャ!


 ドアから音が聞こえた。


「野村さん……」


 挨拶するのも忘れた俺は、ただ呆然と、事務所に入って来た人の名をつぶやくしか出来なかった。


 野村さんは、俺たちの反応がいつもと違うのをかん付いてか、一瞬目を丸くしたが、すぐに、俺の手元にある紙に視線を下げた。


「改定されたな。ランキングが」


 野村さんの顔から、困惑した表情が見えた。



 

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