第3話 出足



 今日は本当に嫌な事ばかりだ。変な夢を見た日はいつもついてない事ばかり。


「あー」


 ついやる気のない声が出てしまう。


 まぁ、毎回女で発散すると言うやり方が招く災難なんだけど…。


「おはようございます」


「おーす」


 事務所に着き、やる気の無い挨拶を交わしながら、今日も仕事に取り掛かる。


 死体の写真が貼ってある書類と睨めっこする毎日。


 俺、鈴木ゆうは、これでも警察官。未解決の事件を追っている。


 と呼ばれる、凶悪な犯罪者を任される五人の警官たち。異常な連続殺人犯、異国のテロリストなどが主な担当だろうか。


 国からの指示で担当する事件が降ろされるため、俺たちには、何でこの事件がこちらに回されているのかなど、何一つ知らされていない。


 である俺たちが通れば、社員も立ち止って敬礼をし、道を空けてくれるほどの権力はあるらしい。


 仕事場も最上階。たった五人のために作られた広すぎる事務所。


 俺はその五人の一人。21にして特別機関に抜擢された俺は、この事務所では先輩しかいない。


「浮かねー顔してねーで! ほらよー」


 隣の席に座っている大野おおのかずさんが、ニヤニヤしながら話し掛けて来た。


「なんすか。事件ですか?」


 俺はため息を吐きながら言った。


 大野さんが差し出す小さなメモ帳を手に取った。そこには、何処かの住所が書かれていた。


「あぁ、多分ゆう、お前が担当してるやつじゃねぇか?」


 また事件か。最近毎日ひっきりなしに起きている。


 俺の担当している事件は、連続殺人。今まで担当した事件はすでに20件を突破していた。


 大野さんから貰ったメモ帳を見た。事務所の近くだ。


 まぁ、行って見るしかないよな。


 上着を取り、事務所を出ようと足を進ませる。その時、異様に冷たい風が吹いてきた。たまに吹くこの風は、真夏の気温にも、俺に上着を離せなくさせる。


 鳥肌が、立つほどの、氷のような冷たい風が吹くんだ。


「今日寒いっすね」


 身震いした俺は、椅子に座って煙草を吸っている大宮さんに小さく言った。


「はぁ?あっちーよ…今夏だぞ!?」


 大野さんは目を丸くして俺を見た。


 風はまだ止まない。


「そうですけど…この風寒くないですか?エアコンか…」


「風?」


 大野さんがキョトンとした顔をする。


「風なんてなくねぇ?ここ室内だぞ?」


 少し怪訝そうな目つきで見られて…


「え……」


 俺も一瞬眉をしかめるが、さきほどの冷風は、何時の間にか止んでいた。


「そ…そうですよね! 暑さで感覚やられました」


 ごまかすように、苦笑混じりに笑って見せた。


「おお! 頼むぞ」


 違う…確かに吹いた。氷のように冷たい冷風が


「はい。じゃあ行って来ます」


 手を軽く上げて挨拶をした。


 俺は止まった足を進ませ、事務所を後にした。



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