幸福ならばそれでいい

みみみ

幸福と名を付けられるのならば

きちんと整理整頓がされホコリ一つなく、しっかりとコンセプトのまとまった美しい部屋。そこにポツリと白いベッドがあった。部屋の家具がブラウン系統の落ち着いた雰囲気で統一されている中で、病室にあるような真っ白なベッドが異彩を放っていた。

ベッドの上には白い肌と白い服、そして赤い首輪の男が一人。光沢感のある赤い首輪は男の肌によく映えた。男は純白のベッドの上で体育座りになって縮こまり、頻りに壁に掛けられた時計を気にする。部屋にはゲームも本も置かれているが、手を付けられた形跡は全く無い。男は外から聞こえる車の音に逐一反応をし、ベッドと同じ側の壁にある小さな小窓から外を覗く。窓の外、直ぐ側の道路を走るのは、例えば赤色のオープンカー、たとえば青色のミニバン、白色のトラック、黒色の軽自動車。そのどれもが男の望むものではなく、車を見るたびに男は小さく溜息を付く。ブゥン、と音を立てて車が走り去って行くのを男はいつも見ていた。

「はよ帰ってこいや…。」

男の独り言は部屋に沈む。男の言葉に答える人間も拾う人間も今は居るはずもなく、男は溜息を付くしか出来なかった。男は手持ち無沙汰を感じたのか、するりと自身の首に付けられた首輪を撫でる。革の感触を感じ、ふぅ、と光悦に息を付く。そしてもう一度首輪を撫でた。

首輪こそ何処にも繋がれてはいないが、男のいる部屋は外からしか鍵の開閉が出来ない。窓もベッドの横にある光の入りにくい小窓のみで、男が部屋の外から出ることは不可能に近かった。カレンダーの存在しないこの部屋は、彼がリモコンを持っているエアコンで、常に適温になるように管理されている。男はこの部屋で寒いと思ったことも無ければ暑いと思ったことも無い。部屋の雰囲気も男の好み通りで、男が好きだと言った物は部屋に全て詰まっていた。

ブゥン、と音が聞こえる。窓の外を覗くと灰色のセダン。男は瞳を輝かせ、お出迎えをしようと部屋の扉の前に向かった。

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幸福ならばそれでいい みみみ @mimimi___

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