第13話 嫌悪


✕✕✕✕✕ side

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 ひかかった。




 ひかかった。




「ひっかかったな」


「うん」


 きっと、気付いてくれるだろう。見つけてくれるだろう。そしてを見つけた時、彼らは、絶望を味わうだろう。そのためなら、俺たちはなんだってするよ。


 ゆうも上手く乗っかってくれたみたいで、ルナも満足そうに微笑んでいる。


 ゆうは、ルナの罠に見事にひっかかった。もう逃げられない。いや、ルナがあいつを逃がさない。


 ルナ。


 流石さすがだよお前は。


 毎回毎回、ルナの心理的誘導は、何時だって皆の期待を裏切らない。


 動き出している。ルナもも、少しずつ動き出している。


 俺も行かなきゃならない。いつも面倒くさそうな顔をしていつも仕事をサボっているあいつの元へ。


 最後にはちゃんと辿たどり着かせるよ。結末ではなく、に。


 特別機関に選ばれた彼らなら、きっと期待通りの答えに辿り着くはずだ。


 俺もそろそろ…。


 なぁ、成川。呑気に寝てられるのも今のうちだけだ。


 俺は、静かに立ち上がった。


 しかめた眉は不機嫌そうな表情を作り出す。だが、攻撃的に光る目に対して、口元は笑いを噛み締めているように微笑んでいた。


 不機嫌そうにしかめた眉は、に対するものなのか。笑った口元は、に対するものなのか。その答えを知るただ一人の俺、オリバーは、暗闇に目を光らせながら、部屋から出て行った。





ーーー・・・

ーー・・

ー・





成川 陸 side

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 「あー面倒くせぇ」


 俺は、手に持ってた事件ファイルを机の上に投げた。


 毎回毎回同じような死体と睨めっこして、事件が起きたかと思えば、また同じような死体が転がっている。


 頭がおかしくなりそうだ。


「くそ」


 やり場のないいきどおりに悪態を吐き、食わえたタバコに火を付ける。


 ライターの炎を見つめた。


 何をやってんだ俺は。今やらなきゃいけねぇ事は、こんな事じゃない。そんな気がした。


 特別機関の全員が、もう気付き始めてる。今のままでは、一歩も進む事なんて出来ない事を。


 起こる事件を止める事も出来ず、ただ増えて行く死体を調査する毎日。やらなきゃいけない事は、こんな事じゃねぇ。こんなんじゃ進まねんだよ。


 「いって!」


 手に持っていたライターがピリッと静電気が起きた。派手な音を鳴らしながら、ライターは床に落ちる。床に落ちているライターに手を伸ばしたが、面倒臭いので、やっぱり拾わずにタバコを吹かすことにした。


 先程ライターと静電気が起きた手は今も尚小刻みに震えている。


 小さい頃から静電気が発生しやすい俺は、もう慣れっこと言うかなんと言うか。一番始めに連続殺人の高圧電流が流された死体を見た時は、流石さすがに寒気がした。でも、寒がりでいつもと言っているゆうを見たとき自分の体質もゆうの体質もあながち無関係ではなさそうなんて思ったりした。


 暗い事務所には俺だけ一人取り残されていた。


 誰もいない時はいつも一人サボってタバコを吹かしている。


 事務所は電気も光っておらず、真っ暗だった。


 別に停電になったとかではない。ただ、電気をつけんのが面倒臭いだけ。もうそろそろ暗闇にも目が慣れて来たところだ。先程まで後でつけなきゃなーって思ってたが、目慣れて来たし、このままでいいかななんて思って来た。


 自分でも、俺の面倒臭がりの性格は普通の人以上だと言うのは自覚している。だけど、やるべき事はやる。やるべきことさえ熟なしていれば、それ意外なんて適当でいいんだよ。

サボっているにしたって、考えるのは只管ひたすら事件のことだし。


「は」


 不意に声が漏れた。


 事務所の電気が一瞬光ったのだ。


 なんだ?


 暗くて見えなかったものが、一瞬だけクリアに映し出される。


 くそっ。折角せっかく暗さに目が慣れて来たのに。今の一瞬の明るさで目が血走った。


 周りがまた真っ暗になって何も見えなくなってしまった。でも不思議と、電気が一瞬光った事は疑問には思わなかった。


 電気がついた瞬間、反射的に浮かんだ人物の顔は、不機嫌そうな悲しい目をしていた。手を加えずとも、彼がいればまぶしいほどの電気の明かりが降り注ぐ。反対に、彼がいると、世の中の電気が一斉に消える事態にだってなりえる。そんな奴を俺は知っている。そいつが登場するとき、そのどちらかが起こる事も知っている。


 暗闇の中固く目を閉じる。誰かの声を待っているような、まるで何かに覚悟を決めているような、その両方を胸に秘め、只管ひたすら待った。


 品のある足音が静かに響き渡る。


 来たか。


「全く考えだけ鋭くて面倒臭がりなのも」


 ………。


「考えもんだよな―」


 暗闇に一人の男が映し出される。


 暗闇に目が慣れていないため、いつもの生意気なやつが見えない。


 見えるのは、感情のない不機嫌な瞳だけ。


「うるせぇよ」


 いつものように少年に悪態を吐き、睨むように見上げた。


「オリバー。何の用だ」


「おめぇがあんまり動かないもんだから」


 彼の眉がどんどん険しくなって行く。


「見に来てやったんだよ」


 言い終る前には不機嫌そうなしかめっ面になっていた。


 相変わらず感情の起伏が激しい野郎だ。何処の場面で不機嫌になったのか分かんねぇ。俺が面倒臭がって中々動かないからか。


 オリバーの鋭く光るその瞳は、いつもと変わらずに冷たい光を放っていた。同時に、金色に輝く髪が浮かび上がる。


 徐々に目が慣れて来た。暗闇に実現した男は、金髪の髪を揺らしながら、静かに眉を潜めていたのだった。


 オリバーの整った顔付きは、ゆうと良い勝負か、それ以上か。


「お前ってホストみてぇだよな」


 俺が言うと彼は


「………」


 ぶっきらぼうに苦笑した。


 彼が突然現れたことは、今はもう不思議でもなくなったし、問い詰める気もない。


 問い質すと彼は、の繰り返し。


 何を聞いてもはぐらかされる。なんて言われるのは分かっている事だから、俺はもうこいつには何も聞く事はなかった。聞いて逸らされんのも気分悪いしな。何より面倒くさい。


 オリバーについて、一つだけ分かることは、こいつは何かを知っている。それだけだった。


「成川、一つだけアドバイスくれてやるよ」


 オリバーはぶっきらぼうに言葉を投げる。


「あ?」


 俺は視線も合わせずに声だけで答えた。


「会ってるのは俺らだけじゃねぇよ?」


 …………。


 何?会ってるのは…?


 体は向かずに視線だけを投げつけた。


「みんな会ってんだよ」


「誰に」


「例えて言うなら、ゆう」


 ゆう?


 俺はゆっくりと体をオリバーの方に向ける。


 彼が何か大事な事を言おうとしている、それだけは分かる。


「氷の主にもう会ってる」


「な…」


 氷の主に─‥‥。


 犯人にだと?


 見開かれた俺の目を見たオリバーは、面白そうに眉を上げて見せた。だが口元は笑っているわけではなく、固いへの字に結ばれている。


「成川のそんな顔、久々に見たな。俺と始めて会った時以来だ。」


 俺はオリバーが喋っているのを余所に、別な事を考えていた。


 オリバーは、犯人に対してと言った。


「おまえら犯人か?」


 単刀直入に聞いてみた。だけど証拠がない。


「さぁな」


 彼はは馬鹿にしたように肩を上げて見せた。そして、またいつもの顰めっ面になって喋り出す。


「情報交換も大切だ」


「おめぇら特別機関は、関与しなさすぎ」


「そんなんじゃいつまでたっても、真実には辿り着けねぇ」


 不機嫌そうに顔をしかめて、彼は言った。


 彼はいつも、ヒントのようなものを言って去る。


 彼のヒントを聞けば聞くほどに犯人への…。オリバーへの疑いをより一層確信に変えて行くのだ。


 彼がもし犯人であるなら、確信が生まれるのはオリバーにとっては不利なはず。なのに、なんでお前はそんな堂々としてんだよ。


「その真実ってゃつを俺らに分からせて」


 きっとこいつが俺に求めてるのは、犯人だどうこうのことじゃなくて、もっと別のなんだろう。


「お前は俺に何を望む?」


 オリバーは事務所に来て初めて笑顔を見せた。


 眉はしかめたままで、まるで何かを企むような悪戯な笑顔。


「何を望む、ねぇ」


 彼はいつも、確信には触れて来ない。


 曖昧な言葉ばかりで、只管ヒントだけを送り付けて来る。


「成川だったら、それに気付くのも時間の問題じゃねぇか?」


 オリバーは肩を上げながら言った。


「お前は勘が鋭い。少しずつ確信に近付いてる」


 オリバーは言うと、今度は今日で一番の眉間にしわを寄せて特別機関の一人に悪態を吐いていた。当てまる人物は一人。それを聞くと、俺は思わず苦笑してた。


『担当が成川でよかった。女タラシで勘が鈍い若いにーちゃんなんて面倒くせーしね』


 そう言って彼は、悪戯混じりに笑って見せた。



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