ネタバラシ
「あっ、あめちゃんだ!」
「どこ行ってたんだ、あめ」
「…あめ」
駅のホーム。3人の声が聞こえてビクッとなる。気配消してたのに。今日は平和に一日が終わると思ったのに。
「あめちゃん、帰るの?一緒に帰ろー」
「あめ、俺の家に来るだろ?」
「…あめ」
テンション高く、俺の周りをくるくる回ってるのが陸。
偉そうなのが海。
俺の名前を呼ぶだけなのが空。
「用事あるんで…」
丁重にお断り申し上げるが、3人とも話を聞かない。
「そーなの?でも一緒に帰る!」
「俺とその用事と、どっちが大事なんだ?」
「…あめ」
3人組にガッチリ囲まれてしまった。どうしよう。どうやって撒こう。返事するのを止め、頭の中でシミュレーション。しかし、一方的な問いかけは続く。
「あめちゃん、これちょーおいしーよ。食べて食べてー」
「あめ、俺を食べてみるか?」
「…あめ」
前に、陸から開封済みのお菓子をもらって食った。そしたら、どえらいことになった。体の異変を感じ、トイレにこもって事なきを得たが…。あれは催淫剤的なものが入ってたと思う。怖い。
海の押しに負けて、一度だけ海の部屋に行ったことがある。どえらいことになりかけた。玄関でソッコー押し倒されて「童貞なんだろ?大人しくしてろ」と、乗っかられた。ベルトを外されたところで逃げた。もう二度と海の部屋には行くまい。怖い。
空はとにかく不気味。俺の名前を呼ぶだけ。それだけ。それしか聞いたことない。何を考えてるんだろう。怖い。
なんでか分からないけど、この3人は俺のことを好きなんだそうだ。怖いよ。知らないよ。何だよ。ただ大学の構内ですれ違っただけじゃないか。
3人はいつもつるんでて、大学では有名。美形で金持ちで人気者。
そんな3人組とすれ違っただけの俺。すれ違ったその日から、俺は付きまとわれるようになった。
と、そんなことを考えてる場合じゃない。逃げねば。
この日はとりあえず、全く用のない反対側の電車に駆け込み乗車することによって3人から逃げることに成功。
…ああ、疲れるなあ。
そんな、ほとほと困り果てていたある日。
大学構内で、3人が俺を見つける前に、俺が3人を見つけてしまった。3人は女の子たちに囲まれてた。あの3人、性格に難アリだけど、顔はすげーいいし、金持ち坊ちゃんだし…。モテるんだよな。
3人は興味なさそうにしてるけど、女の子たちは笑顔いっぱいキャーキャーくるくる取り囲んでる。
…ん?何だかデジャヴ。
女の子たちが3人組にキャーキャーくるくるしてる姿、あれは俺にまとわりついてる3人組そのものではないか?女の子たちはあの3人のように変じゃないだろうけど。
…もしかして?
俺は一つの可能性に辿り着いた。
あの3人組は、女の子たちを参考に、俺に嫌がらせをしてるだけ?そうだよ。きっとそうだ。だって俺はただ3人組とすれ違っただけなんだ。
きっとあの3人組は、からかいのターゲットを探してたんだ。それでたまたま歩いてた俺に目を付けたんだな、そうかそうか分かった分かった。
イケメン金持ち坊ちゃんたちの、おもしろターゲットだったんだね俺は。
それならば!
逃げることもあるまい。こっちから攻めて、奴らをビビらせてやろっと。
そんな風に、目からウロコが落ちてすぐ。
3人組が俺を見つけた。女の子たちを無視し、俺へと真っ直ぐ歩いてくる3人。
ははん。俺はもう分かってるから怖くないんだな。
「あめちゃーん!あめちゃんの家に行きたーい!行きたい行きたい!」
「あめ、俺の家に来い。今日こそ来い」
「…あめ」
今日の俺は一味違う。逃げも隠れもせぬ。
「俺の身体はひとつしかないから。じゃんけんでもくじ引きでもケンカでも、何でもいいからひとり決めて」
俺の言葉に、3人は顔を見合わせた。ネタバラシするのかな、と思いきや。
陸がふたりに問いかける。
「どうする?」
「俺は絶対にあめの童貞が欲しい」
海が怖い顔でふたりを牽制する。すると陸はしぶしぶ頷いた。
「しゃーないな。じゃあ、今日は海があめちゃんの童貞ね。で、そのあと二日間はまるっとオレにちょうだい。空はどうすんの?」
空はその問いかけに対し、済んだ瞳で答えた。
「あめのわんわんになる」
空の意思表示を初めて聞いた…とか思ってる場合じゃない。なんだと?しかし、陸も海も驚いた様子を見せない。
「じゃあ、オレのあとで首輪買ってもらえ。な?」
陸は簡単にそう言い、空はコクリと頷いた。事態についていけない俺の腕を、海が引っ張る。
「じゃあ、俺の家に帰るか」
「ちょっと待って。オレ、あめちゃんの家に行くから。あめちゃん、鍵ちょーだい」
ひいい、渡すわけねーだろ。ぶんぶん首を振るが、陸はヘラヘラ笑って「汚い部屋でも嫌いにならないから安心して!」と見当違いのことを言う。
俺がなおも首を横に振ると、横から空が口を開いた。
「ある」
空は自らのポケットから、一本の鍵を出した。俺のポケットじゃない。空のポケットだ。
「もー。空は油断ならないなー」
プンプンしつつ空から鍵を受け取る陸。それ、俺の家の鍵なの?何で持ってるの?
「もういいか?俺、我慢の限界」
海は焦るように俺を引っ張り、歩き出した。
え?まじで?違うよね?からかってるよね?途中でネタバラシしてくれるんだよね、ね?ね?
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