第30話 ナゾが謎を呼ぶ

 天音さんから配られた紙には、あるサイトのページがコピーされていた。


 紙の一番上には、─養護施設─と書かれている。下には、いくつものリンクが貼ってあるのがみえるが、その中の一つの、日記と書かれたリンク先に丸が書かれていた。


 二枚目の紙に、日記の中身が掲載されている。養護施設の子供たちの日記なのだろうか。可愛らしい文章が載っていた。


 ✕月✕日、今日の天気は晴。施設の先生は今日も優しかった。でも、嫌な事もあって、友達のリアムが、ルナのおもちゃを取っちゃって、ルナが泣いてた。僕は、ルナを慰めたら、ルナが泣きやんだ。嬉しかった。


 ✕月✕日、今日の天気は曇り。今日のご飯、とても美味しかったです。僕の名前はリアム。昨日、ルナのおもちゃを取ったから、今日は、ルナにおもちゃをあげて仲直りしました。


 ✕月✕日、今日は雨。俺はオリバー。ルーカスと喧嘩した。あいつ、嫌いだ。

 

 ✕月✕日、今日は晴れ。僕はマテオ。皆と遊んだ。楽しかった。ご飯もおいしかった。お菓子食べたい。


 毎回、違う子たちが、日記を書いているのだろう。子供たちと思われる者の日記はとても可愛らしく、純粋な目を通した常が描かれていた。


 日記の中に出て来る子供たちの名前は…。俺たちの前に現れた、犯人たちの名前だ。


「天音…。これは…。何処でこんなものを」


 流石さすがの成川さんも動揺しているようで、途切れ途切れに言葉を繋げた。


 今更こんなものが出て来るなんて、おかしい。だって、俺たちだって、サイトでは血眼ちまなこになって探して来た。なのに、彼らの名に辿り着くデーターなんて何一つとしてなかった。


 見落としてたって事か?今まで、全員が…?


極秘国ごくひこくと言うサイトを知ってるだろ?」


 極秘国…。そのサイトから!?極秘国と言うサイトは確か…。


「あぁ‥でもどうやって」


 成川さんは雨宮さんを見る事なく、渡された紙を食い入るように見つめながら話している。


「何日もパソコンと格闘してな。やっとパスワードの暗証を解いた。このサイト、鍵をかけるにしては暗証が重すぎる」


 極秘国。犯罪者同士の情報交換等で利用されていると言われる、極秘情報サイト。パスワードが非常に厳重で、決められた者しかアクセス出来ないと言われている。


 麻薬の密売や、殺人依頼などの連絡網の役割を果たす極秘国と言うサイト。金で雇って実行させた殺人の、金銭の受け渡しなどもここで行われているそうだ。


 警察組織でも、天音さんのようにパスワードの突破に成功したとの情報はある。だか、極秘国内でのやり取りは足が着きにくく、犯罪依頼や金銭のやり取りは発見出来ても、本人にまで辿り着けた試しがない。


「極秘国に、養護施設のサイトがあったってか?どう考えてもミスマッチだろ」


 大野さんが、頭をかきながら言った。


「養護施設、聞こえはいいけどね。極秘国のサイトに載ってる養護施設って事は、ここは恐らく…」


 天音さんは、いつものようににっこりと笑って、話した。


 天音さんの表情は、いつも話題とは対象的なものだ。何でこんな明るい顔してんだかわかんないけど、彼の言葉は、確信を迫るものだった。


「人身売買…」


 野村さんが、天音さんとは対象的な険しい顔をして、口を開いた。


「………奴らは、闇サイトで売られた子供だったって事か…?」


 大野さんが、戸惑いながら口にする。


「この日記の子供たちの足取りは分かりましたか?」


 俺は、天音さんに向かって言った。


「いや…。この先は、アクセス出来なくてね。もっと厳重な解読が必要なんだ」


 天音さんは、肩を上げて軽く答えた。


 闇サイトで売られた子供…。確かに、それなら、納得できるかもしれない。あいつらが、取り乱した時の様子が。


 俺は、ルナたちが、事務所で現れた時の事を思い出していた。ルナを撃った後、ルーカスたちは動揺し、に、ひどく怯えた顔をしていたのを。


「よほどそこで、酷い目に合わされたんでしょうね」


 俺は、下を向いて呟いた。


「でも、あんな風に、人を殺していい事にはならねぇ。どんな目に合って育ったとしても」


 野村さんは言う。


 顔が原型を残さないほどボコボコで…。首から下は氷った遺体。そうだよな。明らかに、異常だ。それを、ルナたちがしているのだろう。復讐のつもりで…。


「特別機関…」


 ………?


 静まった辺りにポツリと誰かの声が零れた。


「特別機関の、しくみ」


 呟いているのは成川さんだ。


勤務総官のしくみ‥?


「成川、お前」


 大野さんが不満そうな顔をして成川さんを見る。


 残り三人の俺たちの頭にはハテナが浮かんでいた。


「成川、それはないだろ!」


「そう言い切れるか?」


「でも…まさか…」


 成川さんと大野さんでよく分からない会話をしている。


 あーもう!なんだよ!


 俺は説明してください!!と言おうと口を開いた。


「説明「おい」


 …………。


 俺の話は野村さんの力強い一言で遮られた。


 俺は開いた口を渋々しぶしぶ閉ざした。野村さんの言葉でみんな彼に視線が集める。


「説明しろ。なんのためにみんな集まったんだ。一人で考えこんで何か分かったなら情報を共有しろ」


 野村さんが少し苛々した口調で言った。


「悪い」


 成川さんが一言言った。


「そうだな」


 大野さんも下を向いて呟く。


 二人ともなんだか凄く深刻そうな顔をしていた。


「大野はまだ確信してないんだろ?成川」


 天音さんが言った。


 大野さんは小さく頷くと、成川さんが面倒臭そうに話始めた。


「特別機関のしくみを思い出せ」


 …………。


「昔から不思議だったよ。特別機関は、他の刑事は愚か一緒に捜査してる警官まで、事件の事を開かせない決まりが」


 ………?


 特別機関は、他の警官からは一切関与されるのが許されない。事件の情報交換も、勤務総官意外の枠では許されない。特別機関の担当している事件は、ニュースは愚か、被害者の遺族にまで沈黙を守らせる。


「おかしくねぇか?」


 確かに警察みんなと手を組んだ方が解決しやすくなる。遺族にまで、事件の事を語らせない理由はなんだ?


「だいたいこんなくそみたいな犯人なら」


 極秘国の養護施設…。闇サイトでの人身売買。足取りをつかむのが、極めて難しい。なのに…。


「俺たち個人個人の捜査で、犯人捕まえるなんざ無理に決まってんだろ」


 ………。


 特別機関は、ある特定の犯罪を担当する期間。事務所は五人だけで隔離され、出勤も自由。確かに、捕まえる気がある決まりだとは思えねぇな。


「単独犯じゃねぇ。五人はいる。連続殺人犯のグループだぞ?なのに俺たち個人だけで捜査をしろなんてバカな話あるかよ」


 成川さんは面倒臭そうに言葉を吐き捨てた。


「くそ。ありえねぇだろ」


 誰も話を割って入ろうとはしない。成川さんは、多分この四人の中で一番にかんが鋭い。皮肉にもそれが毎回当たるんだ。全員、その事は分かっている。ただ、まだ、成川さんが何が言いたいか見えて来ない。


「国は俺たちが犯人を捕まえる事なんざ望んじゃいねぇ」


 なに………?


「国が必要としてるのは、この事件をだ」


 成川さんの言葉を聞くと、みんなの目が見開いた。


 俺たちが今までやって来た事は事件が世間に出ないように、警察たちに詳しい事情を知られないように、被害者の遺族の周囲の人間に何も知られないように、殺人事態のすべてを


「特別機関の事務所が仕切られてんのも、事件の捜査は単独での行動のみと決められたのも、そのためだ」


「特別機関以外の周囲の人間に、このイカレタ犯人たちを公開しないように」


 成川さんがこんな喋ったの初めて見た。しかも今までにないくらい面倒臭そうに。でもこれは、単なる憶測にすぎないと言えば、そこまでになってしまう。


 それに、もっと大きなものが、ルナたちの事件の裏に隠れてるように思えた。


 俺たちがやっている事がならば、また疑問が生まれて来る。


 何を隠す?事件を?なんで?


 残酷過ぎるからか?


 いや、違う…。もっと別の何かだ。もっと大きな、別のが。


「…………」


 辺りを只管ひたすら沈黙が包んだ。


 特別機関、皆が、難しそうな顔をして、下を向いている。


 もし成川さんが言っていた事が当たっていたなら、ら調査すればするほど、特別機関の身が危うくなる。周りにのなら、俺たちに対しても同じ事だろう。その証拠に、俺たちには何の情報も降りて来ていない。


「…………」


 皆無言だが、きっと考えている事は同じはずだ。


 奴らが言う真実と言うのが、国が隠しているだとしたらわ真実を追求する事は、国の下で働いている俺達には致命傷に思えた。


 特別機関の仕事には、此の上無く贅沢させてもらってる。生活が危うくなるんだ。皆が無言になるのも無理はない。

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