第31話 決意


 だからってこれから先もずっと死体を調査する毎日を続けろと?前に進む事もなく、捕まえる事も無く、ただ繰り返すのか。そんな毎日を。それが俺達の仕事?


「違います」


 俺は決意したように静かに言葉を発した。


「もしそうだとしても」


 もし俺達がしてることが隠す事と言う目的で任された事であっても。


「俺達は上から何も聞かされていません。何も知りません」


 上から隠せと命じられてる訳じゃない。


 ただ調と。


「ゆう…?」


 大野さんが戸惑うようにこちらに問い掛ける。


「上が俺達だけで捕まえるのが無理だと踏んで出した条件なら」


 周りからの協力無しで調査しろという条件。


 捕まえる訳がないと安心しきって出して来た条件なら。


「その条件の範囲内で行動しましょう」


 横に座る成川さんも野村さんと同じように怪訝そうな顔をして俺を見ている。大野さんと天音さんも一緒だ。


「条件の範囲内で行動して、俺達だけであいつらを捕まえるんです」


 俺はハッキリと言うと、周りの皆の目が大きく見開く。


 多分このまま見てみぬふりをしようと言うと思ってたんだろう。俺がハッキリと言うと、先程まで怪訝けげんそうに顔をしかめていた野村さんの表情も和やかになった。


「なるほど、危険に触れない程度にってか。それが一番利口なやり方って訳ね」


 沈黙を静かに破ったのは天音さんだった。


「良い考えだ」


 天音さんに、言われた。いいえとだけ笑って答えた。


 特別機関の意志も固まった。もう後戻りなんてするつもりの人なんていない。後悔したっていい。


 何をしてでもルナ、お前を捕まえる。絶対だ。それは大きな決意のように頭の中に山彦した。だが小さな振動は、そんな集中力も直ぐに途絶えさせる。


 ポケットの中では何かが小刻みに震えていた。


 俺は震える携帯を取り出して画面を見る。


 画面には、あるメッセージが表示されていた。


 誰だろう‥。手慣れた手つきで本文を開くと、誰だか分からない人からのメッセージだった。


 一つボタンを押すと本文が目に映る。


 ………?


 ガタン!!!


「ゆう、どうした!?」


 俺が勢いよく携帯を閉じた事から、大野さんが驚いた顔をしている。


「すみません。一旦帰ります」


 上着を手に取りながら言うと、皆驚いた顔でこちらを向いた。


「ボディーガードの家か?」


 隣から面倒臭そうな声が降って来る。


「はい。嫌な予感がするんです」


「ゆう。俺達も行くぞ」


 野村さんが静かに微笑んで言った。


 竜さんの言葉に続くように、大野さんもニヤリと笑って立ち上がる。天音さんは座ったままニッコリと笑らいかけてくれた。


「たくっ」


 成川さんも面倒臭さそうに呟く。


 そっか。もう一人で調査してる訳じゃないんだ。


「ありがとぉございます」


 俺は特別機関一同に頭を下げて、早足で事務所の出口に向かう。


 俺に続くように鳴り響く足跡は、なんだかとても力強く思えた。


「ゆう、さっきのメールは?」


 こっちに静かに寄って来た成川さんが低い声を漏らす。


「これです」


 俺は携帯をそのまま渡した。


見れば、本文が映るようになってる。


「これは…」


 成川さんが眉間にしわを寄せているのが分かる。


「急ごう」


 メールを覗いた大野さんが一言、呟いた。








┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

┃ひっかかったひっかかったひっかかった┃

┃ひっかかったひっかかったひっかかった┃

┃                  ┃

┃ゆりちゃんとあゆみちゃんが     ┃

┃                  ┃

┃ひっかかった。           ┃

┃                  ┃

┃ゆうくん。ありがとう        ┃

┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る