13. フクベル迷宮(2)
今日も朝から迷宮探索だ。昨日の探索で俺たちは全員がギルドランクCになった。アリスは元からCだったがまだそのままのようだ。
迷宮に入るなりアリスが提案してくる。
「今日は二層のポコ牧場に行ってみようウサ」
一層を軽く数戦して二層にたどり着いた。ピーテの感覚とアリスの正確なマッピングであまり戦わずに進める。
二層は大部屋だった。一層と同じで天井が明るく、地面に背の低い草がまんべんなく生えている。羊が所々でその草を食んでいた。
「白い羊がいるみたいだが」
「あれが魔物ポコよ。近づくと立って襲ってくるウサ」
ポコは羊だった。羊のうち半分には湾曲した角が一対ついている。きっとオスなのだろう。ジャーキーとかいくつかの料理を食べてきたが日本で羊を食べたことがなかったので分からなかったのだ。まあ味も同じとは限らないが。
普通の羊は群れるが、ここのポコはバラバラに食事中だ。とりあえず一匹だけ離れているオスのポコに近づく。
「メェ~メェ~」
二本足で立ちあがって鳴きながら走ってきた。ほう。二本足で走れるのか。
そのまま突っ込んできて、俺にパンチを食らわそうとする。とりあえず盾で防ぐ。手も
ポコはまるでカンガルー・ボクサーのようだった。パンチを左右交互にお見舞いしてくる。俺はまだ盾で防いで様子を見る。
「弱点は足ウサ。魔法はなぜかあまり効かないウサ」
ソティが長剣でポコの足を狙う。ポコは一撃目はジャンプして避けたが、二撃目を受けて一鳴きして倒れた。のっそり四本足で起き上がったが後ろ足を引きずっている。
ポコは頭を下げて、角による攻撃に切り替えてきた。
角の攻撃は衝撃がすごそうなので、俺は左に避けた。
俺は避けたので、ピーテとアリスの方へポコが向かった。アリスが慌てて杖でポコの頭をポコポコ殴る。
アリスは四撃目に力いっぱい殴りつけた。ポコは倒れる。そこをピーテが首を斬りつけて終わらせた。
「一匹ずつなら楽ウサ。いっぱいいると囲まれて困るウサ」
俺はピーテとソティの解体作業を眺めながら考える。
どうしたものだろうか。俺はゲーム的考えのもと一つの提案をした。それはまず小石を拾い、ポコに当てる。怒ったポコは一匹でこちらに向かってくるので、そこを迎え撃つという戦法だ。
解体が終わった。毛、皮、肉、魔力結晶、骨などのガラを分けてピーテが収納する。
さっそく実践しよう。しかし小石が見当たらない。
俺は魔法で氷を作ってそれを投げる改良案を思いついた。
さっそく試してみる。氷生成、
今度はソティが正面で相手をしている間にピーテが横腹に一撃入れた。ポコは痛がって倒れてしまった。さらにピーテが追い打ちを掛けて急所を斬り裂いて絶命させる。
また氷を生成して投擲する。外れた。再度氷を作る。これ手が冷たいという欠点があるな。
とりあえず流れ作業のように、十二匹を仕留めていったん終わる。大量に持ち込んでもポコを買い取ってもらえない懸念があるからだ。
二匹分のお肉はお城へ持ち帰ろう。きっとうまい料理にしてくれる。
そのまま草原を横断して次の階層に進んだ。ゆっくり移動するとポコたちは襲ってくるということはなく、微妙に距離を取って遠巻きに見てくる。
次の三階層はキノコの楽園だった。
広葉樹の森がありその地面に一センチから五十センチまでのキノコがいたるところに生えている。
「キノコはたくさんあるウサが、どれが食べられるか私は知らないウサ」
「食べられるのもあるのか」
「美味しそうですにゃ」
色も白、黄色、赤、茶色などがある。形も傘があるもの、エリンギ風のもの、その他変な形のものがある。
魔物もキノコだった。まずはブラウン・マッシュルーム。形はシイタケ風。一メートル半の大きさ。こいつは上下にバウンドしながら移動してくる。茎で立つのは不安定だと思うのだがファンタジーなので関係ないようだ。手と目と口も付いている。
「頭を叩かないでくださいウサ。胞子が飛び散るウサ」
「分かった」
俺は横斬りで胴体を狙う。一発で切れてしまった。落ちた頭から少し胞子が飛ぶ。
「げほげほ。むせる」
結晶だけ取り出して後は捨てる。
その後も茶キノコが一匹、五匹、三匹、二匹と団体で出てきたが、剣士の三人ですべて斬り捨てた。
「なんか暇じゃウサ」
「このフロアには他の魔物はいないのか?」
「茶色以外に上位種の白とピンクがいるウサ。ピンクはレアじゃが睡眠使いウサ」
さらに茶キノコ四匹を倒した後、白が二匹でピンクが一匹が同時に現れた。
「ここは魔法で一撃にしよう。アリス頼んだ」
「分かったウサ。ファイヤー・アロー」
後方のアリスが火矢の魔法を三つ同時に発射して三匹に命中してやっつけたようだ。
しかし何だか眠くなってきた。意識を保っていられない。おやすみなさい。
「やっと起きたウサ」
俺はやっと目が覚めた。剣士三人はそろって眠りこけてしまっていた。ピンクまじ恐ろしい。
「どれぐらい寝ていた?」
「半時ほどじゃウサ。そりゃもうぐうぐうとウサ。よだれまで垂らしてウサ」
「そりゃ失礼。アリスは?」
「私は起きてたので一人で護衛をしていたウサ」
「大丈夫だった?」
「皆もう眠ったまま二度と起きないかと思って心配したウサ」
アリスはちょっと涙目になっている。俺はよしよしと頭を撫でてやる。アリスは俺にすり寄ってきた。
周りには放置された茶キノコが五匹転がっている。眠っている間にアリスが一人で倒したのだろう。全員眠っていたら大変なことになっていた。
アリスによると兎人族は魔法だけでなく魔法耐性も強く、状態異常になりにくいのだそうだ。
皆でキノコの結晶を回収する。
「この残ったキノコの残骸とかどうなるんだろう」
「他の魔物が来て食べるという噂ウサ。でも目撃したという話は聞かないウサ」
ポコの解体と睡眠で結構な時間が掛かったようなので、この日の探索はこれで引きあげるようにした。
帰りは迎えの馬車などないので歩いて帰る。途中で中央広場を通過する。
そこでは一匹の灰色の兎人族の男が棒の先が膨らんでいるタイプのジャグリングをしていた。周りには俺たちしかいない。
「異国の人族のお兄さん一行、見ていってよ」
「兎人族のピエロなど珍しいと思えば、エイマンではないかウサ」
「私をご存知かな、フードのお嬢さん」
「なに、私だウサ」
「姫様じゃないですか」
アリスが、フードを少し上げて顔だけ見せる。どうやら知り合いのようだ。
小声でピエロをしている訳を教えてくれた。エイマンは王宮勤務で最近きな臭い噂がいくつかあるようで、公園で情報収集をしているという。姫様も気を付けるように言われた。どんな噂かは話さなかった。
王宮に戻ると、王から手紙が届いていた。内容は以下の通りだ。
ポテトチップスはうまかった。フライドポテトもうまかった。今度は王宮の料理人に作ってもらう。ホクトには他の味や違う料理をぜひ教えてほしい。
やっぱり王様は食い意地が張っていた。でも会いに来ないで手紙にするところが、忙しさを物語っていて切ない。
てっきり、きな臭い話かと思ったが拍子抜けだった。
俺はこの日、サンダー・ボルトを習得した。これで火水氷土風の基礎魔法を習得したことになる。色々な属性をまんべんなく使える人は稀らしい。でも師匠であるアリスもちゃっかり使えるのですごい。
ピーテは生活魔法の他に湯沸かしができていたが追加でヒールを覚えた。
ソティは祝福をしてもらっていないので、生活魔法も使えない。他の魔法もからきしダメだ。
「あたし魔法の才能ないにゃ。もっとカニを食べる必要があるにゃ」
ソティはなんだか分からない理由でカニの催促をしていた。明日は王都の神殿で祝福をしてもらって来ようと思う。
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