9. 王都への道

 翌朝過ぎ、ソティと合流して商人ギルド前に向かう。旅商人ギーナさんの姿が見える。今日は帯刀しているようだ。

 ギーナさんに連れられて、馬車小屋がある大きめの宿屋に向かった。

 そこにはすでにアルパカの幌馬車の準備ができていた。俺たち三人は後ろの荷台に乗り込む。中は良い匂いのリンゴが詰まっている箱がたくさんと、黒のフード付きローブを被った人が一人奥に座っていた。ぽつりと一言だけしゃべった。


「よろしく」


「ああ、こちらこそよろしく」

「よろしくおねがいします」

「よろしくにゃ」


 俺たちもそれぞれ挨拶をする。彼女はそれだけ言うと反対側を向いてしまった。


「なんか愛想がよくないにゃ。そういうのよくないにゃ」

「まあまあ」


 ソティが小声で文句を言っている。俺はローブの彼女が話し相手がほしいはずなのに、あまり会話をしたくなさそうな所は若干疑問だったが、話をたくさんしなくて済むのは楽だな位に思った。


 馬車は四台の隊列になって進んだ。俺たちの馬車以外は、普通に馬が引いている馬車だ。俺たちの馬車は先頭から二台目。一台目に護衛を載せているようだ。


 俺たち三人は若干小さめの声で、ぽつぽつ会話をする。


「ポテチはいつ頃作ってくれるのでしょうか」

「ジャガイモがあればすぐ作れるよ」

「油は、オリーブ油というのでいいんですよね」

「うん。味はまずは塩味だな。コンソメ味は難しい」

「塩味も楽しみです。早く食べたいです」

「あたしも楽しみにゃ」


 ローブの彼女が、うつむきぎみでこっちを向いて聞いてくる。


「ポテチというのはなんなのウサ」

「ポテトチップスといって、ジャガイモを薄く切った物を熱した油で揚げたものだよ」

「ほう。それは美味しいのウサ?」

「ええ、俺は好きですよ。ピーテも好きですね」

わらわも食べてみたいのウサ」


 俺は、どうしても聞きたくなったので確認してみる。


「ところでお嬢様、もしかして、ウサギ族なのですか?」

「ひゃ! な、なんで分かるのウサか」

「だって、『ウサ』って付いているし」

「それで分かるのウサか」

「俺の世界では常識だ」

「しくじったウサ」


 しぶしぶという感じでローブのフードを脱いでくれる。可愛い系の美少女で、肌は白い、長い髪の毛も白く、眼だけが赤い。吸い込まれそうな深い赤だ。もちろん、頭には長いウサ耳が付いている。


「にゃ。白い兎人族うさぎひとぞくは、王家の印にゃ。魔法の才能に優れていて、とっても強いにゃ。初めて見るにゃ。可愛いにゃ」

「かわいいウサ?」

「うん、とっても可愛いよ」


 可愛さをほめると、少女らしさの優しい笑みを返してくれる。天使だ。ウサギの天使ちゃんだ。きっと後ろには真っ白な翼を隠しているに違いない。

 俺が、感動して見つめていると、小首を傾げて見つめ返してくれる。さらに天使度が上がった。

 なぜか隣のピーテが俺のお尻を捻ってきた。い、痛い。


「そ、それで、ポテチなのウサ」


 お嬢様はポテチの詳細を聞いてきた。俺は、色々な味がある事、サクサクしてうまいことなどを話した。そして王宮に着いたら、ジャガイモと油を確保してくれることになった。


「お嬢様、それでお名前は?」

「ウサ子、十九歳でウサ」

「嘘は良くないな。もうばれてるんだから真実を」

「うむ。わかったウサ」


 ウサ子は、ローブを脱いで膝立ちになる。


「アリス・ルーベルト・セルフィール、第三王女。十五歳でウサ」

「はい、よくできました」


 スカートの端をちょこんと持って広げて頭を下げる。可愛い。しかも格好が赤と白でできた上着に、赤のチェックのプリーツのミニスカート、そして白いニーソックスである。

 現代風とは少し違うがなんだろうこれ。ちなみに、どことは言わないがぺったんこだった。


 また、ローブを羽織って前を締めた。ただしフードは被らない。

 その後は約束通り色々な事を話す。最初は静かだったのが嘘のようだ。人見知りをしていたらしい。

 あの格好は防御力的にどうかと思ったが、霊糸という特殊な糸でできていて、魔力を込めると、魔力の幕のようなものを外側に展開して防御できるため、魔法・物理両方とも普通の鉄鎧よりも高い防御力を誇るそうだ。


 アリスと民主主義や議会制について話す。この国だけでなくこの世界では、王国がほとんどで議会も元老院のようなものはあるものの、市民の代表が集まったりすることは皆無だそうだ。


「王が右へと言ったら軍は右へ動く。迅速に決めねば戦争に負けてしまうウサ」


 確かに戦争などをやっている場合は、議会でぐだぐだ決めている時間はないだろう。そういう世界では民主主義はあまり有効ではないかもしれない。

 宗教について聞いてみたが、東邦は分からないがこの辺の国では神殿で聖サルクが信奉されているものの、あまり権力は持っておらず、病院と孤児院と冠婚葬祭、例の祝福をするだけのようだ。大きい街では病院と孤児院は別の組織になっているそうだ。


 魔法についても聞いてみた。なにやら難しいことをぶつぶつしゃべりだしたので、要点だけを頼むとお願いした。


「生活魔法には、ライトの魔法もあるウサ」


 そう言って光の玉を出して見せるアリス。空中に玉が浮いている。俺も試してみたら、あらびっくり。でかい光の玉が出来てまぶしくて皆に非難された。


「攻撃・回復魔法は学院の管轄ウサ。私は飛び級で魔法科をすでに卒業したウサ」

「俺は学校って年齢でもないので、他を当たりたいんだが」

「なら、私が道中教えてあげるウサ」


 アリスはかなり優秀な生徒だったようだ。念願の魔法がついに俺の物に。


「それで今はお忍びで国内を回ってばかりいるウサが、これももう飽きたウサ。どこへ行っても似たような景色ウサ」


 そういいながら、収納魔法で出したポコジャーキーをモグモグ食べている。俺たちにも分けてくれる。以前貰ったものと違い胡椒こしょうが効いている高級品だ。


「まさか収納の中、全部ポコジャーキーじゃないよな」

「まさかまさか、ちゃんとロッドをしまってあるウサ」

「ロッド以外は?」

「ジャーキーを中心に小物を少々しまってあるウサ」


 一通りしゃべり終わると、俺たちの魔法の練習を始めた。

 まずは回復魔法だ。俺はライトの魔法からすると、魔法の才能はあるほうだそうだ。

 俺は特にケガをしていないが、俺に回復魔法を掛けてくれる。アリスは俺に向かって両手をかざし目をつぶる。俺はほんのり体全体が暖かくなった。連日の訓練の疲れが取れたような清々しい気持ちになった。


「ヒールよ。お手本は見せたウサ。妾に向かって同じことをしてみるウサ」


 俺はアリスに向かって両手をかざし、両手の先から癒しパワーをアリスの全体に向かって放出するイメージをする。


「ヒ、ヒール」


 魔法名を発してイメージを強化する。しかし特に何も感じない。


「もう一回、ヒール!」


 しかし、うまくいかない。さらに五回連続でやってみると、手の先に集まっていた魔力が自分の体から抜けていく感じがした。


「おお、暖かい。気持ちいいウサ。たぶん成功ウサ。人族のくせに呑み込みが早いウサ」


 お手本を見たからか、俺はすぐにヒールらしき魔法を習得した。


「ホクトさん、私にもヒール掛けてください」

「ホクト、あたしにもヒールを掛けてにゃ」

「はいはい」


 ピーテ、ソティにそれぞれヒールを掛けてやる。


「おー暖かくて、すっきりしました」

「ぽかぽかにゃ。気持ちいいにゃ」

「ちなみに、魔力を消耗するとどうなるんだ?」

「すっごく眠くなり、すぐ寝てしまうウサ。でもその前に減ってきたのが感覚でわかるウサ」


 俺の魔力はまだまだありそうだ。あと二十回は楽勝な感じである。ピーテとソティも練習したがうまくいかないようだ。

 たまに休憩をはさみつつ夕方には次の村に到着した。今日は村の宿で一泊の予定だ。ここは主要街道なので、だいたいは馬車で一日の距離ごとに村か町があるそうだ。

 この日の宿屋はアリスはギーナさんと、俺たちは三人で一部屋だ。ツインの部屋でピーテとソティが同じベッドで眠ることになった。

 この日の夕食は宿屋の食堂で、固焼き黒パンにポコ肉のスープ煮込み、一切れのチーズだった。アリスが主人だからといって豪華な食事というわけではなく、普通に同じものを一緒のテーブルで食べた。


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