第三章 デコア王国
19. デコア王国入国
俺たちは朝から固焼きパンに薄味のポコと野菜のスープを食べて微妙な気持ちだ。
船の出発を待っている。国を挟んでいるのはクネスノク川で、幅が一キロメートルくらいある。
「アリス様。なんてお労しい格好なんでしょう」
「よい、気にするでないウサ。仕方がなかったウサ」
「せめて首輪を取ってあげたいところです」
「これは愛の印なのウサ。問題ないウサ」
アリスはギーナと別れを惜しんで会話中だ。
アリスは数少ない白兎で例のミニスカートの赤白の制服もどきなので非常に目立つ。周りの人たちが遠巻きに眺めてくる。
せめてアリスの格好をおとなしい物にしたいがこの格好が一番防御力が高い。
俺たちもライトプレートを着込んで冒険者風、というか冒険者そのものの格好をしている。
いつ何時、何に襲われるか分からないのが異世界である。
乗船時間になったようで先頭のほうが動き出した。一応ゲートのような所で警備隊の人が人相を確認している。ちなみに並んでいる人は俺たち以外みな人族だ。
俺たちの番になった。警備隊の人も驚いたようだが見て見ぬフリをして俺たちを通した。
俺たちの乗る船は中型船で五十人程度乗れそうだ。料金は前払い制で銀貨十五枚だった。
ギーナさんは離れた所からこっちを見ていた。
船が岸を離れる。帆も付いているのだがこの船はゴーレム船らしい。左右の水車のような装置が回転して前に進む力を得ている。
岸を離れてからすぐに、警備隊の人たちが一斉に手を振り始めた。どうも見た感じアリスの見送りだ。よく見ると、エルリル王女や偉い人も混ざっている。
「警備隊の人皆が見送りしてくれるみたいだぞ」
「はい。頑張って行ってきますウサ」
アリスも船の隅から手を振り返した。
船は深い青い水が流れている川を横断していく。
ほどなくして反対側に到着した。桟橋に接岸して人が下りていく。こちらにもゲートがあり人族がチェックをしている。
俺たちの番がくる。
「三人ともあなたの奴隷ですか?」
首輪には所有者の名前が魔法か何かで浮き出ているので見ればすぐ分かる。
「ずいぶん甲斐性があるんですね。身分証明書はありますか」
冒険者ギルドカードを差し出す。俺が横に置いてあった読み取り機にかざすとすぐにチェックされる。
「はい、結構です。行っていいです」
国境はすんなり通してくれた。こちら側も町になっているようだ。
道沿いに国旗が掲げられている。白い下地に緑の五芒星が三つ書かれている。
どうやって進もうか。乗合馬車か、荷馬車に相乗りさせてもらうか。最悪徒歩でも構わないができれば目立つので歩きたくない。
「お兄さん、お一ついかがですか。甘いですよ」
十歳ぐらいの少女の露天商が声を掛けてくる。オレンジ色の果物だ。確認したらミカンのようだ。セルフィールの硬貨で四つ買ってみんなに配る。ついでに馬車がありそうな商人ギルドの場所を尋ねる。
俺が皮の剥き方をみんなに見せてやる。
「甘くて少し酸味があって美味しいです」
「美味しいにゃ」
「ホクトについてくると新しい食べ物にありつけてよいウサ」
ミカンを食べながら歩く。皮を捨てるゴミ箱がないのでピーテに収納してもらう。
商人ギルドに着きさっそく馬車を確認する。乗合馬車は明日の朝の出発のようだ。まだ昼前なので暇過ぎる。
冒険者ギルドに今度は寄って、小中の魔力結晶をいくつか換金する。こちらはポルンという単位でいくつかの硬貨で構成されているようだ。硬貨とは別にギルドカードにチャージできる魔法による電子通貨もどきも利用できる。八割をカードに入れてもらった。女子三人にもいくらか分けて持たせる。
おすすめの食べ物屋さんを紹介してもらう。
目当ての食べ物屋を発見した。牛肉のステーキ屋だ。
俺たちは牛肉のステーキ、白パン、コンソメ風スープの昼食セットを頼む。
「お肉、美味しいにゃ」
「美味しいご飯が食べられて幸せウサ」
「良いご主人様に巡り合えてよかったです」
「ほんとウサ。ご飯にけち臭いこと言わない人で良かったウサ」
三人ともフォークとナイフを器用に使って黙々とお肉を食べる。牛肉は三〇〇グラムで塩、
白パンは異世界に来てから初めて食べた。ふわふわもっちりな感じの高級パンである。
獣人族の国では一日二食が普通で、お昼は休憩とおやつ程度。人族は一日三食が基本的な文化だそうだ。
アリスなんか平らだったお腹が少し膨れているのが見える。あとの二人は鎧でよく分からない。
「ぽんぽこりんだな」
お腹がいっぱいになったところで歩いて腹ごなしをしよう。
「なにしようか。明日の朝まで暇なんだが」
「町を隅から隅まで歩きましょう」
ということで、上流側の南のほうへ行く。
基本的に獣人族はこちら側へ来ないので、人族が向こう側へ行く。そのため商店もほとんど向こう側にあり、町の隅のほうは馬屋や倉庫が並んでいるだけになっている。
人族側も警備隊の人がたくさんいる。軽鎧を着た、剣や槍を持った人たちだ。
露店や出店、商店などを物色して回る。肉はさっき食べたので露店では買わない。
水あめの露店を見つけた。黄金色をしている。俺はお腹いっぱいなので、女子三人に買ってやる。
「甘くて美味しいにゃ」
他にはコマの露店や近くの村から来た野菜を販売する露店があった。
夕方になる直前に宿をぶらぶら探して決める。狙いは中流の宿だ。
「ツインの部屋二つですか? 申し訳ないのですが奴隷だけの部屋を取ることはできません。大部屋へ奴隷を入れるならできます。あとは馬屋です」
どうしようか。相談する。
「ダブルの部屋でみんなで一緒に寝ましょう」
「屋根さえあればなんでもいいにゃ」
「わたしもダブルでいいウサ」
夕ご飯は宿屋の食堂でとる。若干固い白パンにビーフシチューだ。牛肉と野菜のうまみがたっぷり出ていて、肉もほぐれて柔らかい。パンはダメだがシチューは良かった。
何となく成り行きで、みんなで一つのベッドで眠ることになった。
俺を挟んでピーテが右隣とソティが左隣に布団に入った。アリスが言う。
「じゃあ私は上で寝るウサ」
「上? それはちょっと」
俺の上に乗っかってくる。思ったより軽い。これならなんとか、いやしかし長時間はきついだろう。
「悪いけどピーテの向こう側で眠って」
俺はアリスをどかして四人で並んで眠った。ピーテとソティがくっ付いてくる。
「ホクトさんいつ私たちを食べてくれるんですか?」
「まだそういう気分じゃないので」
「ホクトは甲斐性なしにゃ」
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