第4話 僻事《ひがごと》




 丸く描いた真っ赤な絨毯じゅうたんは少しずつ範囲を広げて行く。


 見るも無残な姿で倒れているのは若い男。恐らく、俺と同じくらいだろうか。


 顔は識別出来ないほど形も残っていない。何かに殴られたように、顔が酷く腫れ上がっている。


 異様な死に方をしている死体は、赤い絨毯じゅうたんを広めていく血の一つとなっていた。


「───あ! ゆ…うさん」


 一人の警官が話し掛けて来た。


 警官の顔は真っ青だ。異様な光景に耐え切れず、胃の中の物を出してしまったというオチだろう。


「大丈夫かお前。あ?あぁ、またか」


「またですよ。体が凍っていて顔がない死体…」


 彼が伏目がちに言った。


 具合悪そうだ。まぁこんな死体を目の前にしたら当然か。それに臭いが…。


 辺りには、なんとも言えない悪臭が漂っていた。


 死体はいつもワンパターン。首から下が凍っており、顔は何かで殴られたのか、原形を留めていないほど腫れ上がっている。


 異様な死体は狂気を感じさせるもので、犯人の神経を想像すると、俺ですら具合が悪くなって来る。


 もっとましなやりかた出来ねぇもんか。

 

 過去事件数は25件。すべての遺体が、同じような死に方をしている。それはこの事件の共通を意味しており、犯人が一緒だと言うことも分かる。


 一人の単独の行動なのか、複数犯なのか、まだ何一つ分かっていない。


 俺はゆっくりとした足取りで、死体へと近付いて行った。先程の警官は死体へ向かう俺を、目で避けるように後ろを向く。


 くっせ…。死体は異様な匂いを漂わせていた。


 よくここまで出来るよな。毎回死体を目にするたびにと思う。何故犯人は、こんな酷い事が出来るのだろうと。動機は何なのだろうと。


 狂気的な快楽殺人なのか、何かの憎しみによるものなのか…。こういった異常な連続殺人は、人を殺す事の快楽を求め犯行を繰り返している場合が多い。もし憎しみや何だかの感情で犯行を行っているとしたら、そこには必ず理由が存在する。ただの快楽殺人だったら理由も何もねぇけど。だが、どんな理由にしても、人を殺す事の訳になんてならない。


 今までの被害者には、ちゃんと遺族も居れば、恋人もいた。何人が泣いて、何人の人生が狂ったか…。人一人いなくなると言うのは、多くの人の人生や精神的なものを壊すんだ。


 俺は遺族の泣く顔を沢山見て来た。だから思うんだよ。それだけはダメだって。人の心を傷付けても何してもいい。でも、殺しだけはダメなんだよ。他人の命を奪う…それだけは。どんな理由があろうと。


 ドタッドタッ!


 うるせぇな。人が考え事してんのに。


 死体から、音がする方向へ目線を移した誰かが廊下を猛スピードで走って来る。そいつが俺の前へ現れると、彼は息を切らして手を膝に付いていた。そいつは俺の部下にあたる、今野ってやつだ。部下っつーか…、が担当している死体を処理し、また死体が見つかれば俺たちに連絡をする仕事をしている男だ。


 死体処理が主な仕事のくせして今までいなかったけど、何かいい情報でも持って来たか。


「目撃情報入手しました!」


「え!?」


 周りの死体処理の人たちが驚いたように今野を視界に入れた。


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