14. フクベル迷宮(3)

 翌朝。朝食を食べた後神殿に向かう。

 用心を兼ねて迷宮装備のまま来ている。王都の神殿はポテポテ町のものより立派ではあったが、王宮ほどではなかった。石造りの白い建物だ。貴族街の中にあった。

 俺たちはあまり人がいない神殿の中に入り、祝福のお願いをした。


「私にも魔法が使えるかにゃ?」

「きっと何か一つくらいは使えると思います」

「どんな適性か楽しみウサ」


 付き添い可だったので、みんなで個室にお邪魔した。お金を銀貨四枚取られた。値段は変わらないようだ。アリスのフードは不敬にとられかねないので脱いだのだが、やはり巫女さんは少々驚いたようだ。ここの神殿の巫女さんはオレンジ色の兎人族だった。


 ソティの適性結果だが、着火、ライト、清潔は適性あり。収納は適性なしだった。普通といえば普通らしい。


 馬車を待たせてあるので、馬車に乗り込み迷宮に向かう。


 今日の迷宮は四階層へと向かう。と言っても四階層へは一階層から十階層まで下りれる非常階段みたいな場所があるのでそこを通っていく。


「なあ、俺たち割合戦闘は楽に進めてるけど、こういうものなの?」

「いいや。普通はコボルト相手でももっと時間も掛かるし危なっかしいウサ」

「お城の騎士たちとかでも?」

「騎士がコボルトごときに負けはしないウサがサクサク倒せるわけではないウサ」

「大陸ガニいないかにゃ。カニ食べたいにゃ」

「カニは五層だウサ。待っておれすぐウサ」


 四層は普通の土の洞窟だった。いや、別に変な迷宮を求めてる訳ではない。

 魔物はゴブリンで、一二〇センチの背丈に、茶色が混ざった緑色、いわゆるヨモギ色の肌だ。髪の毛がない。

 最初のゴブリンは三匹だった。どいつもぼろいびた剣や盾を装備している。鎧は着ていなくてボロ布をまとっている。

 二匹が前で一匹が後衛のようだ。俺とソティは前衛の二匹と対峙たいじして剣を交える。俺と戦っているゴブリンは、防御に徹しているようで俺が剣を振ると、剣と盾を使って防御してくる。

 ピーテは俺の横から攻撃しているが、盾持ちの防御を抜けないでいる。


「こいつ、わりと強いぞ。アリス魔法でやっつけてしまおう」

「了解」


 アリスが杖を構えて集中を始める。アリスの魔力はかなりあるが連戦だと厳しいので、なるべくなら温存しておきたい。

 しかしゴブリン側が先に動いた。


「メリ アケル ホリフレイ」


 後衛のゴブリンが謎言語を発して、アリスに雷撃魔法を打ち込んできた。


「きゃっ!」


 アリスは短く叫んで、しゃがみこんでしまったのがちらっと見えた。


「大丈夫?」

「あ、うん。何ともないウサ。何とか防御幕で防いだウサ。ちょっとピリっと来たウサ」

「私反対側に回って、後ろの奴叩きます」


 それを見てピーテが剣を構えて二匹の間を突っ込んでいく。

 うまくすり抜けて反対側に出て後衛ゴブリン、いやゴブリン・メイジとでも呼ぼう。そいつと対峙する。

 俺は一対一になったので少し不安になった。しかし相手はまだ防御主体の戦略らしく、向こうからは斬り掛かってこない。正直助かった。


「お返しするウサ。サンダー・ボルト!」


 アリスの雷が三匹共に命中する。前回の雷より音が大きい。おそらく威力も強いのだろう。

 ゴブリンは全員倒れてピクリとも動かなくなった。少し焦げて煙が出ている。倒したようだ。念のため首を切断しておく。

 剣士の三人が胸の辺りにある魔力結晶を取り出す作業をする。


「ゴブリン・メイジなんて初めて見たウサ。さすがの私もびっくりウサ」


 俺もアリスがやられたかと思って心臓に悪かった。念のためピーテがヒールをアリスに掛けてやる。髪の毛が縮れたりしていたところが治ったようだ。


「温かい。ありがとうウサ」


「見た目じゃ違いがないから厄介だな。他にもいるのかな」

「ホクトはレア魔物の引きが強過ぎるにゃ」

「え、俺のせい?」

「ホクトさんのせいにきまっています」

「ホクトのせいウサ」


 全会一致で俺のせいらしい。なんでだ。


「面倒はいやだな。さっさと五層に移動しよう」


 五層への下り坂は近くにあるらしい。すぐに五層へ着いた。そこはまたしても草地だが、ちょくちょく長い草も生えていて見通しが悪い。ポテポテ町周辺みたいな感じだった。


 案の定、まずはスタンダード・グラスホッパー通称バッタが出てきた。


「バッタさんチュース。おひさっス」

「バカ言ってないで、やっつけてくださいです」


 俺が正面を取り、ソティが右側から足を折りに掛かる。すぐにバッタは後ろ足を折られてジャンプできなくなった。

 動きが鈍ったところでそのままソティがロングソードの長さを生かして首を上段斬りで斬り落とした。


「バッタの後ろ足って魔物の剣とかにできないの?」

「できるウサ。地方では買い取っていないみたいウサ、でも王都では買い取り対象ウサ」


 ちょうどショートソードにいい長さだ。ピーテに持ってってもらおう。


「あと下の階層のほうが敵が強いとは限らない?」

「多少は前後するウサ。相性もあるウサ」


 その後無事に巨大陸カニも出てきた。巨大だし爪攻撃も強い。俺は途中で擦り剥いてしまった。

 ソティがまたロングソードのリーチを生かして口のあたりを突き破っていた。


「カニ、カッニッ、カニカニカニ」


 ソティが勝利の歌を歌っていた。即興だったろうに、以前のをよく覚えているな。そういう俺もなぜか覚えてしまっていた。

 擦り傷はアリスのヒールで治してもらった。回復魔法は自分で使うより、他人に掛けたほうが良いとされているそうだ。なぜなのかは分からない。


「今日はカニパスタにしてもらいましょうか」


 この後はバッタとカニと十回ほど戦闘した。アイアンマイマイとも再会した。


 また帰りに中央広場でエイマンがジャグリングをしていた。


「エイマンさん、どんな噂集めているの?」

「それはまだ秘密です」

「そうですか」


 エイマンは秘密だという。というか「まだ」って言った。そのうち教えてくれるだろう。

 秘密とか言われると気になってしまうな。ありがちなのは国家転覆を狙ったクーデターとかか。でもその噂を公園で集めるとは思えない。


「アリス、何か知ってるか?」

「いいえ。私も知らないウサ」


 俺たちは夕方になるまでの残り時間で今日も魔法の練習をする。今日はアイス・アロー、ウォーター・アローを覚えた。水矢は当たっても痛いだけかと思ったが違うらしい。物質としての水よりも魔力的な拘束が掛かっていることが重要なようだ。


「それにしても、ホクトの魔法適性は本当に驚異的だウサ。どっか頭がおかしいのかもしれないウサ」


 褒められているのか、けなされているのか。それが問題だ。アリスの顔を見ると嬉しそうなので褒めているんだろう。


「ところでホクトは収納をいつ覚えるにゃ?」

「ああ、うん。それは適性がないみたいだ。あきらめる」


 なぜか収納魔法はうまくできない。ピーテ、アリスがピンチの時に荷物が全部なくて俺が動けないと困るので、俺はいまだに分割した物資を荷物袋に入れて背負っている。二人もいるので大丈夫そうだが、俺は心配性なのだろうか。


 今日の晩ご飯は、五日ぶりのカニパスタに茹でカニ、サラダなどだ。

 カニのおかげで特にソティがご機嫌である。


「こんな美味しい食事ばかりだと、もうお家へ帰れないにゃ」


 そういえば、ソティは王都まではついてくるとは言っていたけど、その後の予定を聞いていない。王都なら仲間になってくれる人も見つかりそうだし、無理に東国へ連れて行かなくてもいいと思う。


「で、ソティはどうする?」

「ずっとアリスとピーテと一緒に行くにゃ。ご飯美味しいにゃ」


 あれ、俺ではなくてアリスたちと一緒にいたいのかな。俺はそれでもいいけど、ポテチをご馳走したし、ピーテもどこまでついてくるか不明だった。


「じゃあ、ピーテはどうする?」

「私はホクトが東国へ行くなら一緒についていきたいです」

「なんでか聞いていい?」

「もっともっと色々なこと色々な料理を見たいんです」

「そういうなら止めないけど」

「それに……ホクトが一人だと可哀想です」


 そっか、俺、異国から一人で飛ばされてきたんだっけな。ずっとピーテたちがいたから、むしろ日本にいた時より寂しくないくらいだった。


「じゃあ、二人ともこれからもよろしく」

「む! 私はもうポイなのウサ?」


 アリスがむくれて、頬っぺたを膨らませて怒ったぞのポーズをする。アリスは城に帰ってきたので、俺はそのまま城に留まるのかと思っていた。

 俺は指先でアリスの頬っぺたをつついた。アリスは俺がつついたので口から空気を吐き出しながらアヒル口を作って見せる。


「あれ、アリスも二人と一緒に行きたいの?」

「私だって、『ホクト』の仲間の一人のつもりウサ」

「国王が許してくれるかな?」

「私はいつも城にいなくてフラフラしてるから平気なはずウサ。それにパーティーには火力が必要ウサ」

「それじゃあ、よろしく頼むよ、アリス王女様」


 アリスは今度は得意げな感じの笑顔になって小声でいう。


「くるしゅうないウサ」


 まだ少し先だが何故か三人とも東国へついてくることになりそうだ。俺は風呂に入りながら、今頃になって嬉しいやら恥ずかしい気持ちになってきた。


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