謎編 第ニ章

第18話 こんにちは



✕✕✕✕ side

──────────────────


「ねぇ、ルーカス」


「ルナか。なんだよ」


「ゆうくんたちの話し一向に進まないね?」


「イライラしてくるな。さっさとしろって」


「仕方ないけどね」


「オリバー、お前って短気だよな」


「うるせぇ。ルーカスにだけは言われたくねぇ」


「まぁまぁ。二人とも」


「たく」


「リアムは何してるの?」


「……………」


「寝てる」


「マテオ! お出掛けから戻って来たの?」


「あぁ」


「あいつらが話し合うなんて、どういう風の吹き回しだ?」


「全くだよねオリバー。どうせルーカスとかが何か言ったんじゃない?」


「ルナお前あたり」


「だってさ」


「ルーカス分かるよ。あいつらこうでも言わなきゃ、情報交換なんてしねぇもんな」


「珍しく意見があったなオリバー」


「一生に一度だな」


「まったくだ」


「なんだか」


「見ててもどかしいね?マテオ」


「あぁ」


「オリバーが焦るのも分かる」


「だろー!」


「あぁ。それにしても」


「ん?」


「あの成川とか言う男、案外勘が鋭いやつだ」


に気付くなんてな」


「ルーカス。一度どう?」


「何がだよ」


「皆に顔向けさ」


「このままじゃ」


「あぁ。一向に進まないだろうな」


「ルナたちの特徴とか話合われてもね」


「手っ取り早く皆の前に出た方よくね?」


「んー」


「リアム、おはよう」


「おはよ。出るのか?」


「ん?」


「やつらの前に」


「そうだな。手っ取り早いし」


「はいよ」




ーーー・・・

ーー・・

ー・




鈴木 ゆう side

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「やつらの…っ」


 野村さんが話を進めようと喋り始めが、何故か彼は驚いたように一瞬飛び上がり、足元を凝視して言葉を中断した。


「野村さんどうしたんすか?」


 俺は野村さんに向かって言った。


「…………」


 彼は足元を凝視するばかりで俺の返事を返すことはなかった。


 足元?土…?


 まさか、な。


 野村さんの異変もの問題かと思ったが、こんな都合良く起こる訳がない。


「あっつ‥」


 正面にいた天音さんが上着を脱ぎ始めた。


「天音さん…」


 天音さんは、火?


 今は夏だがクーラーの風は事務所中に行き届いている。


 少し寒さを感じるほどの温度は、周りが気にも止めないほど調度いい。


 先程まで、天音さんも野村さんも、普通だったのに。


 何かとても、何故かとても、嫌な予感がする。


…?」


 小さな"異変"は止まる事を知らない。


「………」


 大野さんは一筋の涙を溢した。


 彼は、頬に流れる涙を指で触り、まるで不思議なものを見るような目で直視していた。


 水?


 まさか。おい嘘だろ。


 バタン!


「………っ」


 大野さんに続くように、今度は隣にいた成川さんが椅子から凄い音を立てて倒れ落ちた。


「成川さん!」


 俺は成川さんに手を伸ばそうとしたが、呆気なく阻止される。


 ピリッッッ。


「いてッッ」

 

 これは…静電気だ。


 成川さんは痛みに顔を歪めて倒れている。


 不意に事務所の電気が消え、真っ暗になった。


「くそっ!!」


 隣から絞り出すような悪態が聞こえて来た。


 成川さんだ。


 彼は自分の体を抱きながら、異様な電気の流れに耐えていた。


「成川さん!」


 成川さんを気にしながら他の特別機関のメンバーを見ようとしたが、辺りは真っ暗で誰も目に映らなかった。


 なんなんだよ。これは。


 ゾクっ。


 全身に鳥肌が立った。鳥肌が立ったのは暗くなった辺りに怯えた訳ではなく、周りの異変の繰り返しに恐怖を感じた訳でもなかった。


 ただただ風が吹いて来る。氷のように、冷たい風が。


 寒さに体がガクガクと震え出した。


「さ、む」


 クソが。何がどうなってんだよふざけんなよ。


 自分の体に異変が起こった全員が、戸惑いと共にあることを確信付いている。


 来るんだ。あいつが。ルナが…。


「やつらが来る」


 絞り出すような声で、成川さんは必死に呟いた。



ーーー・・・




成川 陸 side

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「ふざけ…んな」


 絞り出すような声で懸命に訴える。


 体中が痛い。体を駆け巡る痛みは、喋るのにも体力がいるほどだった。


 前にもこんなことがあった気がする。オリバーと初めて会った時、何とも言えない痛みを覚えた。きっと痛みの原因は、体中を駆け巡る電流だ。


 自分の心臓がドクドクと音を立てているのが分かる。


「くそったれが」


 俺は先が見えない暗闇に一人悪態を吐いた。


 暗闇から一つの足音が聞こえる。


 音は段々と大きくなり、靴が目で確認出来るくらいの距離まで近付いた。


 俺の前に現れたはしゃがみながらこちらを静かに眺めている。


 体が言う事を聞かず、起き上がることも出来ない。


 しゃがみながら静かに見下されてるなんて。


「てめぇ…」


 これほど腹立つことはない。


「相変わらずだな」


 オリバーは静かに呟いた。


 不機嫌に漏れる彼の声は、まさに俺の心情に相応しい。


「うるせぇ」


 俺はいつものように、目の前の生意気なガキに悪態を吐いた。




ーーー・・・




野村 竜一 side

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 何時の間にか広がる、純白の真っ白な砂。


 白い砂は俺の足から溢れ出したかのように、円を描いて広がっていた。埋まっている足は動く事が出来ず、俺は静かに覚悟を決める。


 来る。あいつが来る。


「久しぶり」


 暗闇の中少年のような幼い声がした。


 声は後ろから聞こえて来たのは分かっているが、足が埋まっていて振り向くことが出来ない。


「どういうつもりだ」


 俺は正面を向きながら出来るだけ低い声を出して言った。


「何が」


 相手に怯む様子は微塵もなかった。


「会議したんだ」


 後ろにいたルーカスは喋りながら俺の見える範囲に足を進ませた。


 暗くても直ぐに彼だと分かる。真っ白な純白の髪は、闇の中に身を置いたとしても意味がないのだ。


「何で邪魔する?」


「邪魔?」


 幼さが残る顔は綺麗に整っている。まるで少女のような顔をしているが、体はガッシリとしていて男らしい。


 今の事態に似合わない満面の笑みは恐怖すら覚えた。


「話が進まねぇから。皆に自己紹介しに来たんだよ」


 少女のような顔をしたルーカスはニッコリと微笑んだ。


「ま、一歩前進だけど」


 ルーカスは遠くを見詰めながらポツリと呟いた。




ーーー・・・




天音 直樹 side

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  暑い。全裸になってもいいくらい暑いなんて考えるほど、体の体温は上がっていた。だけど、不思議と汗は出て来ない。


「いるんだろ。出てこい」


 俺は何も見えない暗闇に目を凝らしながら言った。


「そんな怒んな」


 暗闇は静かに返事を返して来た。


 目を凝らしながら見ていると、暗黒な闇に一つの赤い光が見える。赤い光は少しずつ近付いて来て、俺の目の前に来るとピタリと止まった。血のような真っ赤な髪の持ち主は無表情にこちらを見ている。


 眉一つ動かさない無表情さに背筋が熱くなるのを感じた。きっともし今俺が死んでも、彼の顔はピクリとも動かないだろう。


「何しに来たんだよ」


「さぁ。ルーカスに聞いてくれ」


 マテオはいつものように、無表情で、そしていつものように対して興味なさそうに答えた。


「ルーカス…?」


 ルーカスって確か、先程野村さんが言っていた犯人。


「野村竜一ってやつの」


 マテオはポツリと素っ気なく答えた。




ーーー・・・




大野 和 side

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 涙…?俺、泣いてる?どういうことだ。やつが来るのか?


 辺りは真っ暗で何も見えない。


 変な汗が掻いて来る。


「大丈夫?」


 苦笑混じりの軽い声が後ろから降って来た。


「な、お前」


 振り返ると、茶色に髪を揺らすチャラそうな男が一人立っていた。


「そんな驚くことなくね?」


 クスクスと笑って喋るリアムは、整った顔をくしゃりと崩した。


「何でこんな時に来るんだよ!」


 リアムが笑ってる事に苛だっていつものように怒る。


「仕方ねぇだろー?リーダーが言ったんだからよ」


「リーダー?」


「あールーカスね」


 リアムは頭をポリポリ掻きながら言った。


 ルーカス…大野さんが言ってたやつか。リアムのやつ、身内みたいに当然のように言った。やっぱりやつらは繋がってたんだ。


「今からおもしれぇことが始まるぞ?」


 リアムはまたも笑いながら言った。




ーーー・・・




鈴木 ゆう side

―――――――───────────


 これはなんだ…?隣の成川さんは倒れたまま何も話さない。他の特別機関の皆も誰一人声を上げていなかった。


 体は相変わらずガクガクと震えていたが、頭だけは正常に機能していた。


 皆どうしたんだろう。


 先程まで悪態を吐いていた成川さんは、無言で何も喋らない。真っ暗で成川さんの姿さえも確認出来なかった。


 まるで事務所に一人でいるような感覚に襲われて、背筋が更に冷えて来たのが分かる。


 寒さで、また体がブルッと震えて来た。


 なんなんだよってもうそれしか出てこねぇ。頭すら氷付いて来たのかもしれない。現に何がなんだか分からない。何で誰も喋らないんだよ。くそ。


「みんな今お喋り中だよ?」


「……!?」


 幼く可愛らしい声が耳元に響いた。


「ル…ナ」


 彼女の急な登場は毎度の事だったが、決して慣れることはなかった。


 今の問題はどうして事務所にいるのか、よりも、特別機関メンバーの事が気になっていた。


「お喋り中って?」


「会話が聞こえないように、遮断してるの」


 は…?


 遮断‥?


 全く意味が分からない。毎回思うけど、全然質問の答えになってねぇって。周りに声が漏れないように遮断してるって事か?


「…………」


 問い質そうとルナを横目で睨み付ける。


 だが、問い質した所で、きっと納得の行く答えなんて得られないんだ。


 視線を外して俺は下を向いた。


 聞けないのなら、只管ひたすら考えて、自分で答えを見付け出すしかない。って言っても、遮断してるんだよ、なんて言われて、どう頑張ったら理論が組み立てられるだろう。


 やっぱり聞くしかねぇな。


 ふとルナに顔を合わせると、彼女はニッコリと微笑んで「もう教えないよ?」と可愛らしく言った。


 マジでもういやだこいつ。


 暗闇の中もう一度彼女の顔を見る。表情からでもいい。何か読み取れないかと思ってじっと見てみた。どうにかしてこの状況を変えないと。


 彼女を視界に入れつつも、ただ魅了されるだけだった。まるで闇に光る真珠のようだ。


「ありがとお」


 俺の心を読んだルナは笑顔を崩さずに言った。


 俺はバツが悪くなり、彼女から直ぐに視線を逸らす。


 くそ。なんかムカつく。


 男が目の前でガクガク震えているのに、女は愛苦しい表情を固めて微笑んでいる。そんなルナの顔を見てわかったのは、まともな神経してねぇって事くらいか。


「てめぇ!」


「!?」


 隣から怒鳴り声が聞こえて来た。


 成川さんの声だ。


「オリバー、遮断解いじゃったんだね」


 ルナがまた意味分からないことを呟いている。


 オリバーって確か、成川さんの。


「さっさと電気つけろ!」


 成川さんは誰かに向かって怒鳴っているみたいだった。


「成川さん!」


「ゆう」


 成川さんはまだ倒れたままで、俺は起こすように彼の体を持ち上げた。


 ふと気付くと目の前で。しゃがんで見ている一人の男がいた。俺も成川さんを担ぐためにしゃがんだため、男と視線が目の前でぶつかった。



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